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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と次世代軍事学事情/フォー編
271/640

050_1910 巨兵Ⅴ~垂直に挑む~

(冗談じゃない……!? どうしろってんだ!?)


 破壊しなければならない対象は、三方向に存在する。横からやって来る極超音速滑空体(HGV)、下方には交戦中の《トントンマクート》が、ほぼ真上から落ちてくる衛星兵器と。

 それらを一斉に対処しなければならない状況など、いくら十路(とおじ)でも想定していなかった。


『理事長先生、やっぱり自衛隊はアテにならないんですか?』

『無理だと思ったほうがいい。初期情報がアメリカ軍から送られてきていないし、《ヘーゼルナッツ》を領空侵犯させるために、わたしが色々横槍入れたから、初動が遅れてるんだよね』

『仮に体制が整えられてても、迎撃できるか怪しいと思いますわ。大気圏突入でどれくらい減速するかわからねーですけど、弾道ミサイルよりも速いと思いますし』

『そのとおり』

『あたしたちが、全部なんとかしなきゃならないってこと? うわー、責任ジューダイ』

『うん。キミたちに頼るしかない……大人の都合を全部押し付けることになるけど、ここままじゃ神戸どころか近畿圏が全滅する』


 どこにいるのか不明なナージャ・コゼット・南十星が、つばめと情報交換する声を聞いて、無理矢理動揺を押さえ込む。彼女たちも驚きはしているが、取り乱してはいない。


『兄貴、どうすればいい? あたしたち、なにをすればいい?』

『つっても、こちとらバッテリーがねーですからね。できることは限られてますわよ』

『あ。報告遅れましたけど、わたしたち、いま移動中です。バイクで大阪湾沿いにそちらへ向かっています』


 彼女たちは、十路を信頼してくれている。

 これまでの作戦(ぶかつどう)では、いつも作戦立案は十路が行ってきた。振り返れば自分でも正気を疑う無謀な作戦を立て、それでも彼女たちが文句を言わずついてきて、結果勝利することができた。

 今度も同じだと。いつもと同じことをすればいいと。どんなに絶望的な状況下でも、ひっくり返すことができると。

 普通の学生生活を守ることができると。


(……ここで信頼に応えなきゃ、申し訳立たないよな)


 十路は大きく息を吸い、心を落ち着かせて、さすがに不安げな眼差しを向けていた野依崎に、まず指示を与える。


「フォー。《男爵(バロン)》に現状を知らせろ」

「相手は潜水中であるため、通常の通信は不可能。伝えることができても、自分たちの罠と考える可能性が高いでありますし、戦略兵器への対抗に共闘するとは思えないであります」

「構わない。方法は音とか光のモールスでもなんでもいい。《男爵(バロン)》が行動を変えるなら、儲けものくらいに考えておく」


 幸いなのは、《死霊》との防衛戦は終了していること。最悪その最中で戦略兵器の対処を求められることも、戦闘前に考えられていたのだから。今も《男爵(バロン)》と交戦中だが、敵の位置がある程度判明し、攻撃の対処もできる分、あの混乱の最中よりはマシだ。


「部長たちは予定変更なし。援護の準備を進めてください」

『それで構いませんのね?』

「えぇ。準備が終わったら、連絡ください。それから理事長は、落下する兵器の情報を。新しいことがわかったり、事態が変わったら報告お願いします」

『りょーかい』


 この場にいない別働の者たちにはそれだけ指示して、野依崎の作業が一段落するのを待ってから問う。とにかく今は、使える選択肢を拾い上げなければ。現状最大の攻撃力を持っているのは、十路が乗っている飛行戦艦なのだから。

 とはいえ一挙に問題解決できるとは考えず、ひとまず現状ではもっとも対抗手段が限られる、上の問題について訊く。


「この艦、攻撃衛星兵器(ASAT)を積んでるか?」

(ノゥ)

「対潜兵器もないし、意外と搭載の仕方が中途半端だな……」

「普通は常に相手の上空を制しているのでありますから、地上や海上の攻撃は想定しても、上空への備えは当然薄くなるでありますよ。しかも《使い魔(ファミリア)》なのでありますから、想定外の事態は《魔法》でなんとかすればいいという想定であります」

「じゃぁ、《魔法》で真上の衛星兵器を攻撃できるか?」

「…………大きな問題が、ふたつ」


 返事を少しだけ迷わせて、野依崎が手を振って仮想スクリーンを多重化させた。どれもつばめが送ってきた弾道軌跡がアニメーションしている。彼女が頭でシミュレーションしたのだろう、落下速度を何段階かに分けて、命中までの時間を逆算している。


「艦上部にも出力デバイスは存在するでありますが、戦闘用の高出力発揮型ではないであります。《魔法回路(EC-Circuit)》を形成し、必要出力を得ようと思えば、時間が相当かかるでありますよ。計算上では安全域での迎撃は、不可能と結論づけるしかないであります」


 宇宙まで攻撃を届かせ、あれだけ巨大な目標を破壊しようと思えば、桁違いのエネルギーが必要となる。蛇口(デバイス)が小さければ、出せる(エネルギー)も小さくなり、高々出力攻撃を可能にする(EC-Circuit)満杯(けいせい)に時間がかかる。《魔法》は仮想の機器を作れる万能の技術だが、《魔法》そのものが万能なわけではない。


