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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と軍事学事情/ナージャ編
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040_1730 紫電の雪降る夜、学舎にて狩人たちはⅣ~JUNK/死霊狩り~

 他の部員たちが奇策を用いている中、樹里は正攻法で――ただし最も非常識に戦っていた。


 リノリウムの床を石突で突き、両手で保持して立てる。長杖を中央に設置する追加装甲の盾に身を隠して、探し出した敵へ駆け寄る。

 淡い光が多数明滅する廊下を切り割いて、二本の矢が宙を走ったが、どちらも盾で弾かれるので構わない。

 そのまま接敵し、下端を跳ね上げ鼠径部(そけいぶ)を下から打つ。生身の男相手に行えば大変なことになるが、戦闘用スーツに守られているため遠慮がない。

 ()()るように得物を振り上げ、中国武術の棍法では蓋棍(ガイグン)と呼ばれる技を繰り出す。巨体は浮き上がり天井へ激突し、更に後ろに放り投げられ、床へ叩きつけられる。


 一歩後ろにいたもう一人の敵には、盾杖を体の左右で回転させる攻防兼備の棍法・提撩舞花(ティリィアオウーファ)を繰り出しながら接近する。

 左右下方からの重い連続打撃に打ち据えられ、敵は斧を構えることも許されず、右に左にとふらついて。


「せいっ!」


 気合と共に、真っ直ぐ繰り出される中段突き・前戳棍(クァンチョグン)で吹き飛ばされた。


 要所を守る追加装甲を破壊した、重い得物で行った樹里の攻撃は、最先端の戦闘用スーツでも完全に防御できないらしい。まともに受けた二人は、装備を力任せに破壊され、痙攣(けいれん)するような動作以外は行わない。

 防具がなかったならば、きっと命を失っていた。


(《魔法》の身体能力補助に問題なし、と……)


 敵二人を手早く片付け、樹里は改めて、自身の体を確認する。


 彼女自身、自らの異能を詳しく理解していないため、十路(とおじ)と同じ心配を持っていたが、つばめの言葉通りらしい。

 校内に満ちる電磁波は、体内までは届かない。《魔法》を実行し、怪力を発揮する程度ならば可能だった。

 とはいえ、完全に普段と同様には戦えない。《魔法》を体の外で発揮させるのは不可能だ。それにある程度の電磁波(EMP)対策が(ほどこ)されているとはいえ、あまり手荒に扱っていると、《魔法使いの杖(アビスツール)》が破損するかもしれない。鈍器として使うには問題ないが、電子機器として使えなければ困る場面が、このまま作戦が進行すれば必ず出てくる。

 加えて、脳内センサーが全く利かない。《魔法使い(ソーサラー)》が《魔法使いの杖(アビスツール)》を持った時に発動する第六感覚は、樹里の場合は常に起動状態にあるため、体の一部を失ったような不安に(さいな)まれる。


「ふぅぅ……」


 細く長い息を吐き、樹里は気を(しず)め、(ふる)い立たせる。


(私は人間じゃない……)


 細身の女子高生が、自重を軽く超える得物を、軽々と振り回して戦っているのだ。フィクションの世界でなければありえない。

 そうでなくとも、夕方には完全に人外であることを、他の部員たちに見せてしまった。記憶はなくとも、顔を会わせた時の南十星の反応から、なにが起こったかくらい推測できる。

 戦闘開始前に『今は忘れろ』と十路に言われたが、簡単に切り替えられはしない。


 木次樹里は、人間ではない。

 一般人には人間兵器と見なされ、部外視されがちな《魔法使い(ソーサラー)》とも異なる。


(だけど、私は人でいたい……)


 だが、強く思う。

 霊長目ヒト科ヒト属からは外れていても。そんな特殊性を自覚しているが(ゆえ)に。

 自分のために。そして誰かのために。

 よく小学校の国語や道徳で『人という漢字は人が互いに支え合っている姿を表している』などと教えられるが、そんな風に行動できる存在でありたい。


「……よしっ」


 ひとまず気持ちを切り替えて、校舎内を探索する。

 《魔法》を封じられても、彼女の鋭敏感覚は健在している。淡い光の明滅に(わずら)わしさを覚え、電気分解で作られるオゾンやアンモニアの匂いに眉をひそめ、時折校内に響く戦闘音に不安を感じつつ、目と鼻と耳で敵を探る。


 すると、同じ校舎内での戦闘音を耳に捉えた。

 発生源に向かって駆け出すまでもなく、廊下の曲がり角から鎧の兵士が吹き飛んで、窓を割って外に飛び出した。


 数秒の後に、静かになった廊下から、そんな力技を行った者が現われた。

 異様だった。

 現われた様はスケート初心者のように、壁に『片手』を突きながらのヨタヨタした足取りで、力技の印象を(くつがえ)してくれる。シルエットも痩せ細り、古典じみた死神のような心証を抱かせる。

 更に、樹里からすれば兵士たちも充分上背があったのに、巨体はその上を行く。

 背の高い者を『頭が天井につきそう』などと表現するが、その言葉を使うことが不可能なのも、異様である最たる理由だ。

 姿を現した者に、頭部が存在しない。


「大丈夫?」


 しかし樹里は知っているので、恐れもせずに近づく。

 頭部が存在しないのとは違う理由で『眼』が見えていないはずだからと、マナーに(のっと)り胸板を軽く三度ノックする。これをしないと、先ほどの敵と同様に張り飛ばされる危険がある。

 次いでモールス符号で『OK?』と問う。巨体はぎこちなく左腕を上げて、問題ないと伝えてきた。


 この校舎におびき寄せた敵は、排除したはずだ。行動不能にできたか確認をし、同時に敵を探して移動するべきか。

 樹里は行動方針を決定し、それを巨体に伝えようとした。


 その時、視界の隅に動くものを捉えた。同時に電気の音に混じり、金属同士を打ちつける音が耳に届いた。

 振り向くと、通路や中庭を挟んで建つ校舎の廊下を、二つの人影が疾走したところだった。


「堤先輩……?」


 距離はそれなりにあるが、樹里ははっきりと確認した。

 十路とナージャが移動しながら戦っていた。彼女を裏切りを誤魔化すための、予定通りの行動なのだから、交戦そのものは問題ない。

 だが、様子のおかしさを覚えた。


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