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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と軍事学事情/ナージャ編
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040_1920 秘剣Ⅲ~虎の牙~


 《魔法》で神経伝達を遮断しているため、痛みはない。仮にその効果がなくても、切断があまりにも鮮やかだったため、遅れて感じたかもしれない。

 生体コンピュータにフィードバックされる情報は、肉体が危険状態であることを示している。ただでさえ特殊な巨大術式(プログラム)実行で限界駆動しているのに、一気に送られてきた膨大なエラーに思わず悲鳴が飛び出た。


(うぉぉ……! 見事まっぷたつ……!)


 南十星(なとせ)は驚きながらも冷静だった。

 脳内物質の操作で、思考が加速されたように感じる中、輪切りにされたジャンパースカートを纏わせる、自分の下半身を落ち着いて見下ろしていた。


 ここまでは狙い通りに事が進んだ。

 普段と違って慎重に戦っていたのは、《魔法》の効果を源水(オルグ)に悟らせないため。《躯砲(クホウ)》が自己修復できる《魔法》だとは知られているだろう。しかし印象を薄れさせ、修復可能な限界を見極めさせないために、負傷を避けていた。

 生体コンピュータを破壊されれば元も子もない。だから頭を守る構えを取った。

 袈裟に斬られれば行動できない。だから胴斬りに限定させるため半身になり、腹をがら空きにした。

 そして無防備になる瞬間を作るため、あえて致死性の攻撃を食らった。

 きっと源水(オルグ)は、反撃の可能性を考慮していない。


 予想できなくても無理はない。常人ならば当然、普通の《魔法使い(ソーサラー)》でも、数秒後の死を待つより他ない致命傷だ。傷つく端から治療できる《治癒術士(ヒーラー)》でも、これから行う行為は不可能だろう。

 彼女が可能なのは、《魔法使いの杖(アビスツール)》を二基同時に使っているから。

 そして《魔法使い(ソーサラー)》としての南十星は《狂戦士(ベルセルク)》――死ぬか敵を殲滅するまで戦い続ける、純粋すぎる闘志の持ち主だから。


(《躯砲(クホウ)》――)


 左手に握ったトンファー《比翼》を通じて、下半身のベルトに残したトンファー《連理》と通信し、体を覆う《魔法回路(EC-Circuit)》――オーバーレイ・ネットワークを通じて命令を送り、実行展開中の術式(プログラム)を操作する。


(自動戦闘継続プロトコル、通常細胞移植修復を変更)


 まずは体液流出を防ぐため、切断面に存在する血管やリンパ系全てを、《マナ》を操作して物理的に圧迫。《マナ》によるナノテク応急処置を(ほどこ)し、切断面が乾燥しないよう薄皮一枚だけ張り巡らせる。


(右腕部、右脚部、収束音波砲撃プロトコル実行。焦点未設定)


 更に右の太腿と、右腕の《魔法回路(EC-Circuit)》が変形し、筒状の仮想兵器が三基作成され、音響量子(フォノン)の位相を(そろ)えて増幅する。本来ならば座標を特定して三基からの照射を集中させるが、今回はそのまま並列に設定し、上下半身二方向からの照射で干渉させる。


(動け――)


 《魔法》実行時、オーバーレイ・ネットワークを通じて筋肉に運動信号を送り込むことで、南十星の体は動いている。

 だから意味はない。物理的に切断されようと、機能は繋がっている自分の手足に、声をかける要はない。そもそも横隔膜を切り裂かれたため、普段通りの呼吸ができないことに気づいたのも今なのに。

 上半身だけの南十星は、右手を突き出しながら、肺に残った空気を吐き出し、もうひとつの自分に意思を伝える。


「あたしの脚ぃ!」

『なに!?』


 分断した少女と交錯し、源水(オルグ)が驚きと共に振り向いた先で、膝丈レギンスに包まれた下半身が機敏に動く。転倒をこらえて、右足を真っ直ぐ掲げるのを目の当たりにする。

