騎士団長任命式 7
――拍手喝采。
旦那様は認められたのだ。
彼は死神騎士などという悪意ある呼び方をされようと、ただ真っ直ぐに王国の平和のために戦ってきた。
旦那様は軽く手を上げて観衆の声援に応えている。
特に嬉しそうではないけれど……。
赤い目が私に向けられた。
目が細められる。少々自慢気に。
「旦那様……おめでとうございます」
そう口にしながら、今だって自分自身に問いかけている。
この人の隣に立つ資格はあるのかと。
「君のおかげだ」
「え……?」
高く抱き上げられていた。
こんなにたくさんの人がいる式典なのに……。
旦那様が私を見つめ、それから片方の腕で私を抱き上げたまま観衆にもう一度手を振った。
家族の席にルティアとハルトがいる。
ルティアは両手を挙げて大きく手を振っていた。
ハルトは人が多すぎて緊張してしまったのか、一緒に来たアンナの陰から手を振っている。
アンナは眼鏡をずらして涙を拭っていた。
旦那様の腰に下がった魔剣と聖剣が強く輝いている。
まるで祝福の歌を歌っているようだ。
「旦那様の努力の結果です」
「がむしゃらに戦ってきた……」
旦那様はどこか遠くを眺めながらそう言った。
「彼らも喜んでくれることだろう」
「――旦那様」
なんて声を掛けたら良いのかわからない。
彼らが誰なのかについて、旦那様は口にしなかった。
けれど私は知っている。旦那様は亡くなった騎士たちの家族が困っていないか、いつも気にしていた。
忙しい日々の合間を縫って、自ら足を運んでもいた。
だから彼らとは、きっと亡くなった仲間や部下のことなのだ。
旦那様は私を抱き上げたまま、家族席へと向かった。
私を降ろすと旦那様は、ハルトとルティアの前に膝をついた。
「お父さま、おめでとうございます」
「ルティア。君がみんなのために頑張っていると聞いて……俺も頑張れたんだ」
「ふふ、これからだってそうよ! お父さま」
ルティアは目を潤ませながら笑った。
ロレンシア辺境伯領での経験から、旦那様の苦難の日々を子どもながらに察したのだろう。
「お父さま……おめでとうございます」
「ハルト。君が家族を守ってくれていると思ったから……安心して戦えた」
「……うん、これからも僕に任せて。お父さま」
人が多いのに怯えてアンナの陰に隠れていたハルトだが、前に出てきて笑った。
彼の眼差しには決意が浮かんでいるようだ。
「――ありがとう」
旦那様は笑うと立ち上がり、騎士たちの下へと向かった。
五つの騎士団旗がはためいている。
騎士団旗の下には王国の平和を担う騎士団長達が勢揃いしている。
第一騎士団の色は赤。王都と王国の平和を守る彼らの象徴は薔薇と剣だ。
第二騎士団の色は青。遠距離攻撃を得意とする彼らの団旗には魔導具と翼が描かれる。
第三騎士団の色は緑。大型の魔獣と戦う任務が多い彼らの団旗には竜を貫く槍が描かれる。
辺境伯騎士団の色は銀。描かれるのは百合と女性騎士――剣の乙女だ。
そして近衛騎士団の色は金。国王を守る彼らの旗には王冠と双剣が描かれていた。
今代の騎士団長は皆、まだ年が若い。
だが騎士団長になったばかりの旦那様は、彼らの中で二番目に若い。
近衛騎士団長ローレンス・ベルセンヌ卿だけは、王家に血を連ねる四つの公爵家の者が務める関係もあり二十歳になったばかりで最年少だ。
国王が視察にでも出なければ王都を離れることはない近衛騎士団長以外、騎士団長達は戦場で共に戦ったことがある仲間でもあるのだろう。
旦那様の頭には勢いよくシャンパンがかけられて、正装がずぶ濡れになった。
胴上げだ。体格の良い旦那差が宙に舞う姿……なんとも迫力がある。
――厳かな雰囲気だった騎士団長任命式とは打って変わり、国民へのお披露目の場はお祭り騒ぎだった。




