表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》と軍事学事情/ナージャ編
144/640

040_0200 堤十路の受難な一日Ⅲ~超能力学園Z Part2 パンチラ・ウォーズ~

「コ、このとコろ、木次(きふひ)が暴発ひてなはったカら、油断(ゆらん)ひてた……」


 感電による麻痺(まひ)でうまく回らない舌で、十路(とおじ)が反省する。


「ごめんなさい……」


 そんな彼を背負い、樹里が申し訳なさそうに謝る。さすがに《魔法》の電撃はやり過ぎだったと反省していた。

 見た目には変化ないが、樹里は体内で《魔法》を使い、筋肉繊維を強化して普段以上を腕力を発揮し、脱力した十路を運んで武道館を出た。あれで決闘は薙刀部の勝利になってしまったため、剣道部からの突き上げを避けるためでもある。

 ちなみに南十星は、まだ練習に付き合うらしく残った。

 夏休みで人の目が少ないとはいえ、学校内で女子高生が軽々と男子高校生を運ぶのも、問題あるだろう。そして仕方ないとしても、男のプライドとして軽々と運ばれるのは避けたい。

 だから中途半端に背負われて運ばれることになったのだが、すると身長差の関係で、どうしても十路の足を引きずることになる。更に彼女は《魔法使いの杖(アビスツール)》を入れた空間圧縮コンテナ(アイテムボックス)を提げているため、片手で十路の体を支えるしかなく、ずり落ちる。


「でも、先輩が悪いですからね?」

「悪ィ……胸つかんらのは、ワさとじゃなひんらが……」

「や、それはわかってますけど、問題はその後ですよ……私のこと貧乳って呼ぶの、つばめ先生だけなのに……誤魔化してないのに……本当にCカップなのに……」


 唇を尖らせているとわかる声で、樹里が不満をこぼす。腹を立てながらも、十路を放置しない辺りに、彼女の人の良さが表れている。


 彼女の首筋から(ただよ)う、汗と混じった薄いミルクの匂いをかぎながら、十路は思う。

 ほんの少しだけ、樹里との関係が変わった。

 無愛想であまり内面を見せない十路とは違い、彼女は素直に感情を顔を出すようでいて、意外と見せない。怒りや不満といった感情は、愛想笑いを浮かべて誤魔化してしまうことが多い。

 なのに最近は、素直に出すようになった。他の部員には相変わらずで、十路と、一緒に生活している顧問の長久手(ながくて)つばめの前に限った話だが。

 樹里は内弁慶なところがある。かなり親しい相手には強気な部分を見せるが、そうでない相手には見せない。

 そしていつの間にか、十路も『内』に入ってしまったらしい。


「それは、おれが悪いけろな……」


 とはいえ、具体的になにか変わったというものでもない。その程度の変化だから、彼女に対する感情が大きく変わったわけでもない。

 頼りになるかと思えば、やはり彼女の本質は他の部員以上に、普通の学生らしい。

 つまり《魔法》を扱う人間兵器としては、実に素人くさい。


「人前で、キレるナ……」


 このままでは彼女の『秘密』が、うっかり世間にバレてしまいそうな気がして、十路としては、どうしても心配したくなる。


「や、半分無意識でしたけど、さっきは接触状態の電流発生ですから、他の人にバレてはいないと思うんですけど……」

「そウらと思ひたいが……」


 樹里とそんなことを話しつつ、足先でズリズリと地面に線を描いて引きづられていると、足音が近寄ってくる。


「十路くーん、木次さーん」


 樹里が足を止めて振り返ったので、一緒に十路も振り返ると、長い白金髪(プラチナブロンド)をなびかせるナージャが駆け寄ってきた。気まぐれな彼女は、剣道部員でも薙刀部員でもないため、イベント終了とともに武道館を出てきたのだろう。


「さっきの木次さんの一撃、なんだったんですか? 超必殺技的なエフェクトが見えましたけど?」

「なにかの反射らろ……」


 きっとナージャが見たのは、《魔法回路(EC-Circuit)》の光だろう。心配し合っていた矢先に目撃談を出されたので、十路は目を逸らして誤魔化した。


「ところで堤先輩……」


 樹里からも話題を変える。タイミングを読んだわけではなく、十路を背負っていた間、ずっと気になっていたのだろう。


「さっきから背中になにか当たって、ちょっと痛いんですけど……」

「あ、悪ィ……ペンら」


 このところ()()()()()に、胸ポケットに入れているボールペンだと気づいたが、脱力した体で背負われたままでは、どうしようもできない。


「二人で肩貸して運びましょう。部室までですよね?」


 だからナージャが提案し、運び方が変えられた。


 ナージャは女性として背が高い方になる。モデルやスポーツ選手として活躍しているような、男でも見上げる女性と比べれば低いが、並んで立てば大差ない。日本人男子平均で、高くもなければ低くもない身長の十路としては、抜かれてしまう危機感を覚えて、微妙にプライドをくすぐられる。

