表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の旅行
140/640

035_0070 【短編】総合生活支援部校外活動記録Ⅷ 脱走! 幽霊屋敷の名残に!

 翌朝、南十星(なとせ)十路(とおじ)は、味噌汁をすすっていた。


「くっはー! やっぱ海町はダシがうんめー!」

「インスタントとは違うな……というか、なとせの味でもないだろ?」

「いつもミソ汁作る時は、市販の調味料にひとテマ加えるだけだかんね。今日はランニングで海沿い走ってたら、ちょーど漁に出てた船が帰って来てたからさ、色々分けてもらったのさ」

「だから朝からこんな豪華なのか……」

「味どーよ?」

「文句なくうまい。殺人バレンタインチョコを作ったのと同じ人間が作ったとは思えない」

「兄貴、けっこー根に持つね」


 魚介類の多い朝食を食べつつ。兄妹(きょうだい)の会話をしつつ。

 破壊された家具や建具はそのままだが、昨夜の戦闘の名残など、全く感じさせない空気で。


「それにしてもあたしたち、なんで民宿で自炊してんのかね?」

「仕方ないだろ。誰もいないし」


 彼らは沢浦(さわうら)家を我が物顔で使っていた。

 仕方がないことではある。住人である(さとる)もほのかも、まだ帰って来てはいない。

 だから部活動を終えて深夜に戻り、ここで休んで、勝手に台所を使って用意して、居間で朝食を食べている。


「お。そういやテレビ」


 行儀悪く箸をくわえ、南十星はテレビリモコンのボタンを押す。


「昨日の停電、復旧してないだろ?」

「うんにゃ。ランニング出たとき、たまたま電線切れてんのが見えたからさ、自分で直して電力会社に連絡しといた」

「どうやって直した……って、まさか?」

「うん。《魔法》でちょちょいと」

「……レポート書けよ」

「うげ! それ忘れてた!」


 総合生活支援部員に義務付けられている、《魔法》を使った際のレポート提出にうめく南十星の前に、昨夜の停電から回復したテレビは、地元テレビ局の朝のニュースを放送した。


『――広域暴力団××組傘下生熊(いくま)会のビルが、何者かに襲撃されたという事件が起こりました』


 そして画面には、昨夜訪れた建物が映っている。

 

『――本日未明、『銃声のような音がした』という近所の通報により、生熊(いくま)ファイナンシャルビルに警察が踏み込むと、生熊会組長、生熊銀次郎(五三歳)をはじめとする構成員一四名が倒れていました』


 中継ではないようだが、朝早くから捜査のためにビル内に入る警察官と、それを遠巻きに見る野次馬に、一応は見覚えのある『親分』の顔写真が重ねられる。


『現場には何者かと争った形跡があり、襲撃した人物は不明ですが、暴力団同士の抗争によるものという見方が濃厚です』


 その報道に、二人は疑問に思う。


「俺たちの仕業じゃなくなってるのか……?」

「ショーコってゆーか、ショーゲン残しまくりなんだけどね?」


 兄妹で疑問を解決する前に、ニュースキャスターの報道は続く。


『現場には中国製の密造拳銃が発砲された痕跡があり、また、何者かがこじ開けたと思わしき金庫の中には、現金約二千万円、三千万円相当の金塊、末端価格一千万円相当の覚せい剤も見つかり、警察では関係者を銃刀法違反および麻薬所持の疑いで逮捕、余罪を追及する方針です』


 映像が切り替わり、ブルーシートの上に広げられた押収品が映る。

 それに南十星が今さらの不安を出す。


「金庫ぶち破ったの、マズかったかね?」

「俺たちが探してた物も、あの金庫の中だったんだから、仕方ないだろ。現金も金塊もクスリも手をつけてないんだし、警察には余罪追及の手間が省けたと思ってもらおう」

「それでも(パチ)ったって思われない?」

「……盗ったの書類一枚だけだって、理事長経由で報告しとくか」


 『余計なこと思いつくんじゃなかった』と十路が後悔するが、放送はまだ終わりではない。


『また電気機器メーカー、アルマデル・ジャパン社員の男性と、市内の小学四年生の女の子一名を保護。警察ではなんらかの事件に巻き込まれたと見て、聞き取りを行っています』


 肝心の人物については、簡単な報道しかされなかった。


「まさかあのサル顔のチビオヤジ、被害者(よそお)って逃れようとしてないだろうね?」

「他の連中の証言があるから、そこは大丈夫だと思うけどな」

「もちっとしっかり叩きのめした方がよかったんじゃない?」

「あれ以上やったら、それこそ被害者(づら)される」


 一般市民への報道は、こんなものかと思いつつ、十路は再度朝食の攻略をしようと思ったら、まだニュースキャスターの言葉は続く。


『また、先週神戸市にて発生した《魔法》テロから、市民を守ったとされている、学校法人修交館学院所属の《魔法使い》も、今回の事件に関与しているという話もありますが、詳しくは不明です――』


