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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と軍事学事情/ナージャ編
191/640

040_1900 秘剣Ⅰ~トランスフォーマー~


「消えた……!」


 一三号館屋上でコゼットは、エマージェンシーブランケットを跳ね除けて、背負った空間制御コンテナ(アイテムボックス)を下ろす。



 △▼△▼△▼△▼



「消えた……!」


 中庭で太刀を避けた南十星(なとせ)は、総面をつけた源水(オルグ)に獰猛な笑みを向ける。



 △▼△▼△▼△▼



「消えた……!」


 校内を戦闘しながら移動し、巻き添えを(よそお)ってまだ残っていた兵士を《バーゲスト》で()ねたナージャは、顔色を矢継(やつ)(ばや)に変える。

 安堵は作戦成功によるもの。

 不安は胸に収まる爆弾起爆の憂慮と、きっと十路の身。

 そして決意。


 なにが起こったかはわからない。用意した手製の榴弾だけにしては、大きすぎて多すぎる爆発が起こり、校舎を盛大に揺らした。

 すると先ほどまで(またた)いていた《マナ》が、発光と放電を止めた。


 《魔法》を封じる、《魔法》による複合電子対抗手段(ECM)神秘の雪(ミスティック・スノー)》が停止した。


 ナージャと車上戦闘を行っていた樹里は、盾杖を片手で引きずり、《コシュタバワー》のシートに(またが)り直す。


「この戦い、終わらせましょう!」


 きっとまた無謀なことをしたであろう先輩の下へ、最短距離で校舎を駆ける。



 △▼△▼△▼△▼



 飛び込んだ校舎の陰で、十路(とおじ)(うめ)く。


「くっそ……! 死ぬかと思った……」


 全身に火傷を負い、体中が引き()る。傷口から流れた血を吸った学生服は、冷たく重く感じる。

 けれども痛みを感じている以上は、致命的な重傷ではない。鈍さを感じながらも、手足は動く。

 だから悪態をわざと口にし、気合を入れる。まだ戦いは終わっていない。ひとまず確認はしなくてはならない。


「おい、起きろ……!」


 《真神》のディスプレイを乱打し、キーシリンダーを出鱈目(でたらめ)に動かすと、やがて反応があった。


【……作戦状況は?】

「誰か知らんが援護してくれたお陰で、第一段階ようやく終了ってところだ……」

【私をかなり乱暴に扱ってくださったようですけど、まだ終わっていないのですね】

「内容的には、むしろこれから本番だ……でも、とっとと終わらせるぞ……」

【とても終わらせることができる状態には見えませんよ?】

「うるさい……無線が回復したなら、他の連中の状況確認をしろ……」


 センサーの遮蔽(しゃへい)を解いたカームに、イクセス相手よりも乱暴に答えつつ、十路は《真神》を操作する。痛みに顔をしかめつつ駐車場まで戻ると、景色が一変してた。校門近辺は訪れた者を出迎える場所である、学校の顔。そのため見た目綺麗に造成されていたが、今は見る影もない。

 樹木は至近距離で強烈な電波を受け続け、葉は枯れたように変色し、幹は炭化して倒れ、小さな火を(くすぶ)らせている。アスファルトは粉砕され、その下に敷かれていた砂利は散らばり、地肌は湯気を上げている。近代的な印象を与えていた建物のいくつかは半壊し、面していた窓は爆風でことごとく粉砕されている。

 正に爆心地だった。


【うぐ……痛いよぉ……】


 その景色の中で、SUVは姿を変えながらも存在していた。無骨な装甲(ボディ)は大きく変形し、ところどころ爆弾の破片が突き刺さっている。防弾ガラスは残骸が残ってるだけで、破片と爆風と熱が破壊しつくした。左前輪は失われ、タイヤはすべて無残にバーストし、黒い塗料は(すす)の黒と入れ替わっている。

