050_1650 書き綴ろう、無価値にして無謀なる戦記をⅤ~うえきの法則 バトルゲーム開始~
(フォー。カメラじゃ多分観客から見えないから、スクリーンの映像を切り替え。目で見てるのを直接流せ)
(了解であります)
地面に倒れた二つに分かれた男を直接見た観客は、硬直と絶句をする。妖精女王が《魔法》で中継器に割り込み、直接視認している光景を水のスクリーンで見た者たちも、同様だった。
理解が及んだ瞬間、大パニックになることを予感する、嵐の前の静けさに包まれる。
『よく見ろ! この者は血を流していない! 命ある者ではない証ではないか!』
だが誰かが発端となる叫びを上げる前に、騎士が声を張り上げ注意を引き戻させ、これも劇の一部であると錯覚させる。
両断された男は、血を一滴も流れていない。鋭利な断面も解剖図に描かれるものとは違い、生物に必要な臓器が不足した簡略されたものだ。骨も頭蓋と背骨の中ほどまでしかなく、電子部品を覗かせて、小さな火花を上げている。
しかも見ている間に肉体は崩れ落ち、塵山の中に骨となっていた短杖が残る。
明らかに人間の死体ではなかった。支援部員たちにとっては、子供の姿だけではなかった意外性のある正体だった。
(ナージャ……縦に真っ二つって)
(十路くんが指示したことでしょう!? なんでドン引きしてるんですか!?)
(いやだって、ホッケみたいに《杖》ごと《ゴーレム》を二枚におろすとは……)
(夕方も同じことしたの、見たでしょう?)
(壊れた《杖》だけな。煙幕状態でその瞬間は見てないっての)
(動かない状態で、しかも《黒の剣》なら、これくらいできますよ)
妖精剣士の殺傷能力を改めて畏怖し、騎士は気を取り直して劇に戻る。続けることにもう意味はないかもしれないと、心の片隅で考えつつ。
《ゴーレム》を破壊されたのは、開戦の合図と捉えるかもしれないのだから。
『人間たちよ。妖精たちよ。この戦いは、お前たちが共通して違える、魔の者たちによって仕組まれたものだ』
そして、予想どおりとなった。
遅れて届いた発射音の後、腹に響く衝突音を響かせて、公園の一角に攻撃が突き刺さる。驚愕を連続する観客は振り向く前で、それは猛烈な勢いで粒子を散布し、《死霊》の軍団を形成して公園の一角を占拠する。
テロと呼べる事件が起きたのは、つい昨日のことで、報道番組や動画サイトでもまだ熱は冷めていない。そんな矢先に多数の重軽傷者を出した、淡く光る骸骨集団の出現に、観客たちはパニック一瞬前の状況に陥る。
『劇しゅーりょー』
少年拳士は、脇にあった金属の環を引っ張る。すると留め金代わりのワイヤーが引き出され、胴鎧はバラバラになって舞台に散らばる。
足の守りも同様に除き、兜を脱ぎ、シールにして貼り付けていた前垂れの紋章を剥がせば、深いスリットの入る改造ジャンパースカートを着た、女子中学生が出現した。
『タイミングぴったりと言うか……当然の展開ですかしら』
『もう少し遅くてもよかったんじゃないですかねー? 『魔王サマのお出ましじゃー』とか言えるくらいに』
魔術師王女と妖精剣士も同様に鎧を除装し、糸で同じ工夫がされたドレスも脱ぎ捨てる。ティアラを外してニットにデニムというカジュアルな女子大生に、剣を外して学生服の上からカーディガンを羽織った女子高生に、変身する。
そして各々の《魔法使いの杖》を構えて、殲滅を開始する。
先ほどの殺陣と同じく、女子中学生と女子高生は《魔法》に身を包み、舞台から姿を消す。爆音無音と共に移動したのは、当然《死霊》たちの真っ只中。青白い小柄な人影と、夜陰と見分けがつかない長身の人影が、人外の速度で駆け抜ける。進路上の《死霊》は片っ端から霧散させ、彼女たちは元の位置に帰還する。
《魔法》を阻害しかねない《死霊》たちが、一時的にでも片付けられると、地面に《魔法回路》が描かれ、巨大な土塊の腕が作成された。
破壊された《死霊》を再構成しようとする《棺桶》に触れた途端、異なる動作プログラムとエネルギーが紫電を散らす。だが構わずに巨腕はそれを引き抜き、宙へと放る。
そして紫電を纏う《妖精》たちが複数襲いかかり、昨日同様に空中で破壊した。
既に人工衛星を通じて照射した明かりはない。夜空に光と熱と衝撃が生まれ、人々は反射的に顔を背けた。破片が四散したが、強制的に引き起こされた自爆は、深刻な被害を周囲に与えるほどではなかった。
『ファンタジーの時間は終わりでありますが……ある意味もっとファンタジーになるでありますね』
市内各所から呼び寄せた《妖精》たちは、高速接近して彼女の周囲に浮遊する。鎧など身に着けていなかったので、女子小学生は妖精女王のままだ。しかしただ一つ、劇中でも今までもなかった変化が生まれている。
修交館学院の校章と、Social influence of Sorcerer field demonstration Team――《魔法使い》の社会的影響実証実験チームの文字が書かれた腕章が、二の腕に存在している。他の部員たち同様に。
『こちらは修交館学院、総合生活支援部だ』
ブレザータイプの学生服を着た男子高校生が、音響システムを使ったまま大音量で呼びかける。
彼も鎧を解除し、兜を脱いだが、劇中と変わらない物が残っている。《魔法使いの杖》を偽装した大剣だけでなく、そこからケーブルが延びる、左手だけに着けた篭手も外していない。
『正体不明の武装勢力に告ぐ』
敵である者の名は当然知っているが、彼はあえて使わない。
『日本の法律だけでなく、戦時国際法に当てはめても、民間人を巻きこむ無差別攻撃は禁止されている。次世代軍事兵器による戦闘行為を継続するならば、内乱・器物損壊・殺人未遂・他諸々の現行犯で逮捕する』
【そんな警告、無駄でしょうに……】
無線越しで呆れ声を漏らし、劇では出番があるはずもない彼女が、偽装のエンジン音を鳴らして乱入した。傷だらけの黒い追加収納を乗せた、赤黒彩色の大型オートバイが、無人でターンを決めてステージコンテナの前に停車する。
再度海から発射音が聞こえたために、男子高校生はそれに跨り、小声で制限解除を指示する。
(警告しとかんと、後でツッコまれた時にうるさくなるだろう?)
