第15話 勝手に好きでいさせてよ
とてもクサイ内容になってしまいました///
職員室で先生の手伝いをし、生徒会室に戻ると、なぜか吉田がにこにこと笑って沙耶を見てくるのは気のせいだろうか。「羨ましいよ」とか「見直したよ」とか言うので、気持ち悪い。
帰宅すると、家の玄関の前で瞬がしゃがみ込んでいた。沙耶が来るのを見つけると、彼は満面の笑みで立ち上がる。一瞬だが、沙耶はどきっとした。
「――ただいま。閉め出されたの?」
「何言ってんの!まだ誰も帰ってきてないよ。姉ちゃん待ってた」
「え?家の中で待ってればいいのに」
「なんとなく外に出たい気分だった。ねぇ、今から公園にでも行かない?」
「今から?」
時刻は5時過ぎ。夕食にはまだ早いのでまぁいいかと思いながら沙耶は頷いた。
▽
外を散歩するのはこんなに気持ちの良いものだったんだと沙耶は初めて気づきながら歩く。隣には上機嫌な瞬が鼻歌を歌っている。いいことでもあったのだろうかとアメをなめながら考える。
徒歩3分の公園には誰もいなかった。もっと小学生とかが遊んでいてもいいのに、家の中でゲームでもやっているのだろうか。
日が短くなった公園に、太陽が長い影を作った。
「ブランコ空いてる!乗ろう!」
「えっ」
沙耶の返事も聞かずに瞬は走り去ってしまう。仕方なく沙耶も後を追い、隣のブランコに座った。
この感覚は久しぶりだった。
「瞬君、私そろそろ家に帰らないと・・・ごはんだって作らなきゃいけないし、勉強だって」
「わかってる。少しだけ話したいことがあっただけだから」
「話って」
「俺、やっぱり姉ちゃんが好きだ」
風がどこかの家の夕食の匂いを静かに運んでくる。
沙耶は何も考えられなかった。いや、考えていたような気もするが思考回路が追いついていかない。
「前に訊いたよね。姉としてか、女としてかって。俺にはどっちも選べなかった」
「・・・うん」
「俺は家族が大事だし、今の家族が大好きだ。だから、初めて姉ちゃんができるって知ったときはすげー嬉しかった。それは今でも変わらない」
沙耶は頷いた。言いたいことはわかる。
「・・・って思ってたんだけど、最近の俺は欲張りになってて、もしも姉じゃなかったらってよく思うようになった。そうしたら堂々と彼女だって言えるし、つきあえる」
「・・・・・・」
「それはどうしようもないから、前に言ったとおり、そういう壁を越える人間になるって決めた。だから――つまり、姉ちゃんとしても好きだけど、1人の女性としてのほうがもっと好きで。でもどっちも選べないんだけど」
言いたいことがまとまらないらしく、髪をぐちゃぐちゃとかきあげる瞬。
「だから!つまり!俺は姉を恋愛感情なしでは見られない!禁断の姉弟愛です!」
しばらく何も言えないでいる沙耶に対し、言いたいことを言い切ったらしい瞬は満足してブランコから立ち上がった。
「っていうことで!それが俺の答えね。帰ろうか」
顔をくしゃっとさせて笑う瞬。沙耶は混乱していた。
「えっえっ」
「ああ――姉ちゃんは俺をただの弟としてしか見られないかもだけど、それでいいよ。俺は無理だけどね。勝手に好きでいさせてよ」
今さら顔が真っ赤になってしまう。沙耶は歩ける自信がなかった。どうしたらいいのだろう。心臓がずっと大きく鳴り響いている。
「姉ちゃん?」
瞬が心配して顔を覗き込んできたとき。目が合って沙耶はさらに顔を赤くさせる。その反応を見て初めて瞬も赤面した。
「やべー・・・キスしたい」
とか言う瞬に対し、沙耶はぽつりと呟いた。
「帰ったら・・・いいよ」
驚いたように瞬は目を見開いた。
で、結局。
「帰ったらいいって言ったじゃんか!」
「違う!家の中でっていう意味だよ!普通わかるでしょ!?」
家の外でぎゃーぎゃーと騒ぎ、終いには沙耶が怒って先に家の中に入って瞬を閉め出す。沙耶としては家の中でならいいという意味だったのだが、瞬は家の目の前で堂々としようとするので、沙耶が怒ったのだ。
「じゃぁ中入れてよ!」
「もうしない」
「なんでっ!?」
「私はまだ瞬君に対してさっきの返事をしてない!私にだって考える権利はあるよ」
怒り半分、照れくささ半分。沙耶はそれだけ言うだけで精一杯だった。
瞬はまだ納得していないようだが、沙耶が奥に行ってしまったので渋々諦めた。
▽
夕食を食べた後、空になったマグカップをもてあそびながら瞬はまだふてくされたような表情で沙耶をじっと見ていた。なんだか視線が痛いのは気のせいだろうか。
ふと、あることを思い出した。
「瞬君――今だから言うけど、そのマグカップ買ったの私じゃないんだ」
「えっ!違うの!?」
「うん。お兄さんが買ったんだよ。私が買ったことにしといてくれって」
初めてその事実を知った瞬は微妙な表情をした。
「今度お兄さんと話してみなよ。今ならちゃんと話せるかもしれないし、もしかしたら誤解とかがあったかもしれないよ?」
「そうかなぁ」
「そういうもんだよ。家族っていうものは」
自分でもいいことを言ったなと思いながら沙耶は瞬の反応を見ると、彼は少し笑って何度か頷いた。
後日、瞬は本当に神木と再会したようで、時々会話に「兄ちゃん」という言葉が出てくるようになった。長い間不仲が続いていたためにすぐに仲良くはなれないらしいが、それでも楽しそうに話す姿は沙耶でさえも嫉妬してしまいそうになるくらいだった。
次回が最終回です。




