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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と軍事学事情/ナージャ編
190/640

040_1830 紫電の雪降る夜、学舎にて狩人たちはⅧ~体当り殺人狂時代~

 消火器榴弾は目標よりも手前に落ちたが、勢いよく地面を跳ね、そのままSUVへと向かう。しかし効果的なタイミングで爆発するには、導火線が短かった。


【きゃ!?】


 外部出力する機器は、やはり遮蔽しているのだろう。至近距離の爆発に、少女(アナスタシア)が車内スピーカーで悲鳴を漏らしたが、それだけだった。

 消火器の破片は車体を傷つけ、防弾であろうフロントと運転席側のガラスにヒビを入れたが、致命的損傷には遠い。《神秘の雪(ミスティック・スノー)》を発生する、周囲に張り巡らされた平面アンテナような《魔法回路(EC-Circuit)》は、爆風で一瞬揺らぐに終わった。


「直接叩き込まないとダメか……!」


 建物の影から点検鏡を使って確認し、十路は舌打ちした。


 原始的な榴弾では、対戦車兵器としては非力だとわかっていた。

 《魔法》が使えるならば、もっと高度な兵器を前もって用意できた。学校ならば相応に材料が揃っているのだから、成形炸薬弾(HEAT)くらいは用意できる。

 しかし十路は、そのような事はわざとせず、ハンドメイドの兵器を用意した。本格的な兵器を作ろうにも、後の事を考えたら厄介すぎるために。

 だからこの状況は、不出来な兵器で突破するしかない。巻き込まれるのを避けるため、コゼットの攻撃を様子見していたが、こうなれば動くしかない。


 エマージェンシーブランケットを頭から被り、壁に立てかけていた改造消火器を手にし、十路は静電気の火花を散らす《真神》に(またが)る。

 肩に担ぐ消火器は、レバー部分を中心にして二本を連結している。後方のものは、外観に改造は見られないが、内部にシャフトが通っている。それで底を尖らせた消火器と連結されている。

 まるでガラクタで作られたロケットランチャーだった。そして実際のところ、大差はない。


 導火線を露出させて着火させ、肩で支えて左手でそれを持ち、右手でアクセルを動かし、意を決して建物の影から飛び出す。

 途端に豪雨のような凄まじいショート音が発生した。電波の暴風に飛び込んだために、エマージェンシーシートで反射されて、折り目の先端から連続して放電する。雷雲の中でも、きっともっと静かだろう。


「ぐ……!?」


 しかも無傷では済まない。完全密閉しない限り、電磁波は回折し、衣服を透過し、皮膚を焼く。

 至近距離で直接晒されれば、何秒間生きていられるかわからない。だからシートを被っているが、おかげで全く見えない。見えたら真っ先に目玉が茹で上がる。

 しかし、そこかしこで燃えている炎を突っ切り、ほぼ真正面から近づくだけなので、困りはしない。少しの間、痛みに耐えれば済む。

 《魔法回路(EC-Circuit)》に触れた際、一際強力なエネルギーに焼かれたが、痛みを感じた時には突破した後だった。フロントグリルに衝突して投げ出され、十路は一回転して《ズメイ・ゴリニチ》のボンネットに背中から落ちた。


【お兄さん、結構無茶するね?】

【私たちを足止めしたのは、こういうこと】


 さすがに車体を取り巻く《魔法回路(EC-Circuit)》の内側は、肌を焼くほど強力な電波は存在しない。しかし完全な無影響ではないらしく、《神秘の雪(ミスティック・スノー)》を発生させる《ズメイ・ゴリニチ》本体も、センサーを遮蔽しているらしい。

 とはいえ、オートバイ型《使い魔(ファミリア)》とは違い、内部に空間を持っている。少年(ルスラン)少女(アナスタシア)は、車内スピーカーで声を上げて、車載カメラで十路の行動を視認している。


「無茶しなきゃどうしようもないからな!」


 薄い煙を上げながら十路は上体だけ起こし、屋根で燃える炎に構わず、手製の対戦車兵器を突きつける。

 向ける先は当然フロントガラス。ポリカーボネートを積層した防弾ガラスだろうが、装甲(ボディ)よりはずっと弱い。

 そして不出来な榴弾であろうと、車内で爆発すれば、《神秘の雪(ミスティック・スノー)》の持続どころではなくなるだろう。


 連結させた消火器の底部を腹に押し付け、十路がレバーを引くと、先端が発射される。

 PIAT(ピアット)――第二次世界大戦時、イギリス軍が開発した、初期の歩兵用対戦車擲弾発射器は、強力なバネで発射していた。さすがに信頼を置ける命中精度ではなかったが、後にロケットランチャーが開発・配備されるまで、広く使用されていた。

