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近ごろの魔法使い  作者: 風待月
《魔法使い》の恋愛事情/南十星編Ⅰ
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030_1110 堤南十星の秘密Ⅹ~スウィーティア~


 南十星が十路の部屋から出た時、エレベーターが上から降りてきて扉が開いた。


「あ、なっちゃん。丁度よかった」


 二階に降りてきたのは、身軽な部屋着の樹里だった。


「あれ? じゅりちゃん、どったの?」

「や、今日はウチに寝に来ないのかなって思って、様子見に来たんだけど」

「あ、それならもういいよ。今日から自分の部屋で寝るから。今まであんがとね」

「ふぇ? でも、部屋は……?」

「ちゃんとヒマがある時に片付けて、住める状態になってるってば」


 十路に説明したのと同じ話をしながら、南十星はポケットから、キーホルダーのついた鍵を出して見せる。


「騒がせてゴメンね。もう茶番は終わったから、兄貴の部屋に住む必要がなくなったんだよ」


 それを扉の鍵穴に差し込む。


「簡単に言うとね、心配だったんだよ。いろいろあって、兄貴は誰かを好きにならないようにしてたから。だけど今回仕組んでみて、そうじゃなさそうってのがわかったから、安心した」


 明るい声で、ちょっとしたイベントを起こしたと。騒がせたが大した事ではない。日常のスパイスのようなものだと、南十星は気軽な口調で語る。


「なっちゃん……」


 しかし樹里の呼びかけは、心配する色を()びていた。

 彼女がなぜそんな声を出すのか理解できず、南十星は振り返ろうとして。

 鍵を持った腕に、水滴が落ちた。


「……あれ?」


 頬に手をやり、指先で水が一筋流れた跡があるのを確認する。

 

「あれ? あれ?」


 それが沸き出た場所を自覚すると、一気に南十星の視界がぼやけた。


「にはは……なんであたし、泣いてんだろ……」


 自分の部屋に入るまでは。

 そう我慢していたダムが、樹里と会ったことで間に合わず、時間切れで決壊してしまった。


「おっかしいなぁ……? 兄貴はあたしを受け入れないってわかってた……だから安心して演技できたのに……」


 無邪気な笑顔のままにこぼれた涙は、もう止めることはできない。


「なのになんで、フラれて泣いてんだろ……」


 堤南十星は、堤十路に恋していた。

 彼女が明かした通りに。誰もが思っていた通りに。最初から最後まで。全てが真実で本心で。

 もちろんそれを彼女は知っていた。十路に迫るたびに、彼は心の平穏を崩していた。

 南十星は彼に安堵を与えてやれる存在にはなれない。それは別に存在する。

 妹以上の存在にはなれないと、つい先ほど痛感させられた。


「ひっぐ……! ひぐ……ぅ、ぅぅ……っ」

「…………」


 十路の部屋でなにがあったか、察したのだろう。泣き笑いすら維持できなくなり、子供のように泣き始めた南十星を、樹里はそっと胸に抱きしめる。


「なっちゃん……やっぱり今日は、一緒に寝よ?」

「ぅぇぇっ……ふぇぇぇぇっ……」

「そうしよ? ね?」


 長靴を履いた猫の役目は?

 靴を作ってくれた粉ひきの息子を幸せにすること。

 好物の鳥を献上し、王様のお気に入りになること。

 息子を伯爵として、王様とお姫様に会わせること。

 魔法大王を倒し、広大な土地と豪華な屋敷を手に入れること。

 粉ひきの息子を幸せにする陰の立役者でいること。

 息子の隣にいるのはお姫様で、猫はその場所に立ちはしない。

 だから彼女は泣いている。


 堤南十星が(つかさど)る物語は、こうしてひとつの結末を迎えた。

 しかし物語は終わらない。

 長靴を履いた猫の冒険譚は、これからだから。


 魔法大王を倒してはいない。


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