表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と次世代軍事学事情/フォー編
267/640

050_1800 巨兵Ⅰ~米軍最強最新兵器~

「誰か援護を! 人型の《ゴーレム》がもう一体(まぎ)れ込んでましたわ!」


 コゼット・ドゥ=シャロンジェは、攻撃が撃ち込まれ崩れそうな建物を《魔法》で支えながら、無線に悲鳴した。


「あの船の弾薬庫、どうなってんだっつーの……! 何発積んでますのよ……!」



 △▼△▼△▼△▼



「多分、発射してるのは、積載している弾薬とは違うんじゃないですか?」


 ナージャ・クニッペルは、単分子(モノフィラメント)(ソード)でビルに風穴を空け、最短直線経路を作りながら冷静に返事する。


「大阪湾内でも、沈没船とか、水没した自動車とか、第二次世界大戦時代の不発弾とか、総ざらいすれば結構金属があると思うんですよ。爆薬はどうしているか、わたしより部長さんのほうが詳しいと思いますけど」



 △▼△▼△▼△▼



「《魔法》はなんでもできるけどさぁ、工作艦の機能まで持ってるってこと?」


 砲弾と化して一キロ近い距離をショートカットし、分解直前の《ゴーレム》を盛大に飛び蹴りで弾き飛ばし、(つつみ)南十星(なとせ)は疑問を(てい)する。


「さぁ、どうやって壊す?」



 △▼△▼△▼△▼



『それどころじゃねーですわよ! この《死霊》どもをどうにかしないと!』


 無線で怒号が飛んだと同時に、神戸市で一番高い建物である、シティタワー神戸三宮屋上で《魔法回路(EC-Circuit)》が発生する。常人の目には見えない、収束された電波の嵐が、灯台の光のように三六〇度照射される。


『さすがにバッテリーがヤバイんだけどさぁ――ふん!』


 あまり危機感を覚えない、舌足らずの幼い声が飛んだと同時に、関西電力ビルが粘土のように変形し、巨大な腕が生える。飛んできたミサイルを掴み取り、そのまま握りつぶして、反対側の東遊園地を守る。


『さすがに限界なんですけど、ねぇ!!』


 内陸の北区に着弾しようとした物体に向けて、建物の間から飛び出した人影が接触すると、自爆を誘発させた。


 開戦から時間が経過し、順調に駆逐しているはずだが、《死霊》を排除する戦いは変わらず過酷だった。

 大元の《棺桶(エクスデス)》は排除しているはずだが、散発的に飛来してくるために、完全排除ができない。しかも、一般人もなんとか対処可能な《死霊》だけでなく、戦法を変えてくるため、《魔法使い(ソーサラー)》たちが急行して対処しないとならない。


 このままでは押し切られる。負けてしまう。

 支援部員たちの脳裏に、その考えがこびりついて離れない。しかし手と思考を止めるわけにはいかない。


『え?』


 突然、相手の挙動が変化した。

 海からの散発的な攻撃が止んだ。正確には、止んだわけではない。大阪湾内浅部に潜水しているだろう《トントンマクート》は、攻撃を継続している。


『ぶちょー。どしたん?』

『いえ、ミサイルがなぜか明後日の方向へ……』


 変化したのは攻撃目標だった。連続して打ち上げられたミサイルは、全て西南西方向の空へと飛んでいく。

 そして瀬戸内海上空と思われる場所で、閃光と轟音が発生し、遅れて届いた。

 なにかに命中したのか。


『あ……! そうか……! やっと――!』


 それとも、なにかが迎撃したのか。



 △▼△▼△▼△▼



【トージ……! 限界です……!】

「クソ……!」


 道路を突き走りながら、イクセスと(つつみ)十路(とおじ)は弱音を吐き合った。

 突撃兵よろしく、《死霊》を破壊しながら一直線に山間部へ向けて駆け抜け、戻る最中に、煙に巻かれてしまった。

 避難訓練で火の元確認を取り沙汰すのは、そのためだ。パニックを起こした人々は、始末を忘れて逃げ出してしまう。だから今現在、神戸市内各所で火災が発生していた。

 もっとも、《使い魔(ファミリア)》と機能接続している《魔法使い(ソーサラー)》には関係ないが。《魔法》で煙と有毒ガスを排除し、少し呼吸を変えて薄い酸素を濃縮してから吸えば、目をつむっていても問題ない。

