五年越しの家族団らん 6
* * *
朝食を済ませても、子どもたちは旦那様のそばを離れなかった。
というよりも、魔剣だという旦那様の剣のそばを。
「ねえねえ、さっきみたいに喋ってよ〜」
「お話しできるのわかっているんだよ!」
ハルトとルティアは、剣に話しかけ続けている。
もちろん、剣が話をするなんてあり得ないのだから、子どもながらの想像力の賜物なのだろう。
私はそう思っていたのだけれど……。
「旦那様、少し顔色が悪いようですよ?」
「そうか……いや、問題ない」
「問題ないって顔色じゃないです! 寝室で休みましょう!」
手を引くと、旦那様の体がびくりと揺れた。
不思議に思って首を傾げる。
「ハルト、ルティア……お父さまはお休みになるのよ。剣から離れなさい」
「ねえハル……お父さまのことは心配だけど、どうする?」
「ルティー……でも、この剣は僕たちから離れたくないって」
二人は旦那様の剣にしがみついてしまった。
いつもは聞き分けがいいのに、どうしてしまったのだろう。
「旦那様、こんなこと初めてです」
「――剣に実力を認められなければ、鞘から抜くことはできない。置いて行っても問題ないだろう。……執事長を呼ぼう」
「わかりました」
少し心配だけれど、旦那様の顔色は悪くなる一方だ。
「「お父さま、ごめんなさい。でも、この子と大事なお話があるの」」
「――よく、わかっている」
「……?」
執事長は二人の様子を見て状況を把握したらしい。
「これは、これは……お二人ともなのですか」
「ああ、そのようだ」
「喜ばしいことでございます」
「そうだろうか……二人を見ていてくれ」
「かしこまりました」
旦那様は私の手を引いて歩き出した。
執務室に向かいかけ「鍵が壊れているのだったか」と寝室に向かう。
そして、ベッドに座ると、手を組んで項垂れた。
「――大丈夫ですか?」
「問題ない……少し、昔のことを思い出しただけだ」
「昔のこと?」
「君は、二人を見てどう思った?」
「……」
子どもらしい想像力で剣に話をしているのかと思ったが、もしかすると何か事情があるのかもしれない。
だって、旦那様の剣は魔剣なのだ。
どんな剣なのかはわからないけれど、魔剣と呼ばれるほどのものが普通であるはずがない。
「――本当に、剣と会話しているのですか?」
「ああ、気味が悪くはないか」
「なぜですか?」
「……」
一瞬だけ、子どもたちのことを言っているのかと思った。
けれど、旦那様の様子を見るかぎり、気味が悪いという言葉は子どもたちを指しているのではないように思える。
「旦那様も剣とお話ができるのですか?」
「――ああ」
「なるほど……?」
「白銀の髪も赤い目も……君の可愛らしい淡い茶色の髪や優しげなアイスブルーの目に似ればよかったものを」
そこで私は気がついてしまった。
旦那様はとても傷ついた目をしている。
「うーん」
「エミラ?」
「……二人の瞳はルビーか晩秋に咲く深紅の薔薇みたいで、白銀の髪は冬の訪れのよう」
初めて旦那様にお会いしたとき、こんなに美しい髪と瞳があるのかと感動した。
「……白ウサギみたいだと思って作ってあげたぬいぐるみは二人のお気に入りです」
「あ……」
旦那様は自分を卑下したつもりで、子どもたちの髪と瞳も貶めていることに気がついたようだ。
「私の大好きな、そして大切な色です。私、赤と白銀が好きになりました」
次の瞬間、なぜか旦那様の目元が赤く染まった。
そう、双子の子どもたちを褒めたつもりだったけれど、それはつまり……。
次の瞬間、私の頬も旦那様とお揃いに真っ赤に染まったことだろう。




