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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と次世代軍事学事情/フォー編
222/640

050_0620 不本意な誕生日・日常Ⅷ~海上自衛隊の極旨カレー・レシピのひみつ~


 そして、東京では。


「……で()ぁ。なにが起こってんの?」


 長久手(ながくて)つばめが行儀悪く、しゃべりながらカレーライスを食べていた。


「私たちも把握できず、困っているところだ……」


 中年の域を超え、老年に達したと言ってもいいだろう男性を、前にして。


 昼時の食堂だった。午後の業務に備えて食事を腹に収めるため、利用客が数多く訪れて混在している。

 しかし二人が座る一角だけは、不自然に席が空いている。気付いた利用客はトレイを持ったまま直立不動し、困ったように同僚たちと顔を見合わせ、そそくさと混雑している側に席を陣取る。そして普段以上の早飯をして、早々に立ち去っていく。

 二人は敵でも味方でもない空気で、対等の立場で話している。その異様な雰囲気に、近づくのを避けている。


 口の中のものを飲み下し、飾り気ないコップの水で洗い流し、つばめは再度話を続ける。


「『トントンマクート』について、そっちにはちゃんと連絡あったんじゃないの?」

「色々と説明あったが、重大な危機、という注意喚起のみと思ってもらおう」

「じゃあ、顧問団プレジデンツキャビネット含めて、アメリカ軍が暴走してるって解釈していいの?」

「…………」


 男性は黙って首を振る。否定よりも困惑の振り方だった。


「まぁ、不完全でも政府首脳直通電話(ホットライン)で情報提供してきたってことは、それはないか……ごく一部の暴走って結論づけていいか。ちゃんと管理しとけっての」

アメリカ(むこう)でも泡を食っている様子だ……」

「『バロン』の情報が伝わって来てないのも、それ?」

「好意的に解釈すれば、だがな。今朝、君から連絡を受けて、総理が直接大統領に連絡したらしい……だが、(かんば)しくない。話の様子では、なぜ日本(われわれ)が知っているのか、といった風情だったそうだが」

「ふぅん……()()()()隠したいのか。そりゃそうだろうね」


 いつしか止まっていた手を、遅いながらも再度動かしつつ、つばめは懸念を伝える。ただし口に米と香辛料を運ばず、所在なさげにかき混ぜる。


「神戸でなにが起こるかわからないけど、問題起こるのは確定として。その時にアメリカ(むこう)がどう動くかがねぇ……」

「なにか掴んでいるのか?」

「いんや。それがわからないから、リヒトくんと一緒に東京に来たんだけど」

「ゲイブルズ博士も……? どういうことだ?」

「フェニックス計画って知ってる? 宇宙開発で」

「いや。文科省や経産省の管轄(かんかつ)だ。私ではさほど明るくない」

「そっか。調べればすぐに出てくるはずだから、詳しくはWebでってことで。検索したら、大阪湾の整備計画が真っ先に出るけど、違うから」

「その計画がどうかしたのか?」

「展開が怪しすぎる。だからリヒトくんが直接調査してる」

「彼は《魔法》の専門家だろう? 宇宙開発は専門外ではないのか?」

「そうなんだけど……今回はリヒトくんも無関係ってわけでもないし、本人もそう思ってるみたい」

「……?」


 部下たちの前や答弁でも、テレビカメラの前でも使わない素の顔で、男は怪訝を浮かべる。


「もしわたしの考え通りだったら、かなり洒落にならないことになるかも。今のところ非常宣言出そうにも根拠ないし、出せるようになった時には手遅れになる」

「…………」


 つばめが深刻な顔を浮かべていても、男は詳しくは問い返さない。支援部員たちと同様、彼女に訊いても明かさないと思ってるのか。

 それとも訊くべきではないと、分をわきまえているのか。


「その時は、こっち主導で協力してもらうよ? 普通の国家権力でどうこうなる問題じゃないし」

「あぁ……そのための社会実験チームだ」

「あと、お宅のところで独自に人員動かすの勝手だけど、邪魔だけは厳禁。前例があるし、わたしたちを敵扱いするのは勝手だけど、今回は内輪揉めしてる場合じゃない」

「君のところにいる、二重国籍の少女の件か……わたしに責任があると言われたら、なにも言い逃れできないがな……ともかく、今回の件は承知した」

「ついでに言っておくけど、これをネタに日米安保とか、環太平洋(T)戦略的経済(P)連携協定(P)問題解決しようとか、そういうのはアテにしないでよ。今の段階じゃ皮算用(とらタヌ)だから」

「つまり、事態が君の予想通りになれば、そう言って総理を動かせと」

「なんのことにゃー? そんなこと言ってないしー? 言うつもりもないしー?」


 つばめは無邪気で邪悪な笑顔を浮かべる。


「だってわたしが直に言うつもりだし」


 不遜な言葉に、娘ほど、下手すれば孫ほどにも見える歳の女性相手に、男は特に反論しない。

 相変わらずだった。


「ところでさ。お土産で売ってる(GEKI)カレー昭和レトロ味って、なにがレトロなの?」

「それを私に聞かれても困るのだが……それ以前に、大事な話をここでされるのも困るのだが……」

「え? だってお昼だし。お腹すいたし。部屋にカレーの匂い染みつけてもいいなら、そっちで話したけど」

「機密保持というものがあってな……」

「大丈夫だいじょうぶ。そのうち小学生から大学生まで知ることになる情報なんだし。大した機密じゃないって」

「君の言う子供たちは、例の《魔法使い(ソーサラー)》だろう……一緒にしないでくれ」


 陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地、防衛省本庁舎厚生棟に存在する共済組合直営食堂にて、防衛大臣を前にしても、つばめは普段と変わらないフリーダムさを発揮していた。


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