表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の体験入部/十路編
333/640

000_1200 魔犬、起動Ⅴ ~ボートプラザコーポレーション「オートバイ/ATB積載トレーラー」~


 それで事態が終わったわけではない。


『ライダーブレイクするなんて……おニューの制服がダメになるかと思いました……』

「俺たちは『スタイリッシュ八つ裂き()き逃げ』って呼んでたけど」

『や、私が言いたいのは、技名じゃなくてですね……ってゆーか、名前長いです』

「滅多に使う手段じゃないからな」


 合わせて術式(プログラム)《Aerodynamics caul(空力学風防)》を実行していたので、体当たりで蹂躙(じゅうりん)したにも関わらず、虫の破片や体液は風でいなされて、体には全く触れなかった。

 代わりというわけではないが、十路は服を汗で汚す羽目になっていた。無線越しの樹里のセリフに平坦なボケをカマし、緊張感を誤魔化しながら作業していた。


【で。あなたはなにしてるんでしょうか?】


 英語を使っていたイクセスは、機械らしい怜悧な印象だった。しかし耳慣れた言語に変わると人間味に溢れ、《使い魔(ファミリア)》としては逆に不自然にも思える若い女性の声となった。年齢の印象はずいぶんと十路たちに近づいた。


【目が覚めたと思ったら、貨物列車の上。なんの説明もなく《魔法》を使う羽目になった意味不明な状況を、多少なりとも説明してもらえません? 私はまだ生後一〇分ですけど、これが相当な異常事態というのは、理解できるのですけど?】


 なんというか、小うるさかった。この時の十路は、『後にしろ』と若干イラっとした。


「俺たちが列車に乗ってる理由は、話が長くなるから端折(はしょ)るぞ」


 だがもっともな話であり、イクセスの協力も必要であるため、作業の手を止めることなく情報提供した。


「上り方面に走るこの列車には、爆弾が仕掛けられている。全部調べたわけじゃないが、一両につき四セット。取り外そうとしたり、停車ないし減速したら、爆発する仕組みになっていると予想。もっと少ないかもしれないが、推定爆薬量は一〇トン」

【そんな列車に敵対勢力の人員が乗っている理由は、どうせロクなものではないでしょうから、助けるんですか?】

「……この状況を見て、その言葉が出てくるお前が、ちょっとすごいと思った」


 十路は、フリング社Sセクションの工作員たちを、縛り上げたのだから。しかもただロープで拘束するだけでは済まず、トラップを作るために空間制御コンテナ(アイテムボックス)に入れていた滑車とワイヤーを使い、コンテナに穴を開けて通し、ワイヤーを溶接していた。つまり工作員たちは、コンテナの中で宙吊り状態になっている。

 そんな場面を直に見ていれば、状況を聞いても常人の慣性では、『助ける』という発想には繋がらないだろう。

 しかも機械がともなれば、尚更に。『察しのよさ』が並の人間以上なのだから、どれほど高性能な《使い魔(ファミリア)》なのか、もはや呆れてくる。


【敵対勢力を制圧したのに、なぜ列車を停止させないのか、理解できませんでしたが……そういうことでしたか】


 樹里の姿は、ひとりと一台がいる最後尾にはない。機関車の運転席に座っていた工作員も拘束したため、代わりにブレーキの面倒を見させている。

 女子高生が列車を運転したことがあるはずもないので、最初はプチパニックになっていたが。カーブも少ない平野部を、速度をキープして走っていればいいだけなので、じきに無線越しに軽口を寄越す程度に落ち着いた。


「爆弾は解除できない。というか、今この瞬間、市街地のど真ん中で爆発しても不思議はない。こんな状況をどうにかできる策はあるか?」

【安全に、という前提であれば、不可能と断言します。あとはいかに被害を軽微にするかという問題です】

「人命優先」

【警察や鉄道会社との連携は?】

「あまり期待できない」


 実際のところ、時間はかかったが、事態を確認した外部との連絡は取れたと、樹里の報告があった。彼女はその対応も兼ねて、運転席に座っていた。

 だが、普通の人間は対処できないことに変わりない。鉄道のポイントを切り替えて、人家の少ない場所へ走らせるのが関の山だ。その途中で爆発しないことを祈りながら。

 だからレール上に物をばらまくことへの対応以外、彼らに頼むことはなかった。あるとすれば、事が終わってからのこと。

 事態そのものは、《魔法使い(ソーサラー)》たちにしか対処できなかった。


「どうだ? 方法はあるか?」

【…………あることは、ありますけど】


 イクセスの回答が歯切れ悪い。それまでの流暢さとは正反対の返事を怪訝に思い、作業を終えた十路が顔を上げると、イクセスに睨まれた気がした。カメラに目力などないだろうに、語気の強さがそう錯覚させた。

