040_0621 捕獲作戦Ⅴ~呀-KIBA- 暗黒騎士鎧伝~
『幽霊』と南十星は、すれ違う車も追い抜く車もない、ナトリウムランプに照らされたトンネルを駆け抜ける。
神戸港港島トンネルは、ポートアイランド南海上にある神戸空港への交通量緩和のために建設された。とはいえ、意外と入り口が知られておらず、その上に深夜ともなれば、交通量は更に減る。
しかし今は、そんな事情で交通がないのではない。
『……!』
『幽霊』は嫌でもその理由を理解することになり、ゆるやかなカーブを曲がった時点で立ち止まった。高速で走っていたにも関わらず、制動距離が存在せず、本当にピタリと立ち止まる不思議な止まり方だった。
『幽霊』の前には、せり上がった床がそのまま壁としてそびえ立ち、トンネルを完全に塞いでいた。
こんな大規模な物質操作ができるのは、支援部員の中ではコゼットだけだ。そして入ってきた本土側の出入り口は、樹里が通行止めしているに違いない。
『はぁ……! はぁ……!』
窮地に追い込まれたことを理解しただろうが、『幽霊』は次の行動に移る様子もない。陸上競技としては認定されていない、街を舞台にした長距離障害物競走で全力疾走していたのだから、鍛えられた人間でも限界だろう。疲労困憊の体で地面にへたり込む。
そして身にまとっていた影の鎧が解除され、黒ずくめの元の格好が露になった。
「ここまで? それともまだ鬼ごっこ続ける?」
加速の勢いを殺し、靴底を削りながら止まった南十星は問う。ただし体を覆う《魔法回路》は解除せず、距離を保ったまま、不意打ちにも対応できるよう警戒する。
『……っ、……っ』
『幽霊』は反応しない。両手を地に突き、息を荒げて肩を上下させ、覆面を被ったままの顔を上げようともしない。
南十星の心に迷いが生まれる。
『幽霊』の体力回復を待つ理由も必要性もない。しかしコゼットと樹里はトンネルの出入り口を塞いでいるため、手を借りれない。こんな事態は十路に判断を委ねた方がいいとは思うが、まだやって来ない。
そもそも『幽霊』の能力が《魔法》だとしても、《魔法使いの杖》らしき物を持っている様子がない。ホルスターやベストのポケットに中身があるのは確認できるが、本来《魔法使いの杖》はそんな大きさにはできない。南十星が握り締めるトンファーですら、《魔法使いの杖》としては小型の部類に入る。しかも現状のサイズでも機能を削られ、特異な《魔法》を持たない普通の《魔法使い》ならば、欠陥品と判断する代物なのだ。それよりも装備を小さく作るなど、考えにくい。
そのため能力の正体が掴めず、判断に迷う。
(どうしたもんかね……)
一気に飛びかかるか、様子を見ながら近づくか。南十星は行動を決めかねる。
そうしていると、海底の更に下にいるため静かだったトンネルに、駆動音が突入してきた。
(来た――)
大気中の《マナ》と通信し、そのパラメーターを受け取ることで、周囲の状況を感知する脳内センサーに、反応が現われた。
得たデータを画像処理化すると、オートバイに乗ってヘルメットを被った人物像が脳裏に描画される。
南十星は振り向かない。『幽霊』から目を離すと、どんな反応をされるかわからない。
「兄貴! どうすりゃいい!」
だから無防備に背中を向けたまま、疑問の声を投げかけて。
左足を少し上げ、足音を鳴らして踏みしめる。
すると体を覆う《魔法回路》が延長され、足元のアスファルトとコンクリートを操作して、巨大な仮想の左脚を作って蹴り上げた。
