五年越しの家族団らん 8
昼ご飯を終えると、ハルトとルティアは再び魔剣を持って走っていった。
もちろんお目当てはボードゲームだ。
だが、テーブルの前に座ったものの、二人はゲームを始めない。
「……ねえ、言ってみる?」
「え、でも恥ずかしいよ」
「でも、私たちのお父さまだよ?」
「……ルティアが先に言ってよ」
「仕方ないなあ〜」
ルティアは立ち上がると、ハルトの手を引いて立ち上がらせた。
その手を引っ張るように、私と旦那様の前に来る。
「どうした?」
旦那様は上体を屈めて二人と視線を合わせた。
「あのね……」
「うーんと……」
ハルトは手を組んで、ルティアはスカートの裾を掴んでもじもじしている。
何か言いたいことがあるようだ。
「あの……ボードゲームが得意って本当?」
「……陛下のお相手も務めたって」
「あいつがそう言ったのか――苦手ではないな」
旦那様は困ったように笑った。陛下とゲームをするにはかなりの実力が必要だろう。
だが旦那様の表情を見るかぎり、ゲーム自体を楽しむというより内密の話をするためなのかもしれない。
「魔剣さんがね、自分よりお父さまに教えてもらえって!」
「人に教えたことはあまりないのだが……」
「自分よりも強いって!」
「いや、あいつの腕は数百年の盤面の蓄積が……それに、ボードゲームが得意とは言っても五年ぶりで」
旦那様はオロオロとしている。
この人は本当に死神騎士と言われる冷徹な騎士団長様なのだろうか……。
結婚式後に少し関わったときにも感じたが、どちらかというと気弱で可愛いのでは……。
「お忙しいと思いますが、少し付き合って差し上げてくださいませんか」
「そうだな……二人と仲良くなりたいしな……」
「「やったー!」」
ルティアが席を立った。
「ここに座って! 私もう一つ盤を持ってくるね!」
「まさかの多面指し……」
ボードゲームはそれを生業にする者もいる。
指導のために、複数を相手にすることもあるらしいが旦那様には五年のブランクがある。
魔剣に視線を向けてみる。
私が話しかけても、魔剣に伝わるものだろうか。
「伝わるよ」
盤を持ってきたルティアが、私の隣を通るときそう口にした。
目線を合わせると、赤い目が楽しげに細められる。
「え……?」
「むしろ、心の声が聞き取れる天才魔剣なんだって」
「は……?」
「ふうふのジレジレ? 楽しみにしてるって。千年も生きてるとそれだけが楽しみだって」
「えっ……えええ!?」
大きな声を出してしまったからだろう。
すでにハルトの相手を始めていた旦那様が、不思議そうにこちらに視線を向けた。
彼の傍には魔剣が置かれている。
ルティアは旦那様の前に駆け寄って、盤をテーブルの上に置いた。
「一局、よろしくご指導ください」
「良い挨拶だ」
「えっへん!」
二対一のボードゲームが始まる。
旦那様の打ち方には淀みがない。
陛下のお相手をするという話に違わず、よほどの使い手とみた。
一瞬だけ、魔剣に嵌め込まれた赤い宝石が鈍く輝き、ニンマリとこちらに笑いかけた……ような気がした。
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