 脳内センサーにノイズが走る。《使い魔(ファミリア)》が通信妨害を始め、樹里との通信に使っていた周波数帯がかき乱された。


【あなたは、何者ですか?】

「は?」


 樹里には聞かせない選択を行った処置だった。


【この方法は、私の製造理由に関わります。易々(やすやす)と開示できる情報ではありません】


 察しはついたが、それでも十路の口が()いた。


「お前の製造理由は?」

【ジュリ・キスキの保護、サポート……そして監視】


 《使い魔(ファミリア)》ならば、当然ともいえる理由だ。しかし無免許の女子高生相手ならば、不可解となってしまうが。製造者(ユーア)仲介者(つばめ)の思惑の違いから来ているのだが、知らなければ理解不能だろう。

 イクセスが多少言いよどんだのは、ただの監視では終わるはずがないからだろうと、十路は推測した。必要となれば、自爆してでも主たる《魔法使い(ソーサラー)》を抹殺する。それが《使い魔(ファミリア)》に課せられた役目だから。

 しかも相手が《ヘミテオス》という、正体不明の存在となれば。


「お前こそなんだ?」


 しかし通信妨害するほどの話かと、十路は疑問を思う。普通の女子高生を(おもんばか)ってとも考えれば、別段不思議ではないかもしれないが、知らずに聞いて察する内容でもなかった。


「コミュニケーション能力が異常なくらいに高く思えるが、まぁそれはいい。さっきお前が自分で言ってた《シェリダー》ってのはなんだ?」


 だから、ここにこそ、樹里に聞かせられない理由があるのではないか。イクセスが、《バーゲスト》が、異常な《使い魔(ファミリア)》である理由と共に。


 Ver.20XX-0001-"S"。朝に《バーゲスト》の概要(プロパティ)を参照した時、そう記されていた。『S』はスーパーかスペシャルの略だろうと勝手に推測し、なにも疑問を覚えなかった。

 しかし彼女は口頭で『Sheriruth(シェリダー)』と自己紹介した。日常会話で使うようなものではない、聞いたことのなかった単語だ。


【それが普通の《使い魔(ファミリア)》には存在しない、私だけに与えられた権限であり、現状況の打開策――《セグメント・ルキフグス》です】


 またも日常生活では聞かない、知らない単語が出てきた。『Segment(セグメント)』は断片・部分・区分という意味でしかないが、十路の知識では『ルキフグス』がなにか、わからなかった。

 脳内でインターネットに接続し検索すると、出てきた。正確にはルキフゲ・ロフォカレ。地獄の宰相たる、上級六大悪魔の一体と。

 悪魔の名前を冠する機能がなんなのかは、全く推測がつかない。イクセスもそれ以上は明かさなかった。


【トージ・ツツミ。私に入力されているデータに、あなたの情報は詳細がありません。私は法的な扱いでは、修交館学院・総合生活支援部の備品となっていますが、関係者ですか?】