 自動車相手にこの表現を使えるのか不明だが、半死半生の風情だった。ノイズ交じりの少年(ルスラン)の声もあれば、哀れさを抱く者もいるかもしれない。


 とはいえ相手は《使い魔(ファミリア)》で、完全に沈黙させたわけでも、戦闘能力を奪ったわけもなかった。

 装甲が軋みを上げる。被爆による変形で阻害されているが、無理矢理に引き剥がした。


【よくも……やってくれたわねぇ……!】


 少女(アナスタシア)が幼い憎悪を発し、後部両サイドからアームと無人銃架(RWS)に支持された空間制御コンテナ(アイテムボックス)が出現する。更に割れて多銃身重機関銃が出現し、十路に向けられた。


【Пошёл на хуй! (くたばれ!)】


 《ズメイ・ゴリニチ》の武装はまだ生きていた。火器管制システム(アナスタシア)が怒りを物理的に表現する。

 しかし乱射は一発も命中はしなかった。センサー能力だけでなく、無人銃架(RWS)にも異常を来たしているらしく、発射反動を吸収しきれず、銃弾はあらぬ場所に弾痕を穿(うが)つ。

 周囲が破壊される只中にいるため、逆に防御行動ができない。迂闊(うかつ)に避けようとすれば、流れ弾に命中するかもしれない。《真神》に這うように身を低くし、煙やコンクリートの欠片を頭から被りながら、十路は歯噛みする。


(やっぱり俺がやるしかないか……!?)


 爆撃で不具合が生じたか、遅れて《ズメイ・ゴリニチ》の車体を、《魔法回路(EC-Circuit)》が包み込んだ。ここまでの損傷に持ち込めたのは、相手の油断に乗じたものだが、自己修復して再度《神秘の雪(ミスティック・スノー)》を発動されたら、今度こそ完全に勝ち目はなくなる。

 事前に《ズメイ・ゴリニチ》の相手は、他の部員に任せることを伝えたが、遅れるならば、また十路が特攻めいた攻撃を仕掛けるしかない。


 しかし援軍が、別々に出現した。

 まずは半壊していた校舎が爆散した。建物を貫通し、大穴を空けた紫電が上方に伸びる。

 高エネルギーの電撃はコンクリートも破砕する。だから高出力レーザー誘起プラズマチャネル術式(プログラム)雷霆(らいてい)》で最短経路を作り、人影が飛び出した。

 粉塵の幕を突き破り、彼女は宙をひと跳びする。一瞬で状況を把握すると十路の前に降り立ち、両手で構えた盾杖の装甲をかざす。

 多銃身重機関銃から放たれるのは12.7×108ミリ弾、もっと大口径の銃弾も存在するが、それでも生半可な装甲では太刀打ちできずに貫通する。

 しかし装着された追加部品――ケースにハードセラミックの玉が詰め込まれた、新世代の防護装置・モジューラーソフトアーマーシステムが、甘い狙いで放たれた銃弾を受け止めた。


「コシュ――!」


 十路を弾雨から守りながら、息つく間もなく樹里は命じる。

 応じるようにわずかに遅れ、まだ形状を保っている建物の昇降口から、無人の大型オートバイが飛び出した。


「変形して制圧攻撃!」


 そして段差を飛び越えた青い車体が、変わり果てた駐車場に着地した瞬間、車両としては小さな機体に詰め込まれた真価を発揮する。

 形状を固定していた補助フレームが解除される。すると前輪走行(ストッピー)のように車体全体が斜めに傾ぐ。しかし二輪は接地されたままという、言葉にすれば不思議な状態になった。

 車体下部から部品が分離し、(すね)になる。フロント部は左膝となる。

 そしてタイヤで接地する二本の脚が出現する。


 同時に傾ぐ車体も九〇度横に向きを変え、その状態から蛇腹を引き伸ばしたように、見た目の体積が増加する。圧縮されて固定されていた頚骨(フレーム)に、遊びと稼動域が生まれる。わずかな動作音を鳴らして鎖骨(シリンダー)が作動し、息を吸い込んだように胸を張る。奇妙な分割がされていた装甲(ボディ)は、その形状通りに離れ離れになって、隙間を守る金属繊維の布が張られ、大人を越える体躯を得た。

