050_1800 巨兵Ⅰ~米軍最強最新兵器~
「誰か援護を! 人型の《ゴーレム》がもう一体紛れ込んでましたわ!」
コゼット・ドゥ=シャロンジェは、攻撃が撃ち込まれ崩れそうな建物を《魔法》で支えながら、無線に悲鳴した。
「あの船の弾薬庫、どうなってんだっつーの……! 何発積んでますのよ……!」
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「多分、発射してるのは、積載している弾薬とは違うんじゃないですか?」
ナージャ・クニッペルは、単分子剣でビルに風穴を空け、最短直線経路を作りながら冷静に返事する。
「大阪湾内でも、沈没船とか、水没した自動車とか、第二次世界大戦時代の不発弾とか、総ざらいすれば結構金属があると思うんですよ。爆薬はどうしているか、わたしより部長さんのほうが詳しいと思いますけど」
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「《魔法》はなんでもできるけどさぁ、工作艦の機能まで持ってるってこと?」
砲弾と化して一キロ近い距離をショートカットし、分解直前の《ゴーレム》を盛大に飛び蹴りで弾き飛ばし、堤南十星は疑問を呈する。
「さぁ、どうやって壊す?」
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『それどころじゃねーですわよ! この《死霊》どもをどうにかしないと!』
無線で怒号が飛んだと同時に、神戸市で一番高い建物である、シティタワー神戸三宮屋上で《魔法回路》が発生する。常人の目には見えない、収束された電波の嵐が、灯台の光のように三六〇度照射される。
『さすがにバッテリーがヤバイんだけどさぁ――ふん!』
あまり危機感を覚えない、舌足らずの幼い声が飛んだと同時に、関西電力ビルが粘土のように変形し、巨大な腕が生える。飛んできたミサイルを掴み取り、そのまま握りつぶして、反対側の東遊園地を守る。
『さすがに限界なんですけど、ねぇ!!』
内陸の北区に着弾しようとした物体に向けて、建物の間から飛び出した人影が接触すると、自爆を誘発させた。
開戦から時間が経過し、順調に駆逐しているはずだが、《死霊》を排除する戦いは変わらず過酷だった。
大元の《棺桶》は排除しているはずだが、散発的に飛来してくるために、完全排除ができない。しかも、一般人もなんとか対処可能な《死霊》だけでなく、戦法を変えてくるため、《魔法使い》たちが急行して対処しないとならない。
このままでは押し切られる。負けてしまう。
支援部員たちの脳裏に、その考えがこびりついて離れない。しかし手と思考を止めるわけにはいかない。
『え?』
突然、相手の挙動が変化した。
海からの散発的な攻撃が止んだ。正確には、止んだわけではない。大阪湾内浅部に潜水しているだろう《トントンマクート》は、攻撃を継続している。
『ぶちょー。どしたん?』
『いえ、ミサイルがなぜか明後日の方向へ……』
変化したのは攻撃目標だった。連続して打ち上げられたミサイルは、全て西南西方向の空へと飛んでいく。
そして瀬戸内海上空と思われる場所で、閃光と轟音が発生し、遅れて届いた。
なにかに命中したのか。
『あ……! そうか……! やっと――!』
それとも、なにかが迎撃したのか。
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【トージ……! 限界です……!】
「クソ……!」
道路を突き走りながら、イクセスと堤十路は弱音を吐き合った。
突撃兵よろしく、《死霊》を破壊しながら一直線に山間部へ向けて駆け抜け、戻る最中に、煙に巻かれてしまった。
避難訓練で火の元確認を取り沙汰すのは、そのためだ。パニックを起こした人々は、始末を忘れて逃げ出してしまう。だから今現在、神戸市内各所で火災が発生していた。
もっとも、《使い魔》と機能接続している《魔法使い》には関係ないが。《魔法》で煙と有毒ガスを排除し、少し呼吸を変えて薄い酸素を濃縮してから吸えば、目をつむっていても問題ない。
そしてバッテリー節約のために、対処もできない。消防は対《死霊》と負傷者のために動いているので、火事の対応までは到底手が回らない。家財が焼かれる人々が大勢出ることになるが、生命と火災保険のありがたみをかみ締めてもらうより他ない。
考える。
インストルメンタル・ディスプレイに表示される《バーゲスト》のバッテリー残量は、あまり余裕がない。機能接続している生体コンピュータも、疲労蓄積で演算速度が低下している。他の部員たちも、大差ない状況だろう。
「こうなりゃ最終手段使うか……?」
【高々出力攻撃を、《トントンマクート》に向けてぶっ放しますか? 大量の海水に阻まれて、どこまで有効か不明な上に、とばっちりで神戸市が大浸水すると思いますけど】
イクセスの言うことまでは実行せずとも、背負った《魔法使いの杖》の擬装を剥ぎ取り、人目に構わず突撃銃を撃つことまでは考えた。上を取って『魔弾』を射撃すれば、街中を駆け抜ける今よりも効率的に戦える。
『――……!』
しかし、あまり意味があるとはとは言いがたい。《死霊》には対応できても、大元の《棺桶》排除には、狙撃では対応不可能だ。破壊して街中で自爆されては意味がないのだから。
そもそも、ただの高校生であるはずの十路が、一般市民に銃を扱う姿を見られたら。いくら《魔法使いの杖》が兵器扱いされるとはいえ、兵器そのものを見られたら。
考えると、実行に躊躇する。
『――……!』
