レイブランド 5
屋敷に戻ってきて、三日が経った。
あのあとすぐ、旦那様が駆けつけてくださった。
私たちは誰一人怪我をすることはなかった。
――魔剣を除いて。
ハルトはまだ眠っているし、魔剣の言っていた通り筋肉痛くらいにはなるかもしれないが……。
旦那様は、襲撃をした者が誰なのか、尋問をすると言って出かけたっきり帰ってこない。
「――ルティーは?」
「ハルト、目が覚めたのね!」
「うん……とりあえず、お水ちょうだい」
水を少しだけ渡す。三日も眠り込んでいたのだから、一度に飲ませないほうが良いだろう。
ハルトはゆっくりと飲んで、空のコップを差し出した。
「ルティーのところに行かなくちゃ、どこ?」
「庭にいるわ」
帰ってきてからというもの、彼女は暇さえあれば剣を振っている。
その表情は、四歳とは思えないほど険しく、やめさせることができずにいた。
「わかった」
ハルトはベッドから降りると、少しふらつきながら歩き出した。
私も、ハルトのあとを追いかけるのだった。
* * *
「ルティー」
「……」
無心に子ども用の模擬剣を振っていたルティアが、剣を下ろした。
ハルトが近づいて、彼女の手を確認する。
「あ〜あ……皮がむけちゃってる」
「……ハル」
「こんなになるまで練習しちゃダメだ。魔剣さんも心配してた」
「魔剣さんが?」
「うん……全部見えてたし、魔剣さんの声は聞こえてたから」
ハルトとルティアは、しばらくの間、ただ見つめあっていた。
二人にとっても思うところがあるのだろう。
魔剣は今、旦那様と私の部屋に置かれている。
半分に割れてしまった刀身と、光らなくなった赤い宝石……見るたびに泣きそうになるけれど、泣いたところで戻りはしない。
赤い宝石だけは今、私の首に下がっている。
「ねえ、私と本気で戦って」
「……でも」
「本気で戦ってくれなかったら、絶交する」
「え……それはやだ」
なぜか、二人は対戦することになっている。
「あ……」
止めようとも思ったが、思い直す。
今止めてしまっては、二人はずっと魔剣を失ったことを受け入れられないのではないか、という気がしたのだ。
二人はすでに、模擬剣を手にして向かい合っている。
ハルトは三日も寝ていたし、ルティアもずっと剣を振っていてフラフラだ。
「家族は僕が守る」
「それなら、私がハルを守ってあげる」
二人は口元だけ笑みを浮かべる。
その表情は、戦う直前の旦那様に似ていた。
二人は強かった。
辺境伯領のトーナメントで見たときよりもずっと強い。
二人がジェイルと出会ってから、以前にも増して剣の鍛錬に力を入れていたことは知っていたが……。
「――――危ない!」
二人の剣がすれ違う。
このままでは、ルティアの剣はハルトの首に、ハルトの剣はルティアの腰に当たってしまう。
ルティアが腕を差し出した。致命傷を避けるための行動だ……。
「ハルト、ルティア!」
もちろん、幼児向けの模擬剣は柔らかい素材でできているから、大怪我はしないだろう。
けれど――首に当たってしまえば、怪我をすることも否定できない。
そのとき周囲を赤い光が染め上げた。