 同時に肘と手首を曲げて格納されていた、フレームのみだけとはいえ、かなりの車体体積を占めていただろう腕が伸びる。消音器に偽装されていたものは、その先端で四つバラバラに稼動させて、アンバランスに長い指を持つ左手となる。

 右腕は存在しない。肩の付け根に追加収納(パニア)ケースがあり、そこから変形に取り残されたようにシートのみが存在する。

 頭部も存在しない。機械なのだから、他の部位にセンサーがあれば関係ない。


「マジか……」


 図面(CAD)データを見た時にも思ったが、改めて現物を見て、十路は呆れを漏らす。

 可変機構を有する車両は、決してSFの産物ではない。モーターショーのコンセプトカーなどでは、既に現実の物となりつつある。簡単な変形を行う電動バイクは、一般販売も発表されている。

 もっと複雑な人型への変形も、玩具では当然のように存在し、最近では自動変形する高度なものまで存在する。


【本当に変形するとは……】


 しかしカームが疑っていた通り、本来ありえない。傷つくことが前提の戦闘用としては、開発されるはずがない。身長が伸びることで被弾率が上がり、複雑な機構を有することで脆弱になり、装甲が歪むことで容易に変形不可能になるのだから。変形する戦闘用ロボットなど、計画段階で実用性を疑われる。


 だが現に《使い魔(ファミリア)》は、(いびつ)ではあるが姿を変えた。

 青い車体につけられた名前は、アイルランドに伝承される死を運ぶ怪異――家々を訪れるための馬車(コーチ)を引く馬から引用されている。

 偶然なのか狙っているのか、その伝説を連想する。死霊のように細身で、隻腕の異形で。騎手(デュラハン)のように存在しない頭部で、相手を見据えて。

 Advanced Tactics Variable High-mobility Infantry Fighting Vehicle――特殊作戦対応可変高機動軽装輪装甲戦闘車両 《コシュタワバー》は、車輪(あし)を止めずに肉薄する。


 とはいえ、勝ち目があるとは思えない。元オートバイの貧弱な体躯とSUVでは、重量だけでも違いすぎるのが見ただけでわかる。


【半欠けに変形して、なにができるのよ!】


 接近する異形の機械に憤怒をぶつけ、火器管制システム(アナスタシア)が機関銃を向ける。


【っ……】


 対する『彼女』は、(かす)かな嘲笑を漏らした。

 開脚して極端に姿勢を下げ、フィギュアスケーターのような複雑な回避機動と取りながら側面から接近し、新たな機械駆動音を発生させる。

 後部左――人型の今は右肩前面に搭載された、青い追加収納(パニア)ケースを展開し、()()した。


【がぁ――ッ!?】

【ルスラン!?】


 爆音と金属衝突音の二重奏、更に少年(ルスラン)少女(アナスタシア)の悲鳴と共に、死霊馬(コシュタバワー)三首竜(ズメイ・ゴリニチ)を殴り飛ばした。

 出現したのは、アンバランスな痩身を更にアンバランスにし、一本の鉄塊にしか見えない、『腕』と呼ぶのもおこがましい機械腕だった。打撃面と思われる突起のある側の反対には、昔ながらの弁当箱のような物体が貼り付いていた。

 それが爆発した。戦車の追加装甲に使われる爆破反応装甲(ERA)としてではなく、高エネルギー(HE)コンポジット(C)推進剤として使う爆薬だった。不安定な機動から遠心力を用い、更に爆破の力も加えて、頑丈一点張りの鉄塊を斜め下から叩きつけた。


 すくい上げるような一撃で、たまらずSUVは横転する。片側は格納に間に合ったが、もう片側は間に合わず、自重で多銃身機関銃を潰してしまう。

 途端、ウェポンラックにしている空間制御コンテナが小爆発した。見た目以上の容量を確保するため、《魔法》圧縮された空間の制御が狂い、通常の大きさに戻った。ために内部に納められていた武装は自壊し、破片を飛び散らせながら駐車場の端まで転がり、偶然にも車体の上下を元通りにした。


