五年越しの家族団らん 9
盤上に駒を置く音だけが響く。
「「負けました」」
双子は同時に頭を下げて、負けを宣言した。
二人の表情はちょっぴり悔しそうではあるが、満足げでもある。
「素晴らしいな。俺は君たちの年のときにここまで打てなかった」
旦那様はそう言って笑みを浮かべる。
しかし双子は、その言葉の直後、ちらりと魔剣を見てから、不憫そうな視線を旦那様に向けた。
旦那様まで、いたたまれないような表情を浮かべる。
――部屋は先ほどまでの楽しい雰囲気から一変、なんとも言えない重苦しい雰囲気に支配された。
そのとき、扉を叩く音が響き渡る。
現れたのは執事長セイブルだった。
「失礼致します。旦那様、奥様。アンナが戻りました」
「んっ、ゴホン! 今行く」
旦那様は席から立ち上がり、魔剣を手にすると部屋から急足で出ていった。
いったい何があったのだろうか。
十中八九、魔剣絡みの気はするが。
ルティアとハルトは、席を立つとお互いの手をしっかりと握った。
「僕にはルティーがいてよかった」
「私も、ハルがいてよかった」
なんとなく、旦那様を一人にするべきではない気がする。
「……先に行ってるわね。執事長、二人のことはあとから連れてきて」
「かしこまりました。さあ、お嬢さま、坊っちゃん。盤を片付けるとしましょう」
「「うん」」
私は部屋を出て、旦那様を追いかける。
彼は廊下の角を曲がるところだった。
声をかけようとして、話し声に気がつき口をつぐむ。
「勝手に俺の子どもの頃の話をするなよ」
魔剣の赤い宝石がチカチカッと光る。笑っているように見える。
「なっ、訓練に行けばお前以外にも話し相手はいた!」
魔剣の声は私には聞こえない。
けれど、旦那様の言葉で子ども時代の孤独が透けて見えてしまった。
旦那様が子どもの頃は、魔剣しかボードゲームの相手がいなかった、とでも言われたのだろう。だから、ルティアとハルトは旦那様に気の毒そうな視線を向けたのだ。
「旦那様」
「……っ、エミラ」
「夜中に出ていったのに、今戻るなんて……アンナは服を調達する目処をつけられたのでしょうか?」
旦那様の手をギュッと握る。
「……なあ、君にはこいつの声は聞こえていないんだよな?」
「ええ、残念ながら聞こえませんわ」
「そうか……。それならいい」
旦那様は私から視線を逸らした。
だが、私には魔剣が何を言ったのか、あらかた予想がついているのだ。
少し不機嫌に魔剣を睨みつけている旦那様は、とても可愛らしい。
しかも、その表情は機嫌が悪いときの二人にそっくりなのだ――なおさら可愛らしいではないか。
旦那様は私の手を握り返すと、ゆっくりと歩き出した。
「あの、アンナはこの短時間で戦勝の宴にふさわしい服を用意できるのでしょうか」
「彼女なら問題ないさ」
「……でも、普通の侍女ですよ?」
普通というより、どちらかというとおっちょこちょいだ。
すぐに料理をこぼしたり黒焦げにしてしまうので、料理長にも厨房出禁にされているほどなのだ。
「問題ない……ほら」
「まあ……!」
エントランスホールは、色とりどりのドレスやアクセサリー、子ども服や紳士服で溢れかえっていた。
その真ん中では、アンナが自慢げに背を反らして立っていた。
不憫男子が好きです。次回以降、スパダリ編。
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