 そしてようやく、次のニュースに移った。


「あたしたちの殴りこみ(カチコミ)は『かも』なワケね」


 部活が断定ではなく推測で放送されていることに、南十星は味噌汁を箸でかき混ぜながら(つぶや)く。


「俺たちをヒーロー扱いにするなって、理事長に頼んだからな……まぁ、広報との折り合いで、こうなったのかもな」


 どうやって仕事帰りの漁船から手に入れたのか不明だが、アジの一夜干しをほぐしつつ十路が返す。


「ま、とにかく、今回の部活は終わった。飯食って片付けたら、出るぞ」

「…………」


 しかし南十星は箸の先をくわえたまま、なにかを考えて返事を遅らせた。


「……ね、兄貴。どーせレポート書かなきゃならないなら、《魔法》使っていい?」



 △▼△▼△▼△▼



 沢浦悟と沢浦ほのかは、海岸沿いの道を走るタクシーの中にいた。

 悟は昨夜、連絡を受けてやってきた救急車で運ばれて、病院で一夜を明かした。幸い運ばれてすぐに意識をすぐ取り戻し、頭のケガも大事には至らず、後遺症も見受けられない。

 そもそも入院などしていられないと訴えると、担当医師から精密検査を後日受けるように言われたが、帰宅は許された。


 ほのかは誘拐されたものの、すぐさま堤兄妹が救出しに来たので、何事もなかった。警告を受けて目をつむっている間に、片付いてしまった。

 しかし事が片付いても、彼らはほのかと一緒に帰らなかった。オートバイの定員は二人なのもあるが、事件に巻き込まれた被害者として、警察へ任せる方がいいと判断したからだ。

 ちなみに、十路たちが直接警察官に説明するという選択肢はなかった。新たなトラブルの種はご免だったので。


 ほのかは警察に保護されて一夜を明かし、やがて連絡を受けた悟が迎えに来て彼も簡単な事情聴取を受け、そして今は自宅に帰っているところだ。


「あいつら、なのか……?」


 『誰が助けたか?』などとは悟は訊かない。


「うん……」


 ほのかも理解して問い返さない。


「その……すごかった」

「そうか……」


 具体的な言葉を出さずとも、なぜか通じてしまっていた。


 堤兄妹のことは、二人とも警察の事情聴取で話していない。特にほのかは侵入者の姿を見ていないと証言している。

 口止めされたわけではない。そもそも彼らが打ち倒した者たちが、証言するだろうから、隠したところで意味はない。

 ただ彼らは、(かたく)ななまでに、自分の経歴を隠そうとした節を感じたためだった。


「すごかった……」


 驚きを通り越してしまったため、逆に感情の起伏がない声で、ほのかは繰り返す。

 彼らが普通の学生ではない場面は、それ以前にも見たはずだった。

 しかし本格的に牙を剥いた彼らは、別者だった。

 史上最強の生体万能戦略兵器。その言葉の意味を、ほんのわずか覗かせただけでも、とても普通とは思えない。

 だから彼らが『普通』であることを固執する理由が、ほのかは理解してしまった。だから警察では話さなかった。

 助けてくれた恩人を、『化け物』として恐れ語るのは、してはならない行為だと思ったから。


「ほのかを警察に任せて、あいつらどこに行ったんだ?」

「『宿に帰って寝る』って……」

「…………」


 普通でないところ見せておきながら、あくまでマイペースな兄妹に、悟は呆れたらしい。

 そんな兄に苦笑して見せて、少し顔を不安に曇らせて、ほのかは問う。


「これで終わったのかな……?」


 怪我で入院した両親も、いずれ回復して退院する。

 そうすればまた、嫌がらせを受けることなく、家族で平穏な生活を送れるだろうかと。


「まだゴタつくだろうけど……前よりはマシになるだろ」


 解決したとは言わないが、そう確信した声で悟が返す。


「お礼、言わないとね」

「……世話になったのは確かみたいだからな」


 心底渋々といった具合に、悟はため息をつく。

 そんな兄に『仕方ないなぁ』とでも言いたげに、ほのかは小さく笑うと、顔を前に向けた。


「……あれ?」


 道路の前方、対向車線の向こうから、車よりもずっと小さい影が近づいてくる。

 お互い法定速度で走っていても、相対速度は時速一〇〇キロを超える。

 だからタクシーとすれ違った二人乗りのオートバイは、あっという間に背後へ消え去った。


「今のバイク……」

「あいつら、もう行ったのか……?」


 兄妹で顔を見合わせるが、断言できるほど、乗っていた人物を観察していたわけではない。

 それに家までもうすぐ。彼らがまだいるか、確認すればすぐにわかる。



 △▼△▼△▼△▼



 結果、民宿いうら荘は、無人だった。

 その代わり、異様な光景が広がっていた。


「…………」

「なんだこれは……」


 ほのかは絶句し、悟は呆然とする。

 見慣れた――少なくとも昨日の記憶にある玄関とは、一変していた。その直前にも変化していたが、停電した夜中であり、しかも彼らは気絶していたり、無理矢理連れされため、記憶には残っていないが。