 そしてバッテリー節約のために、対処もできない。消防は対《死霊》と負傷者のために動いているので、火事の対応までは到底手が回らない。家財が焼かれる人々が大勢出ることになるが、生命と火災保険のありがたみをかみ締めてもらうより他ない。


 考える。

 インストルメンタル・ディスプレイに表示される《バーゲスト》のバッテリー残量は、あまり余裕がない。機能接続している生体コンピュータも、疲労蓄積で演算速度が低下している。他の部員たちも、大差ない状況だろう。


「こうなりゃ最終手段使うか……?」

【高々出力攻撃を、《トントンマクート》に向けてぶっ放しますか? 大量の海水に阻まれて、どこまで有効か不明な上に、とばっちりで神戸市が大浸水すると思いますけど】


 イクセスの言うことまでは実行せずとも、背負った《魔法使いの杖(アビスツール)》の擬装を剥ぎ取り、人目に構わず突撃銃(アサルトライフル)を撃つことまでは考えた。上を取って『魔弾』を射撃すれば、街中を駆け抜ける今よりも効率的に戦える。


『――……!』


 しかし、あまり意味があるとはとは言いがたい。《死霊》には対応できても、大元の《棺桶(エクスデス)》排除には、狙撃では対応不可能だ。破壊して街中で自爆されては意味がないのだから。

 そもそも、ただの高校生であるはずの十路が、一般市民に銃を扱う姿を見られたら。いくら《魔法使いの杖(アビスツール)》が兵器扱いされるとはいえ、兵器そのものを見られたら。

 考えると、実行に躊躇(ちゅうちょ)する。


『――……!』


 行動前に部員たちと結んだリンクは、度重なる戦闘で切れている。《魔法》は妨害源となるので、こういった都市部での乱戦では、大容量無線通信をつなぎ続けるのは難しい。仕方ないのではあるが、連携に不安が出ている。ただでさえ民間人がいる最中、バッテリー節約で戦術が絞られているのに、更に選択肢がなくなってしまう。


『――た……!』

「ん?」


 無線にはノイズが混じっている。《魔法》使用で強い電磁波が発生し、爆煙や土煙と一緒に金属粒子が空中に散布されるため、音声のみの連絡でも通信障害が出ている。

 だから気づくのが遅れた。


『来たでありますっ!!』


 いつも平坦で愛想のないアルトボイスが、珍しくいっぱいに喜色をはらんで、無線から聞こえていたことに。

 同時に火元を通り過ぎ、煙が充満していた道路を突破し、十路の視界が開けた。やや高台なので、神戸の風景が一気に目に入る。


【あれが……!?】

「デカ……!?」


 海上に巨大な影が浮かんでいた。脳内センサーに飛び込んでくる情報からすると、まだ接近途中で距離があるのに、思わず言葉が飛び出る大きさだった。


 視界を望遠させて確認できる姿は、広告遊覧用とは一線を画していた。

 まず気嚢部(エンベロープ)は、飛行船と聞いて想像するラグビーボール型ではない。曲線を帯びた三角形の平型をしており、フィルム状の太陽電池で黒と銀の二色を持っている。フォルムだけならば、B-2爆撃機のような全翼機に近い。

 ゴンドラが吊られているのは当然だが、しかし計五つに分割されている。人が乗り込む部分は中央として、左右に分かれているものは、武装を積載したブロックだろうと推測する。それらしき物体は見えないのは、ステルス性か、ハイブリッド飛行船としての航空力学的な意味か、それともメンテナンス上の都合かで、武装を内部に格納しているのだろう。

 ゴンドラ同士の隙間には、上方推進型の大型プロペラや、翼が畳まれて積載された無人戦闘機(UAV)が見てとれる。

 なにより異様なのは、他の三基と比べてかなり小型の、一番外側のゴンドラだった。武装ブロックからも完全に独立し、懸垂(けんすい)式モノレールのようにレールが敷設(しせつ)され、前後稼動するようになっている。それに搭載された大砲は、仮想再現する《魔法使い(ソーサラー)》も存在し、実際に開発中なのは知っていたが、実用化された現物は十路も初めて見た。

