騎士団長任命式 1
馬車が王都にたどり着く。
南側の城門に馬車が近づくと門兵たちがこちらに向かって敬礼した。
ルティアとハルトが手を振ると、皆が微笑んで手を振ってくれた。
行きと同じように、門の前には検問を待つ人たちの長い列ができている。
私たちの馬車は、今日も貴族向けの門から並ぶことなく王都に入る。
「「わあ! 帰ってきた!」」
ルティアとハルトは、家に帰れることが嬉しいのだろう。
二人で盛り上がっている。
お屋敷の門をくぐると、執事長とアンナ、そしてお祖父様が勢揃いしていた。
アンナは城門をくぐるまでは一緒にいたのに、すでに侍女服に着替えている。
その足元には、蜘蛛型魔導具がちょこんといる。
――お祖父様と執事長には、あらかじめ知らせてはあったが……驚いている様子はない。
執事長が馬車の扉を開いてくれた。
「「執事長! ただいま!!」」
「坊ちゃん、お嬢様、お帰りをお待ちしておりました」
「「うん!!」」
ルティアとハルトは飛び降りながら執事長に挨拶をし、そのままの勢いで駆けて行った。
「「ひいおじいさま〜!!」」
「無事帰ってきたか……」
お祖父様は、ルティアとハルトを軽々と抱き上げた。
その目は完全に潤んでしまっている。
「ひいおじいさま、優勝したの」
「私は3位だったわ……今度鍛えてくれる?」
「それからね、お友だちもできたの!」
「それから、魔獣も出たんだよ!」
「「それからね〜!!」」
子どもたちは、旅行での出来事を次々に口にしている。
このままでは、お祖父様は二人を抱き上げたまま長時間聴く羽目になる。
事実、大事件が連続で起きたのだ。
あれほど恐ろしい思いをしたのに、子どもたちは元気いっぱいだ。
特にルティアの様子が心配だったのだが――大丈夫なのだろうか。
ハルトは普段寡黙だが、意外と逞しい性格をしている。
ルティアは強気に見えるが、案外デリケートなところがあるのだ。
何かがあったとき、ハルトはいつもすぐに眠ったが、ルティアは夜中ぐずることも多かった。
そんなことを思いながら、私たちもお祖父様のそばに行く。
「祖父上、ただいま帰りました」
「ご苦労だった。予想外のこともあったようだが……」
「ええ、祖父上のご意見もお聞きしたいです」
「ああ」
お祖父様と旦那様が真剣な表情で話しているので、声をかけるタイミングを逃してしまった。
お祖父様の視線がこちらに向く。
「――とにかく、君が無事でよかった」
「え?」
お祖父様が、完全に涙目になった。
お祖父様はルティアとハルトを下ろすと、ぎゅっと抱きしめてきた。
「おかえり、エミラ」
「お祖父様……」
「全く……心配をかけおる」
お祖父様のおっしゃる通り、聖剣のこと、兄のこと、それに魔獣のこと……ロレンシア辺境伯領では多くの出来事があった。
とても緊張していたのだと、思い知らされてしまったようだ。
――不覚にも私まで涙が止まらなくなってしまった。




