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死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


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騎士団長任命式 3


 手紙の山に取り掛かる。

 驚くべきことにほとんどが、社交界に関連するものだった。


「……旦那様、どうすればよろしいでしょうか」

「そうだな――これに関しては」


 今日、我が家に来ているお祖父様に相談しようと、私だけでなく多分旦那様も思った。


「私にお任せくださいませ!」


 しかし、元気な声が背後から聞こえてくる。

 それは、もちろんアンナだった。


「アンナ……?」

「確かに君は貴族関連の情報に詳しいが、得意分野が違うのではないか?」


 しかしアンナは、自身ありげに胸元に手を当てた。

 

「僭越ながら――どの貴族がこちらに敵意を持っているか調べる中で、どの貴族が奥様に興味を持たれているか、旦那様に擦り寄りたいと思っているか、全て把握しておりますわ!」

「君のいうことには一理ある……か」

「それに、任務でお茶会や夜会にはよく潜入しておりますので」


 アンナは、潜入しているとはっきり口にしてしまった。

 彼女が王家の影であることが現実味を帯びてくる。


「私も手紙を拝見してもよろしいでしょうか。見てしまったものは、陛下にご報告しなければなりませんが、それでもよろしければ」

「エミラはどう思う?」

「――アンナの意見も聞いてみたいです」


 陛下へのご報告、という意味ではどちらにせよ旦那様からもすることだろう。

 ここにあるのは、ほとんどが私宛ての手紙だから、隠すようなことが書いてあるとも思えない。


「ではアンナ、頼む」

「かしこまりました」


 アンナは眼鏡を外し、夜空を思わせる深い青色の目を細めて笑った。

 そして、机の上に次々と手紙を開いていった。


「こちらは、フィアーゼ侯爵家と同じ派閥のベルセンヌ公爵家からの招待……お断りできません」

「ベルセンヌ公爵家であれば、確かにそうだろうな」

「けれど、侯爵と夫人もいらっしゃるでしょうね」

「……父上と義母上か」


 旦那様が私のことを案ずるように視線を向けてきた。

 ここまでの私に対する扱いにしても、旦那様の思い出話の端々からも、こちらに好意を持っていないことは明らかだろう。


「しかもこちらは、坊っちゃまとお嬢様にも来てほしいと……サミュエル様も参加できるようにお伺いを立てようかとは思いますが」

「そうね。ちょうどお屋敷にいらっしゃっているから……まずはご相談しましょう。ハルトとルティアも参加する必要があるなら尚更だわ」


 辺境伯家の長女として、この国の貴族の名前は最低限覚えた。

 それに、執事長に教わりながら、各領地の特徴や有力貴族に関する情報も覚えている。

 けれど、私は社交界とは無縁だった。

 子どもたちを連れて、粗相をせずに終えられるだろうか……。


「子どもたちに関しては……」

「――父上と義母上からも手紙が来ているな。孫に会いたいと」

「そのようですね」

「父上と義母上も領地から王都に来ているようだ。本邸にも近いうちに行かねばならないだろうが……その前に、ベルセンヌ公爵家の開催するパーティーに参加するのがよかろう。ローレンス・ベルセンヌ卿とも連絡を取っておく」

「近衛騎士団長、ローレンス・ベルセンヌ卿は、確か……」

「ああ、ベルセンヌ公爵家の三男だ」


 この国の五つの騎士団の内の一つ、近衛騎士団は王族を守ると同時に騎士団が関係する儀式を執り行う。

 私はまだお会いしたことがないが、第一騎士団団長である旦那様とは共に働く仲間でもあろう。


「ああ、騎士団といえば。旦那様の騎士団長任命式は明後日でございましたね」

「任命式!?」


 アンナがサラリと口にした言葉に、私は驚きを隠せなかった。


「それは、俺一人で行けばいいと言ったはずだ」

「なりません! 旦那様は戦場での武功で騎士団長にまで昇格されましたから、戦場で略式の任命式が行われたのみ。正式な任命式は家族が参列し祝うものです!」


 旦那様は五年も戦場にいて、その間に陛下から第一騎士団長に任命された。

 通常であれば、王都に一旦帰還して正式に任命されるはずが、先代の第一騎士団長が戦死した関係で魔獣との戦いから旦那様が離脱するわけにいかず保留となっていたのだ。

 

「……どうして話してくださらなかったのですか」

「それは……」


 旦那様は別に私を除け者にしようとしたわけではあるまい。

 多分一番の理由は、自分が祝われることに重きを置いていなかった、ということな気がする。


 さて、手紙はまだ山積みになっているが……。


「「お父さま、お母さま、起きたよ〜!!」」

「ハルト、ルティア」

「「何かあったの?」」

「ううん、なんでもないわ」

「「そうなの?」」


 ハルトとルティアがお昼寝から起きてきたため、話は中断された。

 それにしても、旦那様は親族席に誰もいない状況で任命式に参加するつもりだったのか。


「絶対に参加いたしますからね」

「心強いよ」


 私が行ったとて何の役にも立たないだろうが――旦那様は、ほんの少し嬉しそうだ。


 しかし、子どもたちが起きてきた以上、手紙の処理は夜になるだろう。


「手紙に関しては、重要度順に分けておきます。旦那様と相談して、代筆で問題なさそうな手紙には、返事をしておきますわ」

「ありがとう、アンナ」

「「お母さま、おやつ食べたい!!」」

「ええ、行きましょうね」

 

 こうして、私は一旦執務室を離れた。

 あとで、騎士団の式典について調べておかなくては、と心に決めて。

 

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