魔導具 4
クローゼットルームでは、普段使いのアクセサリーや小物類が散らばっていた。
目にも鮮やかだが……それにしても、白銀と赤が多い。
聖剣の鞘には大きな赤いリボンが結ばれている。
少しだけ不格好に左右差があるが、上手に結べるようになったものだ。
「ルティア」
「……」
いつもしっかりもののルティアだが、活発でハルトよりもイタズラは多い。
彼女の唇にははみ出して口紅が塗られている。
四歳になって、少しイタズラは落ち着いてきていたが……。
「ごめんなさい」
「アクセサリーや化粧品を使う時は、私に声をかけるのよ」
「はーい」
「じゃあ、しまいましょうね?」
「……聖剣さんの飾りはつけたままでいい?」
ルティアは旦那様をじっと見つめた。
旦那様は口元を緩めている。
戻ってきた当初と違い、彼は格段に父親らしくなった。
「明日の朝までならよかろう」
「旦那様、よろしいのですか?」
「レイブランドが見惚れているし」
「……」
確かに魔剣の宝石はいつもよりも赤い。
魔剣は本当に聖剣にベタ惚れのようだ。
聖剣に視線を向けると、赤いリボンに真珠、柘榴石、美しく着飾った女性の姿が一瞬だけ見えた。
彼女は軽く頬を染めて、魔剣を見つめている。
――彼女は、やはり私によく似ている。
遠くあっても血が繋がっているのだから、ありえなくはないのだろうが……。
だが、その姿はほんの一瞬見えただけ。
次の瞬間には、アイスブルーの宝石が輝く剣が一振り。
「……フィアレイア」
「どうした?」
「人の姿に見えて」
「……」
旦那様が私のことを軽く抱き寄せてきた。
見上げてみると、旦那様は目を細めて私を見つめていた。
「フィアレイアと君はよく似ている」
「見えたのですか?」
「いや……声や言葉の一つ一つが君に似ているんだ」
「そうなのですね」
不思議なこともあるものだ。
だが、それを言うなら魔剣は旦那様によく似ている。
私には声は聞こえないが、一度だけ見えたその姿は、旦那様にそっくりだったのだ。
「お母さま〜!」
「ルティア?」
「しゃがんで!」
ルティアの言うとおりしゃがむと、彼女は私の髪を一房とり、赤いリボンを結んでくれた。
「「お母さま! 私たちとお揃いだね!」」
確かに選んでくれたリボンは、旦那様やハルト、ルティアの瞳の色をしている。
魔剣の宝石も赤いし、聖剣には赤いリボン……。
「家族だもの」
「そうね」
「じゃあ、片付けるね! ハル、手伝って!」
「え〜どうして僕まで」
「お願い」
「仕方ないなあ……」
二人は仲よく散らかったクローゼットルームを片付けていく。
私も一緒に片付ければ、程なくクローゼットルームは元通り綺麗になった。
「お嬢様、坊っちゃん、湯浴みいたしましょう」
「「アンナ!」」
食卓を片付け、アンナが二人を迎えにきた。
彼女の頭には、今日も蜘蛛型魔導具ぴーちゃんが乗っている。
二人はアンナに連れられていった。
クローゼットルームには、精霊の夜のもみの木みたいに飾り付けられた聖剣。
持ち上げると、真珠の首飾りがシャラシャラと音を立てる。
「行こうか」
「ええ……」
旦那様の手は大きくて私の手を包み込んでしまうようだ。
魔剣と聖剣がほのかに輝いている。
私はほんの少し気分が浮き立つのを感じながら、旦那様に手を引かれ歩き出した。




