騎士団長任命式 4
結局、手紙の確認は深夜にまで及んだ。
手紙のほとんどは、私に対するお茶会の招待状だった。
今まで社交界に参加してこなかった私が、こんなにたくさん招待されることになるとは、考えてもみなかった。
騎士団長任命式には騎士団の関係者と親や配偶者くらいしか招待されないらしいけれど、妻が参加しないなんて不仲を疑われたって仕方がない。
――旦那様にとって、私は屋敷の中で守っていたい存在なのかもしれない。
確かに私は幼いころから領地から出たことがなく、社交界に参加したこともない。
でも、これからはせめて社交では頼りになる妻になりたい。
それに、子どもたちも六歳になれば王立学園に入学し、子ども同士の関係を築き始める。
同じような年齢の子どもを持つ夫人たちと交流を持つ必要だってある。
「でも、まずは旦那様の騎士団長任命式よね」
旦那様は通常業務だけでも忙しいのに、就任式の準備まで加わり多忙を極めている。
屋敷内のあれこれを済ませたあと、夕方からは王城に出掛けてしまった。
もしかしたら、今日はもう帰ってこないのかもしれない。
そんなことを思いながら窓の外を眺めると、門から屋敷に向かって明かりが近づいてくるのが見えた。
「旦那様が帰ってきたのかしら」
私は執務室から出て、エントランスホールへと向かった。
丁度、玄関の扉が開いて旦那様が帰ってきた。
「おかえりなさいませ!」
「――ただいま」
私が起きて出迎えたことに驚いたのか、旦那様は赤い目を軽く見開いた。
それから私を抱き寄せた。私たちはしばらく抱き合っていたが……。
「――おしっこ」
「ハルト!?」
「……一緒に寝る」
「ルティアまで」
ハルトとルティアが半分寝ぼけたようにエントランスホールに出てきたため、私たちは慌てて離れた。
「とりあえず、お手洗いに行きましょうね」
「うん……」
「ではルティア、一緒に寝室へ行こうか」
「うん……お父さまも一緒に寝る?」
「そうだな。一緒に寝よう」
私たちはいったん離れた。
ハルトを連れて寝室に戻ると、旦那様はルティアを寝かしつけていた。
ルティアの隣りにハルトをそっと寝かせる。
二人は身を寄せ合って再び眠った。
「可愛らしいものだな……」
「ええ、二人はとても可愛らしいのです」
私たちは二人が眠ったことを確認するとそっと離れた。
最近、子ども部屋で寝ると宣言し、二人で寝ることが多くなった。
少しずつ二人は大きくなっていく。
赤ちゃんのころはずっと一緒にいたから、そのことが少し寂しく、成長が嬉しくもある。
「明日も朝早いのですか?」
「ああ……そうだな」
「では、着替えて少しでも休まなくては」
「――もう少し、君と一緒にいたい」
不意に抱きしめられた。
旦那様は、こんなとき少しだけ子どもみたいだ。
そんなことを思っていると、唇が合わさった。
「愛している、エミラ」
「私も愛しています。旦那様」
唇が離れると旦那様が笑う。ちょっと無邪気な表情で。
私も彼に微笑みかけた。
大切な子どもたち、大好きな旦那様。
この幸せを守るためなら、どんなことだって頑張れる。
当然のようにそう思えるのだった。