【生き残った後の心配とは、トージらしいですね】
(トラブルってのは、先に先に手を打っておかないと、片付かないからな……それに、無駄な用心にするつもりはない)
【ま、当然ですね】
頭の中でやり取りし、右のハンドルバーの固定を解除し、天空に向ける。応じてシート下に格納されていたマフラーが駆動し、消音機も天を向く。
『一番砲! THEL装填!』
【EC-program 《Quantum-electrodynamics THEL》 decompress. (術式《量子電磁力学レーザー砲》解凍)】
莫大なエネルギーが与えられ、その先から、巨大な光の砲身が作成される。フィクションに描かれるバリアなど、現実には存在しないのだから、装甲を打ち抜く必要出力のビーム作成には、さほど時間はかからない。
ブレーキレバーの引金を引くと、目には見えない自由電子レーザーが照射される。
その一撃は、新たに飛来してきた《棺桶》を撃ち抜き、爆発させた。昨日や夕方の出来事で、反物質電池の封印を解除し、核兵器クラスの大爆発を起こすには、時間がかかると予想していた。だが知ってしまったら、実際に迎撃して常識範囲の爆発しか起こらなかったことに、内心安堵した。
(《男爵》……何基《棺桶》を持ってるんだ?)
【これで打ち止めを期待したいところですけど、それだけでも結構な数です。それに、まだ《ゴーレム》が紛れこんでる可能性もあります】
破壊したのは一基だけだが、今度飛んできたのはもっと多い。木立の向こうやビルの狭間に落下したため、直接視認は不可能だが、《使い魔》のレーダーと脳内センサーが、《魔法》発動の証である強電磁波反応を複数検知している。
《死霊》を見た時か。衣装を脱ぎ捨てた時か。《棺桶》が破壊された時か。観客がどのタイミングで、これが劇でないと理解したか、個人差があるだろう。
だが今はもう全員が、現在進行形で理解しているはず。現実逃避するのであれば話は別だが、過去形で思い知った時にはもう遅い。
自分たちは生死の狭間、戦争に巻き込まれているのだと。
『全神戸市民に告げる。勝手な行動をされたら、命の保障はできない。俺たちか、近くにいる警察・消防関係者の指示に従ってくれ』
初めてではない。詳細は秘匿され、半分は裏社会に属する者たちだとしても、存在そのものは広く認知されている。その一助となる映像は当然世に出ている。
だが、一般人が目にできる戦争の記録映像が限られているように、《魔法》で戦闘行為を行う様は、これまで公表されていない。神戸市内で戦闘行為を行っていた彼らとて、可能な限り表沙汰にならない暗闘に止めてきた。
だから虚実交えた話が広まり、通称のように真実からかけ離れた存在と思われる。
それが今夜を境に変わる。変化の程度は予測できなくとも、間違いなく変わる。
極東の島国に設立された小さな組織が変える。
『あとは俺たちに任せろ!』
その名は修交館学院・総合生活支援部。
国家機関に所属せず、非常時には警察・消防・自衛隊と連携して即応部隊として活動する。普通の学生生活を送るために設立され、たった六人の保有兵力はほとんど就学中の未成年者という、前代未聞の超法規的準軍事組織。
『『リンク!』』
しかし全員が、大脳が生体コンピュータと化す先天的脳機能異常発達症状を発症し、《マナ》と通信し絶対操作を行うためのブレイン・マシン・インターフェースシステムを装備している。
『さぁ……二一世紀型《魔法使い》のお披露目だ!』
既存兵器を完全に凌駕する、史上最強の生体万能戦略兵器部隊。
『これより部活を開始する!』
『『了解!!』』
やはり危険な人間兵器と思うか。それとも人々を守るヒーローと捉えるか。
そんなことは真実を見た人間が判断することで、感知するところではない。
ただ彼ら、彼女らは、獣となって牙を剥き、縄張りを守るために駆け出した。