行動前に部員たちと結んだリンクは、度重なる戦闘で切れている。《魔法》は妨害源となるので、こういった都市部での乱戦では、大容量無線通信をつなぎ続けるのは難しい。仕方ないのではあるが、連携に不安が出ている。ただでさえ民間人がいる最中、バッテリー節約で戦術が絞られているのに、更に選択肢がなくなってしまう。
『――た……!』
「ん?」
無線にはノイズが混じっている。《魔法》使用で強い電磁波が発生し、爆煙や土煙と一緒に金属粒子が空中に散布されるため、音声のみの連絡でも通信障害が出ている。
だから気づくのが遅れた。
『来たでありますっ!!』
いつも平坦で愛想のないアルトボイスが、珍しくいっぱいに喜色をはらんで、無線から聞こえていたことに。
同時に火元を通り過ぎ、煙が充満していた道路を突破し、十路の視界が開けた。やや高台なので、神戸の風景が一気に目に入る。
【あれが……!?】
「デカ……!?」
海上に巨大な影が浮かんでいた。脳内センサーに飛び込んでくる情報からすると、まだ接近途中で距離があるのに、思わず言葉が飛び出る大きさだった。
視界を望遠させて確認できる姿は、広告遊覧用とは一線を画していた。
まず気嚢部は、飛行船と聞いて想像するラグビーボール型ではない。曲線を帯びた三角形の平型をしており、フィルム状の太陽電池で黒と銀の二色を持っている。フォルムだけならば、B-2爆撃機のような全翼機に近い。
ゴンドラが吊られているのは当然だが、しかし計五つに分割されている。人が乗り込む部分は中央として、左右に分かれているものは、武装を積載したブロックだろうと推測する。それらしき物体は見えないのは、ステルス性か、ハイブリッド飛行船としての航空力学的な意味か、それともメンテナンス上の都合かで、武装を内部に格納しているのだろう。
ゴンドラ同士の隙間には、上方推進型の大型プロペラや、翼が畳まれて積載された無人戦闘機が見てとれる。
なにより異様なのは、他の三基と比べてかなり小型の、一番外側のゴンドラだった。武装ブロックからも完全に独立し、懸垂式モノレールのようにレールが敷設され、前後稼動するようになっている。それに搭載された大砲は、仮想再現する《魔法使い》も存在し、実際に開発中なのは知っていたが、実用化された現物は十路も初めて見た。
艦載型電磁加速砲を二門、装備している。
艦艇ではない。宙を飛ぶものをそう呼ぶはずはない。かといって飛行機ではない。スピードが遅すぎ、重装備すぎる。
半自律高高度要撃空中プラットフォームという、本来存在しえない兵器は、紛れもなく科学と《魔法》で物語から飛び出した、飛翔する戦闘艦だった。機影に入れば空を覆い尽くすと錯覚するだろう、確実に世界最大クラスの巨体に描かれた、翼を持ち稲妻を放つ星のエンブレムと、『Her chariot is an empty hazel-nut』の文字が、その正体を教えてくれる。
『《ヘーゼルナッツ》! 誘惑受動デコイ発射!』
無線を通じて聞こえる野依崎雫の叫びに応じ、艦がわずかに変形した。十路が武装ブロックと推測した区画の壁面が持ち上がり、火線が宙を走る。
扇状に発射されたロケット弾の群れは、神戸の沿岸沿いに次々と着弾した。しかし爆発はしない。代わりに弾体は、建造物や地面に突き刺さったまま、盛大な煙を上げて周囲を濁していく。
否、煙ではない。脳内センサーの反応変化で気づいた十路は、無線に叫ぶ。
「部長! 民間人に煙を吸わないよう警告! それから風で操作して、海に押し出してください!」
『なん……す……の煙……』
海の近くで防衛していた他の部員たちは、『煙』に巻き込まれているはず。証拠のように早速効果が表れ、今までの障害とは違い、ノイズなくコゼットとの通信が途切れ始めた。電子欺瞞紙のように周波数変更で対策はできないため、完全に無線が使えなくなる前にと、十路は端的に叫ぶ。
「煙じゃない! 電磁吸収体です!」
十路が知る仮称は『パンドラの煙幕』。微細なカーボンファイバーを広範囲に散布し、電磁波を吸収させレーダーと通信をかく乱するだけでなく、エネルギーを減衰させるレーザー防御膜としても機能する、アメリカ軍の新型電子対抗手段だ。まだ実用配備されている装備ではないため、十路も詳しくは知らないが、火山灰やアスベストの健康被害を考えると、吸い込んで無害とは思えない。
しかし被害を考慮外にすれば、今の状況下で壮絶な効果を発揮した。
『――霊》が消……て……す!』
途切れ途切れでも、ナージャの報告は理解できる。
《トントンマクート》本体と、《マナ》や《棺桶》との指令とエネルギー譲渡が、煙幕で大規模に阻害されたのだ。当然《魔法》で作られた《死霊》は維持できない。
電子対抗手段で《魔法》を封じるのは、対《魔法使い》戦術の基本だが、電子欺瞞紙では心もとない。だから長期戦が予想される今回の部活動で採用しなかった。
しかし『パンドラの煙幕』は、カーボンファイバーの煙幕を持続的に作り出す。海に蓋するように広く散布させれば、《トントンマクート》から発射される《魔法》に、大幅な制限をかけられる。通常兵器で戦おうにも、レーダーがまるで役に立たない電波の濃霧に囲まれるのだから、誘導装置の類は意味を成さない。
「あれだけ俺たちが苦労していたのに、一発で対処かよ……!」
【あの? それくらいでなければ、『切り札』として使えないのですけど?】
やたらめったら撃たれただけでも被害は出る防衛上の都合、まだ油断はできないが、状況は五分五分までに変わった。《男爵》はこれまで同様、神戸市への攻撃を続行することはできない。
ならば大元を叩くだけ。支援部が保有する全戦力を《トントンマクート》に向けることができる。




