家族 4
「ベルティナ様!」
「ごきげんよう皆さま……もしやこちらのお子様は」
「甥と姪ですわ」
「ルティア・フィアーゼです。……ほら、ハル」
「……ハルト……フィアーゼです」
貴婦人たちがざわめき、視線がハルトとルティアに集まった。
ハルトの声は完全に尻すぼみで途中から消えてなくなった。
ルティアは微笑んだがハルトはルティアの陰に隠れている。だが、四歳なのだ。そんな姿も可愛らしい。
「――姉と義兄ですわ」
「……リアム・フィアーゼだ」
「エミラ・フィアーゼですわ。皆様、これからよろしくお願いいたします」
――もう少し愛想良く、旦那様。
家ではあんなにニコニコしているのに。
けれど貴婦人たちは、旦那様の無表情さは気にしていないようだ。
皆、頬を染めている。
人が次々と集まってきた。
お義母様の視線が痛い。
音楽が流れ始める。
皆が踊りの輪に加わっていった。
「……ハルト、がんばりなさい」
「……うん」
ハルトが大きく息を吸い込み、それから笑みを浮かべた。
「……君と踊る栄誉を僕に」
まだ踊り始めていなかった参加者の間にざわめきが広がった。
そう、ハルトの小さな貴公子があまりに可愛かったからであろう。
私も心の中であまりの可愛さに悶えた。
「――とても光栄ですわ」
二人は洗練された仕草でダンスの輪に加わっていった。
子どもとは思えないほど滑らかに踊りだす。
「先を越されたが……踊ろうか」
「ええ……」
お祭会場のような赤い光と淡い水色の光。
キンキンギラギラまぶしくて。
けれど、これくらいでちょうど良いのかもしれない。
旦那様はやっぱり今日も格好良すぎて、踊るとき緊張してしまいそうだから……。
* * *
そしてパーティーはお開きとなる。
私たちはもう一度お義父様とお義母様に挨拶をし、フィアーゼ侯爵邸をあとにする。
「「疲れたね〜!!」」
「二人とも立派だったぞ」
「「うん!!」」
旦那様に褒められると二人はニコニコと笑った。
馬車に乗り込もうとすると、ベルティナが声をかけてきた。
「姉様」
「ベルティナ、今日はありがとう」
「いいえ、お役に立てたのなら何よりです」
彼女のおかげで知り合いもたくさんできた。社交界参加の足がかりになるだろう。
「……気をつけてくださいね」
扇で口元を隠し、ベルティナが私の耳に唇を近づけてくる。
「……どういうこと?」
「フィアーゼ侯爵夫妻が王弟殿下と近づいているという情報を得ております」
「……王弟殿下と」
王弟殿下……現在の国王陛下と苛烈な王位継承争いを繰り広げていたお方だ。
フィアーゼ侯爵家は、現在の国王陛下の王位継承に尽力してきたはずなのに……。
「私は辺境伯領に戻らねばなりません。くれぐれも用心なさって……」
「わかったわ」
「彼女がいるから大丈夫だと思いますが」
ベルティナの視線の先、アンナが眼鏡を外しこちらを見ていた。
彼女はいったい何をしていたのだろう……。
もしかして、王家の影であるはずの彼女が私の侍女になったのは、そのことも関係しているのだろうか。
「姉様、またお会いしましょう」
「ええ、次に会えるのを楽しみにしているわ」
ベルティナは踵を返すと颯爽と去って行った。
「――行こうか、エミラ」
「ええ、旦那様」
恐らく旦那様はすでにその情報を得ていたことだろう。
騎士団長である彼は、私に話せないこともたくさんあることだろう。
――あるいは過保護すぎるせいか。
馬車が動き出す。
子どもたちは疲れていたのだろう。屋敷に着く前に眠ってしまった。
何となく波乱を感じながら、私は車窓を眺めた。