『うぉぉっ!?』
驚きの声を上げながらも、接近する背後の存在は避けた。コンクリートの巨足が天井に衝突し、トンネル全体が振動する中、オートバイは壁面に衝突することなく、南十星の視界に入って停車する。
やって来たのは学生服の兄ではなく、ライダースーツに身を包んだ男で、跨っているのは赤黒彩色のハイパワー車ではなく、メタリックシルバーに塗られた大型オフロード車だ。
南十星もまた、戦った因縁を持つ者だった。
『『まさか勘違いしてる?』とか、一瞬期待しちまったじゃねぇか……!』
【間違えたのはわざとでしたか……】
市ヶ谷と《真神》のAIカームは、辛うじて避けた攻撃に焦った風だった。
彼らも油断していなかっただろう。南十星が振り向けば、十路たちではないのは一目瞭然なのだから、むしろ間違われると思って近づくはずがない。
「ばーか。兄貴とイっちー間違うワケないじゃん」
だから南十星は逆手にとって油断を誘い、一撃を入れようとした。それも反射的に疑問を抱いてしまい、誘いであると考える間もない、絶妙のタイミングで。
「で。なんなの、おにーさん。いま忙しいから、用があるなら後にしてくんない?」
因縁のある相手であるが、物事の優先順位は忘れていない。南十星が両のトンファーを構えて戦意を見せる。
『今日の用事はお前がメインじゃないんだが……』
市ヶ谷は《真神》の右後部横に搭載した空間制御コンテナから、巨大な十字型の穂先を持つ鎌槍を取り出した。
『そいつをお前たちに引き渡すわけにもいかないんでな。邪魔させてもらうぞ』
ヘルメットを被った頭が少し動いたことから、もしかすれば『幽霊』を顎で示したのかもしれない。
(チとマズイなぁ……)
南十星は内心で歯噛みする。
市ヶ谷は、強い。以前戦った時には、完全に敗北している。現状での目的が彼と戦って勝つことではないとはいえ、交戦をいなしながら『幽霊』を確保するなど不可能だろう。
部員の誰かと合流しないと、南十星一人ではどうにもならない。だからどう時間稼ぎをしたものかと考えながら、頭の隅では別の疑問も考えていた。
市ヶ谷は助けに来た風なのに、『幽霊』の仲間というわけではないらしい。
「どうして……」
まだ息の整っていない女の声で、地に手をついたまま『幽霊』が問うから。
彼女と市ヶ谷には、面識があって当然だ。以前の部活動で、市ヶ谷は敵対姿勢を見せ、『幽霊』は第三勢力とも言えぬ不思議な状態で、共に総合生活支援部と交戦したのだから。
だが、敵ではないかもしれなくとも、味方とも言い切れないだろう。
現状ではあくまで推測でしかないが、彼らが所属すると思われる、日本の防衛省とロシアの対外情報局が協力関係にあるというのは、社会の闇事情など知らぬ南十星が考えてもやはり奇妙だ。
『気まぐれだ。アンタらの組織からなにか言われたわけでも、俺の任務とも関係ない。アンタを捕まえようと、支援部の連中が無線フルオープンで騒いでたから、来てみただけだ』
オートバイから降りず、『幽霊』に背中を向けたまま、市ヶ谷は問う。
『お節介だってなら引き下がる。どうする? 俺はどうすればいい?』
声は変換されているが、存外に優しい人物のものではないか。そんな想像を抱かせる調子で、しかし助けに来たわけではないと、他人に行動権を委ねることを許さないと、市ヶ谷は問いを重ねる。
「…………」
それに『幽霊』は答えない。顔も上げない。
(どゆこと? 助けを求めちゃマズイ相手ってこと?)