 同様に十路が(たずさ)えた改造消火器も、製作するコゼットに『出来るだけ強力に』と要求した、人力では再装填不可能なほど硬いバネを使用している。


「うごっ!?」


 とはいえ反発力の強さは、予想以上だったが。腹への打撃そのものは、防弾チョッキの耐小銃弾板が受け止めたが、体が飛ぶほどの衝撃はどうしようもない。《神秘の雪(ミスティック・スノー)》の安全圏から放り出され、駐車場のアスファルトを転がることになる。


「ぐっ……!」


 再度猛烈な電波に(さら)されて(うめ)いた瞬間、消火器榴弾が爆発した。

 バネの反発で離れたとはいえ、近距離には違いない。爆風はもちろん、金属容器の破片までも十路に襲い掛かる。

 その結果は、すぐに判明した。


【……無駄な足掻きだったわね】

【まぁ、ちょっとビックリしたけど】


 少女と少年の声だけでなく、電波の暴風は止んでいないのだから、腕でかばったまま目で見ずともわかる。

 自爆覚悟の攻撃も、《使い魔(ファミリア)》には通用しなかった。


(くそ……!)


 目を焼かれないよう《ズメイ・ゴリニチ》に背を向けたまま、十路は周囲を確認する。少し離れた場所に《真神》は倒れていた。

 駆け寄ろうとしたが、足が動かない。見れば消火器の破片が、左のふくろはぎに突き刺さっている。ナージャと戦った際の負傷と合わせれば、かなりの重傷だ。

 それでも十路は匍匐(ほふく)前進で、必死に《真神》に近寄る。


【直接私たちが轢き殺してもいいんだけどね】

【このままでも死んじゃうんじゃない?】

【それもそうね】


 無邪気で残酷な子供たちの声に構っていられない。

 生存や勝利への執念だけではない。エマージェンシーブランケットも失われたため、このまま倒れていれば丸焼きにされてしまう。

 とはいえ、この後の見込みなどない。


(どうする……!?)


 榴弾は一発だけではない。予備を用意している。

 しかし至近距離の直撃でも、《ズメイ・ゴリニチ》の防御を貫くことができなかった。

 あと考えられる方法は、車体を下から爆破する。普通は地雷以外では不可能な攻撃だが、戦車の装甲の場合、車体底部は比較的薄い。車の形をした《使い魔(ファミリア)》にも同じことが言えるか疑問だが、下部こそ電子機器が多いと思われる形状のため、試してみる価値はあるかもしれない。車高が高いため、戦車に比べれば実現性はある。

 まとまるはずのない考えを強引にまとめ、絶望感と苦痛を誤魔化しながら、十路が《真神》に辿り着いたら。

 静電気の嵐に負けぬ轟音で、離れた駐車場の隅に金属塊が落下し、戦場を一時停止させた。


【は?】

【え?】


 遮蔽はせずともセンサー感度が低下するため、AIたちが気づくはずもない。気づいたとしても、自動発射の簡易迫撃砲や、ガウス加速器による榴弾砲と、同種の攻撃と認識したかもしれない。段違いの大きさは、大型のガスボンベかなにかを使ったと。


 十路にとっては完全に想定外だった。《魔法使い》程度には到底無理な、未来予知できる超能力者でないと不可能な想定だろうが。


「ウソだろおおおおぉぉぉぉッッ!?」


 (かす)む目で認識した瞬間、総毛立った。

 アスファルトを砕いて変形しながら跳ね、静電気の火花を放って転がる物体は、人ほどもある爆弾――ダグラス・エアクラフト社が製造した、航空機搭載型500ポンド級爆弾Mk.82だった。

 何者かはきっと警告のために、わざと不発にしたものを投下した。

 その推測ができたのは、四枚羽(フィン)を開いて空気抵抗で減速する、特徴的な航空爆弾の投下音が聞こえてきたため。

 何者の仕業なのかも、全身の痛みも忘れ、十路は倒れた《真神》を引き起こす。


【ルスラン! まずい!】

【わかってる!】


 遅れて事態を理解したらしく、さすがに《ズメイ・ゴリニチ》が慌てた声を上げた。車止めを強引に突破しようと、後方に衝突する限界の距離を下がった。


【痛っ!?】


 しかし突如、左前輪が食い千切られた。その後に遅れて発砲音が(とどろ)く。曲がりなりにも装甲車ならば、タイヤもホイールも特殊なはずだが、シャフトが破損し易々(やすやす)と吹き飛んだ。

 《神秘の雪(ミスティック・スノー)》の影響外から、何者かが大口径火器で狙撃破壊した。


【ちょ……!】


 正体不明の援護も、慌てる少女(アナスタシア)の声も、十路は無視する。《真神》に(またが)り全速力で離脱する。


 強電磁波に触れ、上空で暴発することはなかった。レーザーやGPSを使わない、無誘導自由落下のはずだが、驚異的と呼んでいい正確な爆弾投下だった。

 銃火器や爆発物を使えないはずの戦闘にも関わらず、今夜は幾度となく爆発が発生している。

 その中でも一番の大爆発が、連続して発生した。


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