 バニラの香りを漂わせる顔を近づけられることは、彼女の場合はかなりの頻度であるが、それは背後からのしかかられた時で、ただ鬱陶(うっとう)しいだけなので、彼女の顔をじっくり見ることもしない。

 だから十路は珍しい気持ちで、彼女の顔を横目で眺める。

 多くの人が『美人』と聞いて思い浮かべるだろう顔と、ナージャの顔立ちはかけ離れている。頬や顎のラインにシャープな印象はなく、鼻は特別小さいわけではない。目元は垂れ、口はやや大きめ。決して不細工(ぶさいく)ではないが、『美人』の標準からは崩れた顔立ちだ。

 しかし腰まで伸ばした珍しい白金髪(プラチナブロンド)と、これまた珍しく神秘的な紫色の瞳、そしてグラマラスな体形が合わされば、不思議とコケティッシュな魅力となる。

 映画好きで俳優経験もある南十星(なとせ)は、彼女のことを『マリリン・モンローみたい』と評した。確かに往年の映画女優も『美人』と呼ばれる顔立ちとは異なるが、『男を(とりこ)にした美人』として今なお語り継がれる。


「どうかしました?」


 十路の視線に気づき、ナージャが問う。

 ボンヤリと顔を眺めただけで、問われても返答に困るが、そもそも十路がなにか言い返す前に、ナージャが勝手に話を進める。


「いや~ん。見惚れちゃいましたか?」

「はいはい……美人に助けていたらいて光栄らな……」

「また十路くんは淡白ですねー。かわいー女の子二人に挟まれて、なにか思うところないんですか?」

「両手に華らな」


 麻痺でダ行をラ行に替えた平坦な声で、十路は気のない返事をする。生半可な日本人以上に日本語が堪能(たんのう)なこのロシア人留学生とは、基本的には真面目に話す必要性を感じない話になるので、どうしてもそっけない反応になる。


「あ。そういえば木次さんの胸、揉んじゃってましたよね~?」

「ありゃ事故ら……」

「そんなに女の子の胸を揉みたいんですか~?」

「ナージャの胸も揉んれやろうか……?」


 ため息混じりに十路が言った後、一瞬の間が空き。


「――ちょ!? 本気ですか!?」


 瞬時にナージャが身を離した。

 日頃平気で抱きついてきたりするくせに、こういう話題を出すと、彼女はうろたえる。『だったら最初から挑発するようなこと言うな』と十路は思うのだが、今はそれどころではない。


「うおっ!?」

「わっ!?」


 肩を貸していたナージャが急に離れたため、樹里一人ではとっさに支えきれず、体勢を崩した。十路も力の入らない体でバランスを取ろうし、空いた手を宙も泳がせた。なにか掴んだ感覚はあったが、こらえきれずに樹里と一緒に転倒し。


「うぐっ!?」


 今は受け身も取れずに、折り重なって倒れ込んだ。樹里を下敷きにしなかったのだけは幸いだった。


「ってぇ……」

「大丈夫です……か?」


 樹里はいち早くどき、倒れた十路に手を貸そうとしたのかもしれない。しかし彼女は不自然に言葉を途切れさせ、動きも止めた。

 こんなに無様に転倒することなど、物心ついた頃以来なので、樹里が言葉を途切れさせた理由に気にも留めず、十路は憮然と地面に手を突いて起き上がろうとして。

 布を手にしているのに気づいた。手触りはウール地のような淡黄色の布地に、細いラインでチェック柄が描かれている。ただの一枚布ではなく、段状に折り目(プリーツ)がつけれているのが特徴的だった。樹里が着けている高等部指定のスカートと、非常によく似ていた。というか違うのはサイズだけで、全く同じと言ってもいい。

 身を起こす途中の中途半端な姿勢のまま、十路が恐る恐る顔を上げると、まずすぐ目の前に白い棒が二本見えた。

 ひとまずその確認は後にして、更に視線を上げていくと、ピンクのカーディガンに包まれた上半身が見える。ほぼ真下から見上げることになるので、膨らんだ部分が際立っているというか、視界を(さえぎ)るというか、色々思うことはあるがそれはさておき。


「……………」

  

 次いで今のところなにが起こったのか理解してない、キョトンとしたナージャの顔があった。

 彼女と目を合わせるのを避けるために、今度は視線を下ろす。

 二本の棒は、全く陽に焼けていないため病的なまでに真っ白の、ナージャの脚だった。

 その上、胴体に繋がっている部分には、夏休みの開放的な気分で気合が入ってるのか、肌の白さで際立つアダルティな黒の下着が装着されている。

 そして左太(もも)には――


「いやああああぁぁぁぁッ!?」

「を゛!」


 再起動した下半身パンツ一丁のナージャに、サッカーボールキックを顔面に叩き込まれ、十路の意識がブラックアウトした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