「違う。陸上自衛隊の人間だ」

【私はジュリ・キスキの人生に、深く関わらないとならないようですが……システム上では(マスター)のひとりであったとしても、あなたはどうやら違うようですね?】


 十路は秘密を共有するに値しない、と。

 この時の感情があるため、イクセスは、入部しても彼を(マスター)だとは思っていない。部活に際しては目的を共にする以上、指示には素直に従うが、反発した言動が多い。


【あまりにも情報不足で、今後の展開が推測不可能ですが……あなたが私の、ジュリ・キスキの不利益になるならば……どんな手段を使ってでも破壊します】


 秘密をバラすならば、容赦はしない。

 本来ならば非常時以外にはありえない、《使い魔(ファミリア)》が(マスター)に向けるものではない殺意を放ってきた。


「これ以上のトラブルは、俺の側からお断りだ。今日一日だけで、ロクなことがねぇよ……」


 対し十路は、やる気なさげに首筋をなでただけ。


 しばらく一方的なにらみ合いが続いた。イクセスがぶつける殺意を、十路は軽くいなしただけだが。


【……現状況は他に手段がないようですし、一時的にでもあなたを信用し、《セグメント・ルキフグス》を使用します】


 やがてイクセスは、渋々ながら語気を弱め、通信妨害も止めた。しかし具体的な方法の説明はなく、逆に質問をしてきた。


【それはいいとして。人命優先ということでしたが、コンテナに敵性勢力の人員を詰め込んで、どうするつもりですか?】

「こうする。お前は前の車輌に移動しとけ」


 十路は肩にかけてた、銃剣(バヨネット)をつけたままの小銃を構え、中身を放棄して空にしたコンテナの中に、最後尾の扉から入り、閉める。

 宙吊りになっているとはいっても、手首部分からの話で、強制的に立たされている作業着姿の男たちが、一斉に恐怖で顔を歪めた。ちなみに『蟲毒』は感電で気絶したまま。頭巾を外した『ニンジャ』は、応急処置は樹里が行ったものの、顔色悪かった。

 照明がないのだから、可視光線以外で『視る』十路しか見えない光景だった。


「死にはしないだろうから、安心しろ」


 聞く側は死神の宣告にしか思えないだろうセリフを吐き、十路は《高周波カッター》を付与した銃剣(バヨネット)を、コンテナに突き刺した。耳障りな音を立てて直方体の辺に沿って、最後尾面の壁と、側面と天井と切断する。高さを加味して天井面そのものも、ある程度のところで切断しておく。


「怪我の保障まではできないけどな」


 次に小銃を一回転させ、先頭側の面、扉や接合部を一気に破断した。

 すると、前の車輌に積まれたコンテナの陰になるとはいえ、突風が吹き込んだ。風圧で扉が開閉できなくなる程度の影響はあるだろうが、本来それでコンテナがどうこうなることはないだろう。しかし天井と壁が接する辺を切断したため、算数の授業で六面体を展開させるように、風を受けて天井面が持ち上がる。吊り下げられた人間の重量よりも、広い面積で受ける風圧が上回ったため、架線をかすめて一八〇度回転して裏返った。

 そして台車からはみ出て、外側だった面がレールに接地する。同時に盛大に火花が散り、破滅的な擦過音が響く。その上に乗るというか(くく)りつけられている工作員たちから、批難の悲鳴が上がった気がしなくもないが、風に流されて届かない。


「じゃぁな」


 最後には無常にも、台車最後尾に近づいた十路が一閃する。大いに変形しながらも繋がっていた、コンテナの床と壁との辺を切断すると、工作員を乗せた(てんじょう)は減速しながら、あっという間に見えなくなった。


【…………】

「なんだ?」


 小銃を肩にかけて、前車輌のコンテナをよじ登ると、移動していたイクセスから、無言の批難を受けた気がした。


【いえ……敵とはいえ、ちょっとムゴい降ろし方だと思っただけです】

「一番安全だろ? 土手の斜面をダンボールで滑るようなもんだし」


 風に(あお)られたり、なにかに引っかかり、ひっくり返る可能性もなきにしもあらずだが、強制的に這いつくばって乗せられている。しかも直線を走っている時に切り離したのだから、きっと安定したまま減速するだろう。

 落ちれば固い地面だから、ボートで引っ張られるタイプのマリンスポーツとは段違いだろうが、スリルに関しては完全に無視した。十路は『ケガしても警察に確保されれば、病院担ぎ込まれるだろうし、大丈夫だろ?』くらいしか考えてなかった。同時に『水葬みたいだったな。海に落ちる棺を見送るの、ちょうどあんな感じだったし』と思ったが、あえて忘れることにした。


【そのたとえは、私には理解できませんが……まぁいいです】


 まだなにか言いたげだったが、イクセスも言葉を引っ込めた。


(結局、あの《魔法使い》は、電車から捨てられてそのままか……)


 ドン引きされようと気にも留めず、別のことを考えながら、十路はその背に(またが)った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