「オラァッ!!」


 そこに上から追撃が放たれる。ボーリング玉ほどもある金属球が、SUVの屋根に、ボンネットにとめり込む。

 屋上から移動し、宙を浮くコゼットの仕業だった。ガウス加速器に使用した鉄球を、《魔法》で電磁投射したらしい。今度はハンドメイドの出来損ないではない、正真正銘仮想兵器の破壊力そのままを叩きつけた。


【Ёб твою мать...! (畜生……!)】


 ノイズ混じりの(ののし)りを上げる車を見据えたまま、《コシュタバワー》は激突で変形した右腕を切り離した。

 腕を交換した。空間圧縮コンテナ(アイテムボックス)が作動し、左腕より太いがやはりフレームのみで構成された、精密作業可能な(マニピュレーター)を供えた腕を出現させる。

 そして右肩背面側の、樹里の赤い空間制御コンテナ(アイテムボックス)が作動する。拡張装備である《剣歯(セイバートゥース)》と名づけられた人ほどもある片刃剣の固定パーツを握り締めて引き抜く。 

 更に外部出力デバイスである左腕の四本指が《魔法回路(EC-Circuit)》を形成させ、先端に《Plasma-physics APS(プラズマ物理学近接防護システム)》のプラズマアークを灯す。

 無骨な金属の刃と《魔法》の爪を構え、滑らかな疾走で接近戦を挑んだ。


「先輩、大丈夫ですか?」


 特撮映画の様相を呈してきた戦闘から目を離し、ようやく樹里が振り返った。背後に(かば)った十路に気遣いを向けるが。


「俺のことはいい! あの《使い魔》を破壊しろ! 一秒でも早く!」


 《治癒術士(ヒーラー)》の彼女は治療しようとしたのかもしれないが、優先すべきことは他にあると指示する。


「クッソ……! 厄介ですわね……!」


 コゼットが地面を操作し、土塊(つちくれ)の巨腕を作成して叩きつけた。

 《コシュタバワー》も剣を叩きつけ、灼熱の爪で引っかく。

 しかし《魔法回路(EC-Circuit)》を(まと)う《ズメイ・ゴリニチ》は、損傷を見る間に修復していく。その速度は決して早いものではないが、装甲の凹みや亀裂は確実に修復され、内部へのダメージを軽減させる。しかも今の状態では、直接車体に《魔法》を実行して破損させることはできない。

 しかも一門残った武装を次々と交換し、多銃身機関銃だけでなく、対戦車ミサイルや自動擲弾発射器を乱射する。

 爆炎に照り返される姿は、手負いの獣だった。一輪破壊された状態でも懸命に移動し、必死に抵抗しているため、コゼットたちが返り討ちにされる可能性も充分にある。


「ちょっと手間取るかもしれません! コシュは後で追わせます!」


 それを理解し、樹里は頷く。


「仕方ない! 早めに頼む!」


 今から十路にも《コシュタバワー》が必要になる。

 とはいえ、こちらの戦闘が終わるのを待っていられない。南十星が源水(オルグ)の足止めをしているため、猶予(ゆうよ)はない。


「部長! 北側へ追い込んでください! ここじゃ場所が悪いです!」

「勝算はありますのね!?」

「大丈夫です!」


 樹里が叫びながら駆け出す。

 それを見届け、十路は《真神》のハンドルを切る。


 源水(オルグ)と南十星が戦っているだろう中庭に向かうため、またも校舎に突っ込むと、《バーゲスト》に(またが)るナージャがいた。体内の爆弾を《ズメイ・ゴリニチ》が爆破する可能性もあったため、視界に入らないよう隠れて様子を(うかが)っていたのだろう。


「いいんだな?」

「はい」

「今ここでナージャの爆弾を無力化できない。それでもか?」


 危険を確認しても、彼女は躊躇なく頷いた。

 過去と決別するために。新たな苦難に踏み出すために。


「チャンスは今しかないでしょう? 時間がありません。行きましょう」


 師を倒す意思を伝えてきた。


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