030_1820 兄の戦った昨日、妹の戦う明日Ⅷ~純戦闘用鉄砲鍋~
盛大な大爆発の後に、花火のような重く壮絶な激突音が響いた。日常生活内でそんな落下音は考えられないが、それが逆にダメージの大きさを物語っている。
「今の……!?」
その音の原因――空から高速で落下した物体を、樹里はヘルメットのシールド越しでも認識したのだろう。追加収納ケースをオートバイの後部右横に接続していた彼女は、振り返って息を呑む。
「……ッ」
封鎖区域内の無人となった住宅街の片隅で、オートバイを停車させた十路も、それが少女の落下衝突だとわかった。しかし被ったままのヘルメットの中で奥歯をかみ締めて、駆け出したい衝動をぐっと我慢する。
ほんの少し、あと二〇秒でいい。
移動中であっても人前ではできなかった、最後の戦闘準備が必要だから。
車体の後部左横に積載した追加収納ケースを開き、機械の腕が連続で差し出すのもの次々と受け取り、一瞥しながらベルトやベストのポーチに素早く収めていく。黒い硬質プラスティックの平たい部品を、体各所のポーチに空きがなくなるまで詰め込み、更にひとつを手にする。
続いてコンバットナイフを拡大したような、柄は両手持ちのように長い、異形の片刃短剣が出てくる。いつもならば腰の後ろにある鞘に収めるが、今日は収めない。手に持ったまま、傷だらけの黒いケースを軽く叩く。
追加収納ケースが一度閉められ、もう一度開くと、普段とは違う形態に展開された。厚みを真っ二つにするように開くのではなく、普段は固く閉じられた蓋部分が分割されてスライドし、中身を差し出す機械の腕とは違う物体が横に出現する。
それは装甲戦闘車輌や軍用船舶に装備されるものの改造型、三六〇度可動する複合センサーと回転砲塔が一体化した、遠隔操作式無人銃架――人が直接触れなくても銃火器を扱えるようにするための小型砲塔だった。その油圧ダンパーが仕込まれた台には、普通ならばそんな風に使用しない、紛れも無い突撃銃が固定されていた。
《付与術士》ではない野依崎が時間をかけて修理し、新品同様に黒光りするそれを、十路は慣れた手つきで固定から解除して取り扱う。
現代軍事学では存在意義に疑問視されることも多い戦闘法を多用するため、延長された銃身の先端下部、特別に作られた着剣装置に奇形の短剣――銃剣を着剣する。
平たい部品――弾倉に5.56ミリ普通弾が詰め込まれてるのを確認し、本体に差し込む。
そして頭脳と無線接続を確立させ、本人確認終了と同時に、銃床と銃身被に収められた電子機器が本格駆動。右腕に脳との仮想有線接続を示す《魔法回路》が形成され、《魔法》を使うためのソフトウェア『ABIS-OS Ver.8.312』が起動する。
他の部員たちの装備とは一線を画す。普通の高校生が持っていてはならない。備品を示すシールは貼られていない。名前は自衛隊制式装備を同じで、形状もその面影を残しているが、重量も機能も価格も破壊力も別物と言える、純戦闘用次世代軍事学型兵装。
それが十路の《魔法使いの杖》―― 《八九式小銃・特殊作戦要員型》だった。
「木次! 行くぞ!」
「はい!」
本物の銃火器の出現にも、樹里はうろたえない。両手で小銃を構えた十路の声に、彼女は勇ましく応じる。
ここから先はどうなるかわからない。だから十路はオートバイを降りて、より小回りと即応性を発揮できる徒歩での接近を試みる。
【私はどうしましょう?】
取り残されるイクセスが行動方針を問うと、彼は振り向きもせず叫び返す。
「適当に対応!」
【便利のいい日本語ですね……】
『状況を見て臨機応変に自己判断しろ』という丸投げな指示に、やや不満そうなイクセスの言葉を背中で聞きながら、十路は脳内フォルダから術式を解凍実行する。
タクティカルブーツの上から装着した鉄片に磁力を付与、更に地面に《魔法回路》を敷いて磁力を発生させる。
助走をつけて《魔法回路》を踏み、磁極の反発力を使ってトランポリンのように跳ぶ。
十路は建物の上を軽々と飛び移り、樹里もならって身体能力を強化して追い、騒動の中心へ急行した。