だとすれば、市ヶ谷の気まぐれという言葉も理解しがたい。
市ヶ谷と『幽霊』の関係が全く見えてこず、南十星は構えを崩さぬまま、疑問に眉をひそめる。
△▼△▼△▼△▼
既に《使い魔》との機能接続を行い、《魔法回路》の浮かぶ、傷口から血が流れる手で、十路はアクセルバーを更に捻る。
『先輩、すみません! 突破を許してしまいました……!』
「それはいいから木次、タイミングを合わてくれよ?」
入り口を封鎖していた樹里は、市ヶ谷たちの突破を許したことを悔やんでいる様子だが、彼の強さや実戦経験から推測すると、仕方ないだろう十路は思う。気にせずに手順を行えと無線で指示を出す。
「部長もタイミング合わせて壁を。早いのも困りますが、遅すぎるのは厳禁です」
『了解ですわ!』
こちらからでは出口に当たる、人工島側に先回りしているコゼットは、既に準備万端の様子だった。
「イクセス、赤外線視覚用意。混乱するなよ」
【言われなくても大丈夫です】
走りながら最終確認をし、十路は海底トンネルに飛び込んだ。
緩やかなカーブを曲がれば、その光景はすぐに目に入る。トンネルをふさぐ巨大な壁、影鎧を解除して地に手を突く『幽霊』、《使い魔》に跨ったまま槍を構える《使い魔》乗り、彼らと対峙して背中を向ける改造学生服の女子中学生。
「なとせぇ! 死ぬ気でこっちに来い!」
「あいよ!」
スピードを緩めぬまま十路は叫び、右ハンドルバーの固定を解除し、コード類を引き出して、銃のように構える。対峙していた相手への躊躇を見せず、南十星が全速力で距離を詰め始めたのを認め、《使い魔》へ指示を出す。
「砲撃用意!」
【Open fire ready.(砲門展開)】
《バーゲスト》が進行方向に対して真横に体を向け、路面を滑りながら新たな動きを見せる。
後部右横に搭載された赤い追加収納ケースが駆動し、無人銃架が展開され、一メートルほどの筒が出現する。
樹里の《魔法使いの杖》に装着する拡張装備のひとつ、分離状態でも無反動砲として機能する《Roar Cords》が、砲弾を装填して市ヶ谷たちに向ける。
「術式解凍展開! ラムジェット砲弾!」
【EC-program 《Ramjet assisted projectile》 decompress.(術式《極超音速砲弾》解凍)】
「!?」
無反動砲が《魔法回路》をまとい、砲口から《魔法》の輝きが放たれる。その様と、十路とイクセスの受け答えに、軍事知識に乏しい南十星以外の二人から、驚愕の気配が漏れた。
ラムジェット砲弾とは、実用化には至っていない研究中の砲弾のこと。簡単に言えば、普通ならば砲身内の爆発で打ち出すだけの砲弾を、超高速ジェットエンジンと一体化させたものだ。射程距離は数百キロまで拡大し、マッハ一〇を超える運動エネルギーを持ったまま命中すれば、爆薬や弾頭の種類など関係なく巨大な破壊力を生む。しかも迎撃しようにも認識した時には手遅れになる。
閉鎖されたトンネル内で《魔法》で再現された代物を放てば、通過する衝撃波だけでも悲惨な結果を生むだろう。しかもここは海底トンネルなのだから、衝撃波は拡散せずに風洞のように内部に駆け抜ける。更に壁面が破壊されれば、瓦礫が混じった大量の海水がなだれ込んでくる。
いかに《魔法使い》といえど、生存は絶望的だろう。しかも放った十路も被害を被るはず。
「撃ぇ――!!」
なのに十路は構わずに、発射桿となったレバーを右手で引こうとして。
「――なんてな」
ヘルメットの中で不敵に笑い、《魔法》をキャンセルして砲身の《魔法回路》を消滅させて、飛び込んできた南十星を左手で受け止める。
彼の行動に、誰かが怪訝に思う間もなく、次なる変化が訪れる。トンネル内では無線電波の通りが悪いが、たまたま樹里の声を受信することができた。
『《雷霆》実行!!』
雷閃が瞬き、雷鳴が響き、ナトリウムランプが一斉に火を吹いた。