 ただ手形があるだけならばまだいい。鴨居や柱や廊下の板が枝分かれして、手の形に成長したようになっている。石工で形取りした手を土壁につけたように、地獄に落とされた人々が助けを求めているようなオブジェが形成されている。

 更に玄関脇には、苦悶する亡者にしか見えない顔らしきものまで浮かんでいる。きっと以前『金返セ』と書かれていたペンキなのだろう。どういう原理か不明だが、水に溶いてかき混ぜたような、マーブル模様になって苦悶を化粧している。

 奇妙なプチ地獄絵図の玄関先には、二枚の紙が置かれていた。


 ――ゴメン! 修理しようとして悪化した! これでカンベンして!


 新聞チラシの裏に、平謝りするデフォルメされた少女の絵と共に、そう書かれている。

 もう一枚の紙に書かれているのは、二人の父親の名前と、朱肉で押された名字、頭に円マークが付いた七ケタの数字、そして『借用書』の文字。

 正規の金融機関から借りたはずなのに、アルマデル社の土地買収騒動から、めぐり巡って闇金業者の手に渡っていたはずの書類だった。



 △▼△▼△▼△▼



 海沿いの国道を、彼らはオートバイで疾走する。


『なとせ……神戸に帰ったら、本格的に勉強しろ……』

「いやぁ……電線を繋げるのは指先でチョチョイって感じだったけど、平面を直すのはダメっぽいね……」

『なんで手が生えてくるんだ……なんで顔が浮かぶんだ……子供がアレ見たら絶対に泣くぞ』

「物質操作に限らずだけど、やっぱあたしの《魔法》は体の延長でしか使えないみたいだね……」


 十路は頭痛を感じながらハンドルを握り、南十星は乾いた笑いを浮かべ、無線で話ながら次なる目的地に向かっていた。

 逃げるように、というより、実際に逃げていた。南十星が《魔法》で沢浦家を修理しようとして大失敗したために。


「それにしても兄貴、あの二人にスゲー冷たい態度見せてたのに、結局はそーとーオセッカイしたね」


 誤魔化すように、南十星は話を変える。


「連中の金庫から、あの家の借用書まで(パチ)って、借金チャラにしようなんて」

『犯罪被害の損失は、被害者に還元される。正規の金融機関から、連中がどんな手段で債権を手に入れたのかにもよるんだが……ま、そこは多分大丈夫だろう』

「だったら、わざわざ金庫ぶっ壊す必要なかったんじゃね?」

『要は俺の気まぐれだけど……その件については、なとせがとやかく言う資格ないと思うぞ』

「なして?」

『借用書と引き換えに、修理失敗も不問にしてもらえるだろうと思って、逃げ出したんだけどな?』

「にはは~……」


 誤魔化したはずなのに、話が一周して戻ってきたため、南十星は乾いた笑いを浮かべるしかない。

 しかし、更なる誤魔化しは必要なく、その追求は行われなかった。


『ま、依頼を受けただけでなく、電気代分くらいは働かなきゃならんかったし……』

「なんそれ?」

『《バーゲスト》のバッテリーが切れかかったから、あそこで少し充電したんだ……電気料金すごいことになってるだろうから、その分くらいは肉体労働しておこうかと……』

「…………」


 理不尽に巻き込まれた兄妹を助けた理由を、十路が言い訳がましく語るのを、彼が見ていない背後で南十星は微笑する。

 やる気なさげで、無関心で、ぶっきらぼうで、理屈屋で、素直じゃなくて。

 彼を知らなければ、冷たい態度に敵意を抱く。

 だけど結局は、誰よりも優しくて、誰よりも頼りになる。


「あーにき」


 だから彼女は、兄の理解者であろうとする。


「大好きだよっ」


 たとえ世界の誰もが彼を否定しても、唯一の家族を肯定し、愛し続ける。


『なんだ急に?』

「言ってみたくなっただけー」

『?』


 疑問に十路が少しだけ振り返ったが、南十星はおどけて背中に抱きついたので、姿は見えはしないだろう。

 そんなことをしていたら、自分の上でふざけられるのが不快なのか、それとも単に()いているだけか、イクセスが不機嫌そうな声を出す。


【兄妹仲がいいのはわかりましたから、早く充電スポットまで行きましょう! 家庭用コンセントからだと効率悪いんですよ!】

『わかってるけど、バッテリーがギリギリだから、飛ばさずエコ運転だからな』

【あ゛ーーーーっ! もどかしいですねぇ!!】


 行く道はない。気の向くままに。その時が来るまで。

 再び神戸という舞台に立つまで、二人と一台の『普通』を求める戦いは休息し、寄り道は今しばらく続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