魔導具 3
家族で囲む食卓。
旦那様と私にとってこれほど求めていた時間と場所などないだろう。
ハルトとルティアも笑顔だ。
食卓の壁に立てかけられた魔剣と聖剣がほのかに輝いている。
何を話しているのだろう。
――幸せな時間、場所。宝物のようだ。
「ねえ、お父さま。ご飯食べ終わったから、魔剣さん借りていい?」
「レイブランドが良いなら構わないが……。遊んでもらうのか?」
「うーん。二人きりでお話があるの」
ハルトが魔剣を抱えた。
いつもルティアと行動するハルトにしては珍しいことだ。
「私も聖剣さん借りていい?」
「フィアレイアが良いのなら……」
旦那様は少し迷いながら口を開いた。
「「もちろん、良いって」」
赤ちゃんの頃から、まるで二人で一人のようにピッタリくっついていたハルトとルティア。
これからは、別行動をとることも多くなるのかもしれない。
「じゃあ、あとでね。ルティー」
「うん、あとでね。ハル」
二人はそれぞれ剣を抱え、別々の部屋へ向かった。
いったい何を話すというのか……。
「……心配ない。屋敷内であれば、レイブランドとフィアレイアの声は聞こえている」
「それもそうですね」
聖剣と魔剣も隠すつもりはないのだろう。
互いの声を聞いた旦那様に、あとで教えてもらうとしよう。
「そういえば、こうして二人きりになるのは久しぶりですね」
「そうだな。もちろん家族でとる夕食はかけがえないが……君と二人きりというのも嬉しい」
旦那様が甘く笑う。
私の頬はそれに伴い赤く染まるのだった。
私たちは、しばらくの間、夫婦の語らいを楽しんだ。
それにしても、旦那様はことあるごとに私のことを褒める。
その度に頬が熱くて仕方がないのだが……。
いつか慣れるものだろうか。
「さて、そろそろハルトとルティアを寝かせよう」
「……問題ないようで良かったです」
「そうだな」
図書室に行くと、ハルトは本棚からたくさんの本を取り出して魔剣に話しかけていた。
「やっぱり、魔石の部分が本体なんだ」
「ハルト……」
「お母さま」
ハルトが読んでいるのは、大人でも難しい魔導具の専門書だった。
きっと図を中心に見ているだけなのだろうが……。
「見て! この本に載っている剣、魔剣さんと聖剣さんにそっくりだよ!」
「まあ……本当に」
ハルトが言う通り、本に載っている剣は魔剣と聖剣によく似ている。
五百年前に実際に使われていた剣のようだが……折れてしまっている。
この剣に心があったのかどうかについては書かれていないが……。
「東の国エデンタールの金属加工。辺境伯領の魔導具研究。それから新しい知識」
「ハルト?」
「もっと研究しなくちゃ――ずっと魔剣さんと一緒にいたい」
ハルトの表情は真剣だった。
きっと、壊れた剣の絵を見て思うところがあったのだろう。
「……大丈夫だ。壊れないように大事にしよう」
「……うん」
旦那様が抱き上げると、ハルトはぎゅっと抱きついた。
「でもね。魔剣さんは、僕たちのことを守るためなら戦うつもりだよ」
「……ハルト」
「お父さまによく似ているんだ」
事実、魔剣はいざとなったら自分の魔石を壊すように言った。
魔剣に命があるのかはわからないが、もしあるのならそれすら懸ける覚悟なのかもしれない。
「……レイブランドは、これからも長生きすると言っている。だから心配するなと」
「うん」
旦那様はハルトを抱き上げたまま歩き出した。
続いて向かった先はクローゼットルームだった。
そこでは、聖剣が宝石とリボンで飾り立てられていた。