 艦載型電磁加速砲(レールガン)を二門、装備している。


 艦艇ではない。宙を飛ぶものをそう呼ぶはずはない。かといって飛行機ではない。スピードが遅すぎ、重装備すぎる。

 半自律高高度要撃空中プラットフォームという、本来存在しえない兵器は、(まぎ)れもなく科学と《魔法》で物語から飛び出した、飛翔する戦闘艦だった。機影に入れば空を覆い尽くすと錯覚するだろう、確実に世界最大クラスの巨体に描かれた、翼を持ち稲妻を放つ星のエンブレムと、『Her chariot is an empty hazel-nut』の文字が、その正体を教えてくれる。


『《ヘーゼルナッツ》! 誘惑(S)受動(P)デコイ(D)発射(ファイア)!』


 無線を通じて聞こえる野依崎(のいざき)(しずく)の叫びに応じ、艦がわずかに変形した。十路が武装ブロックと推測した区画の壁面が持ち上がり、火線が宙を走る。

 扇状に発射されたロケット弾の群れは、神戸の沿岸沿いに次々と着弾した。しかし爆発はしない。代わりに弾体は、建造物や地面に突き刺さったまま、盛大な煙を上げて周囲を濁していく。

 否、煙ではない。脳内センサーの反応変化で気づいた十路は、無線に叫ぶ。


「部長! 民間人に煙を吸わないよう警告! それから風で操作して、海に押し出してください!」

『なん……す……の煙……』


 海の近くで防衛していた他の部員たちは、『煙』に巻き込まれているはず。証拠のように早速効果が表れ、今までの障害とは違い、ノイズなくコゼットとの通信が途切れ始めた。電子欺瞞紙(チャフ)のように周波数変更で対策はできないため、完全に無線が使えなくなる前にと、十路は端的に叫ぶ。


「煙じゃない! 電磁吸収体です!」


 十路が知る仮称は『パンドラの煙幕』。微細なカーボンファイバーを広範囲に散布し、電磁波を吸収させレーダーと通信をかく乱するだけでなく、エネルギーを減衰させるレーザー防御膜としても機能する、アメリカ軍の新型電子対抗手段(ECM)だ。まだ実用配備されている装備ではないため、十路も詳しくは知らないが、火山灰やアスベストの健康被害を考えると、吸い込んで無害とは思えない。

 しかし被害を考慮外にすれば、今の状況下で壮絶な効果を発揮した。


『――霊》が消……て……す!』


 途切れ途切れでも、ナージャの報告は理解できる。

 《トントンマクート》本体と、《マナ》や《棺桶(エクスデス)》との指令とエネルギー譲渡が、煙幕で大規模に阻害されたのだ。当然《魔法》で作られた《死霊》は維持できない。

 電子対抗手段(ECM)で《魔法》を封じるのは、対《魔法使い(ソーサラー)》戦術の基本だが、電子欺瞞紙(チャフ)では心もとない。だから長期戦が予想される今回の部活動(さくせん)で採用しなかった。

 しかし『パンドラの煙幕』は、カーボンファイバーの煙幕を持続的に作り出す。海に(ふた)するように広く散布させれば、《トントンマクート》から発射される《魔法》に、大幅な制限をかけられる。通常兵器で戦おうにも、レーダーがまるで役に立たない電波の濃霧に囲まれるのだから、誘導装置の(たぐい)は意味を成さない。


「あれだけ俺たちが苦労していたのに、一発で対処かよ……!」

【あの? それくらいでなければ、『切り札』として使えないのですけど?】


 やたらめったら撃たれただけでも被害は出る防衛上の都合、まだ油断はできないが、状況は五分五分までに変わった。《男爵(バロン)》はこれまで同様、神戸市への攻撃を続行することはできない。

 ならば大元を叩くだけ。支援部が保有する全戦力を《トントンマクート》に向けることができる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