これが十路が突入前に行った指示のひとつ目だった。突入した後、配電設備に高圧電流を叩き込んで、照明を破壊する。
人工島側の出口は、壁でふさがれている。本土側の出口は、曲がり角の向こうで遠い。停電ならば灯る非常口への誘導灯も、過渡的な異常電流で破壊された。
海底トンネルは、瞬間的にほぼ暗闇になった。
「ひっ……!?」
駆動音の中でも、息が詰まったような、悲鳴とは言いがたいが切実な悲鳴が聞こえた。それこそ十路の想像と狙いが一致した証だった。『幽霊』はうずくまって動かない。闇でも見通す《使い魔》の赤外線視覚と、《魔法使い》の脳内センサーで、それを確認できる。
「引っ張り上げろ!」
「よくわからんけど応よ!」
南十星をタンク部分に腹ばいに乗せて、十路も片手を空けて身を屈める。
車体を横に滑らせたまま、《バーゲスト》が『幽霊』に突撃したところを、二人がかりで掴み上げる。
「後退!」
自爆と同等の攻撃準備、突然の暗闇、二重のめくらましから市ヶ谷が反応する前に、《バーゲスト》は体勢を建て直し、後ろ向きに人工島側へと走る。
行く手は壁が塞いでいる。しかし《魔法回路》が灯り、壁が床に戻り、通行できる幅だけ進路ができる。
これが十路が突入前に行った指示のふたつ目だった。コゼットはこれ以上ないタイミングで壁に穴を空けて、同時に遮蔽物を作ることで、遅れて反応した市ヶ谷の攻撃も防ぐ。
「今度こそ撃ぇ!」
そして置き土産に、すぐ頭上を砲弾が通過する恐怖を味わう指示を出し、イクセスが無反動砲を発射した。
装填していたのは攻撃用の砲弾ではなく、照明弾だった。本来ならば中空に放出し、光を放ちながらパラシュートでゆっくりと降下することで、戦場全体を照らすものだ。それを屋内に撃ち込むと、すぐに壁面に激突して破砕され、閃光弾のような強烈な光が起こる。
不安定な三人乗りのまま、後ろ向きのまま全力で走り、緩やかな傾斜を飛び出して、ポートアイランド内の道路で停車して。
「確保! 武装解除!」
すぐさま『幽霊』の腰ベルトを掴んでいた手を離し、そこにいたコゼットと南十星に指示を出し、十路は改めて分離した発射桿を両手に構え、《使い魔》の主砲を用意し警戒する。
いまだ白い光が漏れる海底トンネルから、市ヶ谷当人か、それとも別のなにかが飛び出してくるか、緊張していたが。
『堤先輩、さっきのバイクが本土側から出てきましたけど……』
樹里からの無線に緊張を解いた。
「撤退するなら見逃していい。準備せずに市ヶ谷と戦ったら、返り討ちにされる」
『了解です。後始末したら、そっちに行きます』
十路は《使い魔》との接続を解除し、ヘルメットを脱ぎながらオートバイを降りた。その際、怪我に新たな痛みは走ったため、顔をしかめる。
『幽霊』は装備とタクティカルベストを剥ぎ取られ、体のラインが浮き出る服だけで跪かされ、コゼットが《魔法》で作ったワイヤーで両手両足を過剰なほど縛られていた。
「まさか、これが《魔法使いの杖》ですの……?」
《付与術士》らしく、コゼットはそれが一番気になるらしい。レッグホルスターに入れていた、細長い携帯電話のような電子機器に興味を持って眺めていた。
「てか兄貴、ボロボロだけど大丈夫なん?」
改めて見た十路の姿に驚く南十星に、手を軽く上げて無事を告げ、彼は観念したように頭を垂れる『幽霊』に近づく。
【見当違いの別人という、超展開はありませんでしたか】
レッグホルスターに入れていた物と、暗所恐怖症が決め手だろう。
イクセスが言う通り、十路の想像通り、『幽霊』の正体は彼女だった。
「予想外の介入があったりして、俺としては現状で充分に超展開なんだがな……なぁ――?」
問いかけながら、湿った覆面を掴む。意外にも抵抗はなく、すんなりと脱がすことができ、彼女の風貌が夜の空気にさらされる。
腰まである髪の大半は、服の中に入れているらしい。道路の水銀灯に反射する髪は、白く輝いて見える白金髪だった。
不安を浮かべる紫色の瞳は、十路と目を合わせないよう、あらぬ方向に向けられているが、構わず彼女の名前を呼ぶ。
