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死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


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魔導具 1


 フィアーゼ侯爵家に招かれてからの日々は忙しかった。

 私とベルティナの関係が良好であることや、お祖父様が次の当主は旦那様であると宣言したことで、私たちを遠巻きに見ていた貴族たちまでが態度を変えた。


 旦那様がフィアーゼ家の当主の座を目指すというのなら貴族たちとのつながりを強固にしておく必要がある。

 もちろん、私が参加するのは貴族夫人とのお茶会中心で、夜遅くなる宴はお断りしているが……。


「今日は1日一緒にいられるの!?」

「ええ、そうよ。今日は何も予定を入れていないもの」

「一緒におやつも食べられる?」

「もちろんよ。料理長に何をお願いしようかしらね?」


 今日は久しぶりに、何の予定も入っていない。

 子どもたちは大喜びだが、一緒にいられて嬉しいのは私も同じだ。


「「苺タルト〜!!」」

「ふふ……その前に朝食ね」


 二人のお気に入りは苺タルトだ。

 甘酸っぱいイチゴをツヤツヤとコーティング。

 苺の上で煌めいているのは星屑の粉だ。

 ハルトとルティアから、王城の料理について聞いた料理長は、最近凝りに凝っているのである。


 ――彼は若い頃、王城の料理人を務めていたという。

 子どもたちの成長のため、栄養価が高く家庭的な料理を作ってくれていたが、彼の技術は驚くほど高い。


 侍女のアンナはおそらく国王陛下から。

 料理長と執事長は、実家を離れた旦那様にフィアーゼ侯爵家からついてきてくれた。

 庭師のサムさんはお祖父様だったし……。


「――料理長といっても、他に料理人がいないのよね」


 信頼できる厳選された使用人といえば聞こえがいいが……人数が少なすぎる。

 これからは、屋敷に人を招くことも多いだろう。

 少しずつ使用人を増やしていく必要がある。


 そんなことを思いながら口にした朝食は、今日も丁寧な仕事が感じられ、素晴らしいものだった。


 * * *


「それにしても……もったいなかったね」


 朝食を終えて紅茶を飲みながら一息ついていると、ハルトが真剣な面持ちで口を開いた。


「何がもったいなかったの?」


 ハルトの膝の上には、蜘蛛型魔道具のぴーちゃんがいる。

 ぴーちゃんは、アンナを契約者に定めたようだが、案外気ままに屋敷内を彷徨いている。

 そして、アンナの頭の上の次に、ハルトの膝の上がお気に入りのようだ。


 ハルトはぴーちゃんを撫でながら、再び口を開いた。


「フィアーゼのお屋敷には、魔導具がいっぱい飾ってあった」

「……確かに、たくさん飾ってあったわね」


 フィアーゼ侯爵家は、魔獣との戦いの歴史において、いつも中心にあった。

 当主は代々魔剣を手に戦ってきたが、一族の者たちは今まで多くの魔道具を与えられたことだろう。


「そのほとんどが、ガラスケースの中。古いものは八百年前の腕輪。多分、遠距離魔導具が収納されている」

「母様やベルティナが持っているのと同じようなものね」

「そう……それから、三百年前の傑作――火と氷の双剣。ガラスケースの中が曇っていたから、実用に耐えるはず」


 ハルトは俯いてしまった。

 彼は魔導具が大好きだ。興味を示すのはいつものことだが、様子がおかしい。


「ハルト?」

「――魔導具の保存方法が根本的に間違っているんだ!! 神話時代のテクノロジーが残された人類の遺産なのに!!」

「てくのろじー?」


 聞いたことがない言葉に目を瞬かせてしまう。

 魔導具については、ある程度知っているつもりだったが……。


「この間のパーティーでベルティナ叔母さまとお話ししたの」

「まあ……いつの間に」


 ハルトは人見知りが強いため心配していたが、父様が主催する魔導具研究会に入って文通をして交流を深めているようだし、ベルティナとも魔導具についての議論を交わしていたようだ。


「――火と氷の魔石が嵌め込まれた双剣。あんなガラスケースじゃ、互いの魔力で魔石と魔法陣の回路が痛んじゃう」

「……そうなの?」


 雪や氷の魔石は水の魔石の一種だが、水の魔力すら凍りつくような北端でしか採れない。

 それ自体がとても珍しいが……相反する属性の双剣。確かにハルトの言うとおり、特別な方法での保存が必要なのかもしれない。


「僕は魔導具師になりたい。神話時代の魔導具よりすごいものを作ったら、お父さまだけが戦わなくていい世界になる」

「ハルト……」

「――そして僕は毎日魔導具に囲まれて暮らすんだっ!!」

「……」

「もう、ハルったら」


 ここまで黙って話を聞いていたルティアが、呆れたような声を上げた。

 ハルトの目は魔導具師としての毎日を想像してか爛々と輝いている。

 だが、この年の子どもは概して騎士になりたいとか、大商人になりたいとか、大きな夢を持っているものだ。


「ルティアは何になりたいの?」

「お嫁さん!」

「ルティーが……お嫁さん……?」


 ハルトの言葉とほぼ同時に、部屋の端に立てかけられていた魔剣がものすごく……それはもうものすごく光った。

 ハルトが駆け寄って、魔剣を手にした。


 ――おそらく、魔剣が叫んだのは……。


「わかった……魔剣さんと僕を倒せないような男は認めない!」

「大人になったハルと魔剣さんを倒せる人なんていなそうだよ!?」

『ピピピピ……!』


 ぴーちゃんが話に乗っかるようにアームを大きく開いた。


「えっ、ぴーちゃんまで私の未来の旦那さまと戦う気なの!?」

 

 ルティアは困惑したようにそう言った。

 ハルトは、ロレンシア辺境伯領のトーナメントで、四歳でありながら天才的な剣技で優勝したのだ。

 私もルティアと同じ意見だが……。


 やはり魔剣が言ったのは『ルティアの結婚相手は俺より強い男しか認めない!』という類のものだったようだ。


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