 そしてフォノン・メーザーが直撃した。

 二方向から放たれた音波のビームは、まずは太刀に変化をもたらした。(はばき)が震えて悲鳴を上げる。柄に固定する目釘(めくぎ)がありえない速度で磨耗(まもう)する。目に見えるほどに切先が大きく(たわ)んだ刀身は、赤熱化するより早く鍔元から破断した。


『ぬおぉぉっ!?』


 一瞬の後、不可視の砲撃は甲冑にも変化を与える。

 装着者を守る強化(パワード)外骨格(エクソスケルトン)は、コヒーレントな超音波を受け止めた。しかし一瞬受け止めて拡散させればいい物理的衝撃とは異なり、リキッドアーマーが機能不全を起こすまでに過熱される。振動で内部のアクチュエータが破壊され、草摺(くさずり)や袖や鍬形(くわがた)は火花を上げて固定が吹き飛ぶ。


【――――!?】


 ハウリング音の悲鳴を上げながら、AIが防御行動(シーケンス)を発動する。見た目不自然に横に跳び、更に南十星が使うのと同等の固体窒素爆発による加速を生み出し、効果範囲外離脱を目論んだ。


 南十星の下半身が爪先だけで跳躍し、回し蹴りで動きに追従する。

 まだ生き残っていた窓ガラスを粉砕し、命中した校舎壁面を粉砕させながら、高出力フォノン・メーザーをもう一度命中させることができたが、それまで。破壊させるには照射し続けなければならないのに、砲身(あし)は敵の軌跡を追い抜き、振り切ってしまった。


(体が軽すぎる……!)


 普段と違って融通の利かない自身の体に、南十星が歯噛みした時、顔面から地面に落下した。同時に上下半身とも、フォノン・メーザー砲の《魔法回路(EC-Circuit)》が消滅する。


「ちっくしょ……!」

 

 普段なら鼻のツンとした熱さにうずくまるだろう。しかし今の南十星はそんな感覚が切り離されているため、すぐさま上半身だけで下半身の方へと這い進む。


『ぐ……これだから、《魔法使い》は……油断ならぬ……!』


 しかしその進路に、鎧武者が立ちはだかる。

 滑らかだった動作は見る影もなく、ただ歩くにも支障が生まれている。動くたびに耳障りな音が生じ、関節部からは火花を散らす。AIかスピーカーの不調か、ラジオのチューニング音のような雑音も垂れ流している。

 それでも動いている。荘厳だった和風甲冑の形状は、破損して変わり果てていることから、贔屓目(ひいきめ)に見て半壊といった被害か。


『しかし、なんという娘だ……!』


 見下ろす源水(オルグ)の声には、まだ収まらない驚愕(きょうがく)と、心からの賞賛がこもっていた。

 南十星は不敵な笑顔を作って返す。


「肉を切らせて骨を断つってね……つっても、切らせたのは肉じゃ済まなかったし、骨までは断てなかったけど……」

『否、それでも見事……お主の覚悟と執念、誰にも真似できぬ』

「勝てなきゃ意味ないっての……スポーツだったら違うだろうけど、《魔法使い(あたしたち)》は負けりゃ死んじゃうんだから……」


 もう抵抗はできない。源水(オルグ)が手を下さずとも、このまま話し続けているだけで南十星は死ぬ。一度のチャンスで仕留めるために、二発のフォノン・メーザーにほとんどの電力を注ぎ込んだため、《魔法使いの杖(アビスツール)》のバッテリーは、数分間の生命維持分しか残っていない。残滓のような電力では、今の源水(オルグ)でも勝てると思えない上に、攻撃を行えば確実に死ぬ。


 続けざまの爆音は、離れた位置から聞こえてくる。無線から聞こえてくる声は、《ズメイ・ゴリニチ》撃破の困難さを伝えてくる。

 こちら側の演算が不必要になれば、あちらの戦いが苛烈になるが、南十星にはどうしようもない。

 当てにしていたわけではないが、いざという時、いつも助けてくれる兄の姿は存在しない。


(あたしじゃダメだ……)


 強敵なのはわかっていた。だから確実な一撃で片をつけようとした。

 それで倒せなかったならば、どうしようもない。後できることと言えば、会話を無線で流して、状況を他の部員たちに知らせる程度。

 南十星は勝利を諦めた。


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