040_1230 影は黄昏に剣舞すⅣ~キートンの鍛冶屋~
だからコゼットは、《魔法》をフル活用する破目になった。
理工学科ならば、様々な実験実習を行う。その時に着用する作業服を着て、金髪は一本にまとめてヘルメットを被った姿で。
「だぁぁクソ! 遠慮なしにコキ使いまくりやがって! 押し付けやがるなら強度計算ぐらいしてから寄越せっつーの! こちとら地質調査もせにゃぁならんのじゃぁぁっ!」
階段の踊り場に胡坐をかき、その膝に装飾杖を置き、手書きの作業リスト、簡易設計図、見取り図などを見て吼えながら、なにやらノートに計算していた。その姿に王女らしい容姿端麗優雅さなど、ピコグラムも見受けられない。
「ゴーレム四番と五番! 水道管はそこに置いて! で、ゴーレム七番! コード引っ張れ!」
そこから見える校舎の屋上では、全身鎧を着た兵士たちが動いている。二足歩行ロボット作成・操作術式《軍事論/De Re Militari》で作られたゴーレムが、資材を運ぶのを指示する姿は、正に現場監督だった。彼女の頭の中で操作しているのだから、口に出して指示する必要性は全くないはずなのだが。
(支持架と底盤を作って組み立てりゃいいだけですから、簡単なんですけど……問題は『炸薬』ですわよね)
兵士に命令を与えながら、彼女は腕組みをして考える。
美術室のイーゼルや、報道部のカメラの三脚などを持ち寄せた支持架に、径を合わせて底を塞いだ金属パイプを立てかけていた。底部分に運動部の部室にあったバーベルの重りを改造して置き、更に管の底部分から外にコードが伸びている。
そしてコードの先は、金属箔で覆われた衛星放送電波受信アンテナや、ビニールの小間を金属箔に変えたコウモリ傘に繋げられ、屋上に固定している。
(集電量は概算にもなってない超アバウトな数字しか出せませんから、ニクロム線の発熱量が不明ですし……そもそもこれ、設置型ですから、ちゃんとハマってくれるのかどうか……)
コゼットの視線が、他の建物に移る。
(あっちは電気要りませんけど――)
彼女の作業結果はこれだけではない。監視されているため、現状ではあえて未完製の状態で隠しているが、別校舎の屋上には、別の武器を作って設置していた。
材料は径を合わせたパイプに、《魔法》で成形した金属球と、永久磁石。あとは角度を調整できる稼動式の台くらいだ。
なので原理そのものは理科の実験レベルの単純なものだ。永久磁石はそれなりの大きさが必要だったが、パソコン、携帯電話、エレベーターまで幅広く使われている物体だから、製作に必要な数に問題はなかった。
問題があるのは使用だろう。
(実際のところ、ちゃんと狙い通りに飛ぶか、責任持てませんわよ……? 超伝導電磁石が動かせれば、もっとちゃんとしたの作れますけど、《神秘の雪》発動中は意味ないですし)
それを作るよう指示した十路に、コゼットは不安を抱く。
彼が武器を自作するのは、今に始まったことではない。そして建前上民間人である自分たちの立場から限定されるため、本格的な武器を用意できないのも理解できる。
しかし手作り感満載の武器で、特殊部隊と相対しないとならないのだ。
(あの方、こんな武器で《魔法使い》にも勝ってんですわよね……? どっかの考古学者兼保険調査員かっつーの)
部室の本棚にある古いマンガを思い出し、そして今度は自分も真似することに、ゲンナリとため息をつく。
しかし不思議と恐れはない。そして退く気もない。
(世話焼かすんじゃねーっつーの)
以前にも彼は、命がけで自分を救ってくれたのだから。
ただその時と同じことを、彼に返すだけだと思えてしまう。
「さーて……こいつは怖すぎるから実験しないと」
ひとまず計算を終えたペンを、ヘルメットと頭の隙間に入れてかき、兵士の一体に試作改造した消火器を持たせ、階段を降りる。
一目で改造した消火器のわかるものだが、奇妙な形状をしていた。赤く塗装された金属容器二本を組み合わせた、奇妙な物体だった。後方のものはホースを切り取っただけに見えるが、ネジ山を切った太いシャフトが中心を貫いている。先端のものは、今は試験用のため、レバー部品を取り除いているだけだ。
敵方の監視に見せたくないため、北側から見えないであろう向きの廊下に移動し、放置自転車を分解し組み直した罠の脇で、兵士に構えさせる。
「はい、発射」
そして無造作に命令を下すと、重さ一〇〇キロを優に越える兵士が、後ろにすっ飛んだ。
「……………………」
武器の性能については、この際どうでもいい。大問題なのは兵士が回転しながら遠ざかったことだ。シンプルで古風な外装がへしゃげ、四肢がバラバラに分解した想定外の事態に、コゼットもしばし硬直していたが。
「……堤さんなら、死にはしないでしょう」
仕様通りに作ったのだから、なんとか工夫して使うだろうと無慈悲な結論を出し、残る作業を進めることにした。
上司やスポンサーの求めに応じて仕事をする現場の技術者たちは、往々にしてこのように妥協を積み重ねる。