(俺が外に出て、《バーゲスト》と《八九式》の出力を同期させて、間に合うか? 出力だけならともかく、一撃で当てられるなんて考えられない距離だしな……それに中身がわからないのが恐ろしすぎる。上空で爆散して、日本全土に被害が拡散したら、目も当てられないぞ……)


 十路なりに吟味しても、やはり野依崎の結論同様、迎撃不可能と言わざるをえない。この艦で駄目ならば、落下してくる戦略兵器は、どうやっても対処できないというのに。


「……あとひとつ、なにが問題だ?」


 問題がふたつあるということは、マイナスを更にマイナスする、より悪いことと思うのが自然だろう。

 だから十路はついでで聞いただけだ。仮に対処方針を思いついたとしても、実現のハードルが上がるとどうしようもないから。


「落下物の数か? それとも弾頭が不明なことか?」

(ノゥ)。どちらでもないであります」


 しかし野依崎はピクシーカットを揺らして首を振り、言い切った前言を撤回する返事をする。


「数値だけを見れば、落下している兵器を迎撃可能な攻撃手段は、存在するのであります。単発の巨大核弾頭だろうと、途中で分裂する質量兵器だろうと、安全域で破壊できるであります」

「ちょっと待て? さっきと言ってることが違うぞ?」

「艦上部のデバイスでは出力不足でありますが、他部位に装備されているものならば出力は充分であります。ただし射角はゼロ。真正面水平にしか使えないであります」


 追加説明で納得する。攻撃手段がある意味も、それが使えない理由も。

 しかし十路は、希望を灯し、念を入れて確認する。


「問題は方向だけなんだな? 時間も問題ないんだな?」

(イエス)。あくまで理論上でありますが」


 確実ではないという慎重な返答を受けて、十路は結論と指示を出した。


「艦を直立させろ」


 正面にしか撃てない大砲ならば、土台ごと上に向ければいい。


「マンガの原子力潜水艦ではあるまいし、そんな飛行姿勢にならないであります」

「《魔法》を併用すれば、《ヘーゼルナッツ(コイツ)》ならできるだろ?」

「それでも機体限界に挑むことになるでありますし、他はどうするでありますか? 極超音速滑空体(HGV)も《トントンマクート》も、対抗できる火力が半減以下になるでありますよ?」


 野依崎が苦言するとおり、上への対処がなんとか目処(めど)が立っただけ。それすら危ういというのに、横と下にはなにも対処できていない。


「横は木次に任せる」


 十路も当然それを含めて考えたが、対処法は思いつかなかった。追っているだろう樹里を信じ、駄目なら手の空いている者が迎撃するという、場当たりの対応をするしかない。

 そして《トントンマクート》は。第三者が攻撃してくるこの事態に、《男爵(バロン)》は対応せず、あくまで野依崎と《ヘーゼルナッツ》を狙うならば。


「あとは俺が守る」

「…………」


 野依崎がじっと目を見つめてくる。感情の読めない、《魔法回路(EC-Circuit)》の浮かんだ灰色の瞳が、真意を探るように覗き込んでくる。

 十路は目を()らさない。真意などなにもない。その状況に応じて、自分に可能なことを、最大限に行うだけだ。


 部活への参加は消極的で、『面倒であります』が口癖で、誰が相手でも態度が素っ気なく素直ではない。人付き合いには一線を置き、誰とも触れ合おうとせず、退部の意向表明もあっさりしたものだった。

 彼女は誰も信用しない。考えを変える柔軟性を持たない。

 だが考えを改めれば、決断は早かった。


「Full speed ahead! Up angle 90!(機関一杯! 上げ舵九〇度!)」


 野依崎は仮想のスイッチ類を操作して、スロットルレバーを限界まで倒す。推進機関の唸りが大きく響き、慣性で微速前進中だった艦の風景が、高速で流れ始める。


「上昇しながら右九〇度傾転(ロール)。被弾面積を削減するため、左舷側を《トントンマクート》に向けるであります」


 そして二本のジョイスティックを思い切り引き、彼女は希望として口にした。


「リーダー。自分とこの艦を、守ってほしいであります」

「了解!」


 勢いをつけるために戦域を離脱しながら加速し、艦は少しずつ傾斜していく。時間はかかるだろうが、モタモタしていたら艦は垂直になり、振り落とされる。

 十路はリンクを切断し、仮想現実映像から通常の視覚を取り戻し、操縦室を飛び出す。廊下をまた駆けながら、背負っていた大剣の擬装を剥ぎ取り、《八九式自動小銃・特殊作戦要員型》を剥き出しにする。


【ちょっとトージ! この傾斜、私単体じゃ耐え切れなくなりそうなんですけど!】

「今から関係なくなるから安心しろ!」

【まさか、外に出て迎撃する気ですか!?】

「他に方法がない!」

【あぁ、もう……! また無謀な作戦に付き合わされるんですね……!】


 貨物室に飛び込んで、斜めになる艦に慌てるオートバイの空間圧縮(パニアケース)から装備(BUD)ベルトを出して、弾倉と予備バッテリーを詰め込んでいく。


(木次……頼むぞ)


 連絡がつかない少女にいま一度信頼を寄せて、装備を身につけ《使い魔(ファミリア)》に飛び乗り、《魔法》の生命維持システムを実行させて。


「堤十路の権限において許可する! 《使い魔(ファミリア)》《バーゲスト》の機能制限を解除せよ!」

【OK. ABIS-OS Ver.8.312 boot up.(許可受諾。絶対操作オペレーティングシステム・バージョン8.312 起動)】


 開口されるドロップゲートから飛び出した。


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