家族 2
――フィアーゼ侯爵家の王都の屋敷は、どこまでも広かった。
壁で囲まれた敷地……それは。
「「王都防衛のかなめっ!!」」
ハルトとルティアが同時に口にした。
魔剣の言葉なのだろう。
確かに、フィアーゼ侯爵家の屋敷は堅牢な印象だ。
「……そうだな。王城よりよほど防衛に適しているだろう。この場所は最初の拠点。王城が造られたときに、初代国王より、フィアーゼ侯爵家の始祖が与えられた屋敷だ」
騎士、レイブランドが賜ったのがこの屋敷というわけだ。
もちろんそれから千年の月日が過ぎ、建物は何度も建て替えられた。
しかし、当時の面影を残している。
「……行こう、お母さま」
「……ついてきて」
ルティアとハルトは、神妙な面持ちだ。
二人はどうも私を守るつもりのようだ。
「……嫌な思いをさせるだろう。君には近づけたくなかったが」
「……そういえば旦那様」
「エミラ?」
「旦那様はフィアーゼ家の当主の座に興味がおありですか?」
「……それは」
旦那様は少しの間考え込んだ。
彼自身は、当主の座に興味がない。
そのことはわかっていた。
けれど、旦那様がどう答えるかで、私のこのあとの行動は180度変わるのだ。
「――俺は、当主の座には……うるさいっ」
「……きゃ、眩しい!!」
旦那様の腰には、今日も二振りの剣。
魔剣と聖剣が同時にこれ以上にないほど光り輝いた。
――魔剣と聖剣は、旦那様が当主になることを望んでいるようだ。
「中継ぎってなぁに?」
「正統な後継者?」
「当然、魔剣を持つ者こそが我が家の正統な後継者だ。千年前から決まっておる」
「「ひいおじいさま!!」」
光がおさまったとき、背後からお祖父様の声が聞こえた。
騎士服でも庭師の服でもない、貴族らしい正装で現れたのお祖父様は、旦那様の頭をグリグリと強く撫でた。
お祖父様にも魔剣の声が聞こえている。
聖剣の声も聞こえるのかは、まだ聞いていないが……聞こえていそうな気がする。
「さて、さっさと決めなさい」
「……」
「祖父上、俺は家族を守れればそれで良いのです」
「では、フィアーゼ侯爵家を継ぐ以外の選択肢はない」
旦那様は、躊躇いがちに口を開いた。
普通なら家族を守るだけなら、真面目に働き、社交界にある程度参加すれば十分なのに。
「そうですね――子どもたちが魔剣の声を聞き、エミラが聖剣を手にした今はもうその選択しかあり得ません」
「ふむ。そうでなくても選んでほしかったがな。お前は少々優しすぎる」
「……」
旦那様は戦いの中に身を置き、フィアーゼ侯爵家を継ぐという道を選ばないつもりだった。
私と結婚しなければ。子どもたちが魔剣の声を聞かなければ。
私が聖剣を手にしなければ……。
けれど、旦那様が選ぶなら私ももう迷わない。子どもたちを守るのだ。
「信じてついてきてほしい」
「もちろんです」
旦那様が真剣な目で私を見つめてきた。
私も旦那様を見つめ返した。
魔剣と聖剣は満足げに光っていた。