「ナージャ?」
「…………」
見間違いようない。そして彼女の様子を見る限り、双子や同じ顔の別人という線はありえないだろう。
『幽霊』の正体は、ナージャ・クニッペルその人だった。
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海底トンネル入り口のほど近く。長い棒を持つ少女――樹里が、空に飛び立つのを遠く確かめて、沿岸付近の路肩に停車していたSUVから声が発せられる。
【『ビスパリレズニィ』のお姉さん、連中に捕まっちゃったみたいだね】
ひとりごとだろうか。少年の声が呟いた時、偽装の排気音を切った《真神》が、近づいて停まった。
【メイド・イン・ロシアがいるということは、作戦の一環でしたか?】
『結局は支援部に出し抜かれたが……余計な手出しするところだったか?』
カームと市ヶ谷が問うと、SUVのパワーウィンドウが開いた。
『お?』
市ヶ谷は軽く驚いて声を漏らす。
SUVの運転席に座っていたのは、奇妙な存在だった。人の型をしているが、とても人とは思えない、分厚い金属の塊が鎮座していた。
まるでアニメに出てくるような、等身大の人型ロボットだった。
『今回の作戦責任者もいたのかよ?』
【いいえ、主。違うようです。誰もいません】
市ヶ谷とカームが奇妙な会話をする。存在するのに存在しないと。誰もいないのに誰かいるかのように。
【あら。わかる?】
人型が小さな機械動作音を立てて、首だけ振り向いた。プロテクターを着けたアメリカンフットボール選手のような厳つい形から、優しい女性の声が飛び出る。
【わたしたちも偶然、動作試験をして帰るところを、通りかかったの】
【また奇妙なメイド・イン・ロシアが出てきましたね……】
呆れるようなカームのぼやきに構わず、声だけの少女が、どこか弾んだ声で女性に問う。
【お母さん。『ビスパニレズニィ』のスイッチ、入れていい?】
【ダメよ】
【どうして? せっかく目標が揃ってるのに】
【あの子にはまだ役目があるから】
少女と女性の会話に、市ヶ谷は胸の内で確認する。
彼女たちにとって、『ビスパニレズニィ』も手駒のひとつにしか過ぎないのだと。
そして既に、なんらかの作戦が進行していることも。
しかし市ヶ谷には、どうすることもできない。
味方ではないにしろ、少なくともできる限り敵でいないのが、彼に課せられた任務だから。
【あ。そうそう。『あの人』から訊いておいてくれって頼まれてたのよ】
女性の声が言葉通りの色を帯びる。機械なのだから記憶の参照など簡単だろうに。
【向こうの《騎士》の剣がとても変わってるって聞いたのだけど、あなた、なにか知ってる?】
『作戦上関係ある話か?』
【『あの人』は日本の剣術とか、そういうのに興味持ってるからだと思うわよ】
問われ、堤十路の《魔法》のことだろうと、市ヶ谷は防衛省の保管資料を記憶で探る。
《魔法》は知識と経験から作られるため、《魔法使い》が持つ複数の《魔法》でも、一環した法則が存在している。効果や形状もそうだが、術式の名前には一番顕著に現れる。
そして十路の場合は少し奇妙で、傾向が二種類存在している。
ひとつは既存兵器の名を冠し、小銃弾やその延長で機能再現を行う《魔弾》。
もうひとつは、騎士の十戒を冠している思われる、中世の武具を模した高出力術式だ。
市ヶ谷の見た資料の中に、後者の方に該当する術式があった。ただし実際の作戦ではあまり使われておらず、作戦経歴での記載頻度はごく稀であったはず。
まぁ当然だろうと、効果を思い出して納得する。使いどころがかなり限定される、不自由で不合理な術式なのだから、使おうとすれば作戦遂行の妨げにすらなりうる。
『アイツの《剣》は、出来損ないだ』
きっと堤十路が『出来損ない』を自称するようになったのは、この術式が生成された頃であろうから、市ヶ谷はそう言っておいた。




