レイブランド 1
次の日からは再び忙しかった。
だが、今日は子どもたちも一緒だ。
同年代の子どもがいる夫人の集まりなのだ。
旦那様は騎士団長たちの集まりがあるという。長い間、戦場で暮らして来た旦那様は、王都に戻ってきても多忙だ。
彼は自分のことはいつも二の次だ。
帰ってきたらのんびりしてもらおう……。
そんなことを思いながら鏡を見る。
ドレスは軽やかに動きやすく。
最近は、コルセットの締め付けが少ない古代神殿風のドレスが流行している。
ハイウエストで裾がフンワリ広がったドレスなら、いざというとき子どもたちを追いかけられるだろう。
――このドレスは、旦那様が選んでくださった。似合うし子育てしやすいだろう、と言って。
もちろん似合うと言ってもらえたことは嬉しかったけれど、子育てに寄り添ってくれるような優しい言葉がもっと嬉しかった。
旦那様は忙しい中でも、家に帰ればハルトとルティアにべったりだ。
ハルトとルティアも旦那様から離れない。
憧れていた温かい家庭。毎日幸せだ。
「さあ、仕上げです」
「……ありがとう、アンナ」
軽く頬紅をはたかれれば、いつもより少し美しくなった私が鏡に映っていた。
「さすがね」
「研究しておりますから」
彼女の言う研究は、もしかすると陛下から与えられる王家の影としての任務も兼ねているのかもしれないが……事実、鏡に映る私はいつもより綺麗だ。
「……奥様」
「なあに?」
「お気をつけください。王弟派の動きが活発になっております」
「……わかったわ」
フィアーゼ夫人が王弟派と近づいているらしい。
「「楽しみだね〜!」」
ルティアはピンクのドット柄のドレスに揃いのヘッドドレス。
ハルトはルティアと色違い、水色のドット柄のシャツにグレーの半ズボン。
お揃いの衣装に身を包んだハルトとルティアはご機嫌だ。
だが手を繋ぐ代わりに、二人の手には魔剣が握られていた。
貴族夫人の集まりに魔剣。
なんとも不穏な組み合わせだが、魔剣は今回も『どうしてもついていく』と聞かなかったらしい。
「みんなベルティナ叔母さまのお友だちだもんね」
「違うよ、みんな叔母さまのファンだよ」
二人はちょっぴり自慢気だ。
叔母であるベルティナはとても人気がある。
今回の集まりも、ベルティナファンの貴族夫人にお誘いいただいたのだ。
ベルティナは辺境伯領で魔獣討伐の任務に従事していることが多いため王都の社交界に参加する機会は少ないが、彼女に憧れる貴族令嬢や夫人は多い。
――ハルトとルティアが自慢に思うのもわかる。ベルティナは凜々しくかっこいい。
馬車に乗り込む。
招待されたお屋敷は、王都の郊外にあるので少し遠い。
「ごめんね、魔剣さんは馬車でお留守番だよ」
「馬車を守ってる? うん、おみやげ話たくさんするからね」
二人は魔剣に話しかけている。
着いてきてはくれたが、貴族夫人の集まりに魔剣を連れていくわけにはいかない。
魔剣に触れられるのは私たち家族だけだから、問題はないだろうが……。
お出かけにはしゃぐ二人を微笑ましく見ているうちに、馬車は目的地に着いた。
「レイブランド、いってきます」
魔剣の宝石が『気をつけろ』と言うように五回点滅した。
――もしかすると何かしらの伝達方法を使えば私も魔剣と会話できるのでは。
そんなことを思いながら私たちは馬車を降り、会場へと向かった。




