王都への帰路 5
子どもたちは、大人から物語を聞くのが大好きだ。
我が家の双子ももちろん大好きだ。
「黒い森に暮らしている魔獣は、空を飛ぶ獅子だという」
「「獅子……見たことない」」
「現れれば、普通の人間など太刀打ちできないだろう」
「「……」」
怖い話なのだろうか。今夜、子どもたちは私と旦那様から離れることができないだろう。
「だが、三百年前のフィアーゼ家の当主は特別だった。魔剣を手に入れる前から、特別に強かった」
「「……!!」」
子どもたちが目を輝かせて、振り返った。
旦那様は、ニヤリと笑った。
――旦那様は、語るのがなかなか上手い。
やはり、騎士団長として多くの人の前で話す機会が多いからだろうか。
旦那様の新しい一面を発見したように思えたことと、純粋に魔剣の最初の持ち主であった騎士の物語が気になってしまい、私まで前のめりになってしまった。
「当時はまだ、たくさんの魔道具が現存したらしい」
「まっ……魔導具!!」
ハルトの赤い目がこの上なく輝いた。
彼は魔導具がとても好きなのだ。
「詳しい話は、二人きりのときにな?」
「うんっ!!」
「ずるーい!!」
「はは、ルティアと二人きりのときには、何を話そうか……そうだな、祖父上にレイブランドとフィアレイアの恋物語でも詳しく聞いておくとしよう」
ルティアも目を輝かせた。
彼女は三歳になったころから、お姫様と騎士の話に夢中なのだ。
「あれ? 珍しく魔剣さんと聖剣さんが慌ててるよ」
「そっか……魔剣さんたちにもふうふのじれじれがあったんだねぇ」
魔剣の宝石がチカチカ光った。久しぶりに見た光にホッとしてしまう。
「――さて、話を戻そう。三百年前、黒い森から溢れ出してきた魔獣は空を飛び王都へと迫った」
先日、襲いかかってきた鳥の魔獣を思い出す。
助け出してもらえたからよかったけれど、大きなかぎ爪で切り裂かれたら、私のように魔力がない者はひとたまりもない。
「――レイブランドは、黒い森の中心部へと向かった。そこには泉が一つあり、獅子の魔獣が守っていたらしい」
「泉を……守っていたのですか?」
魔獣とは襲いかかってくるものであり、何かを守るというイメージはなかった。
しかし、高位魔獣の一部には人並みの知性を持つものもいると聞く。
「騎士は戦ったが、勝つことはできず」
「「え……騎士さん、負けちゃったの」」
「いや、当時残されていた神話時代の魔導具を使い封印したんだ」
「「……」」
魔導具というところで、ハルトが騒ぎ出すかと思ったが、黙り込んでしまっている。
勝てないということがショックだったのだろうか。
「――ねえ、魔剣さん。お父さまとそのときの騎士さんはどっちが強い?」
「ねえ……お父さまのほうが強いよね?」
旦那様はとても強い。
彼に敵う人を見つけるのは、とても難しいだろう。
「え? お父さまが強いけど」
「俺のほうがもっと強い?」
ルティアとハルトが、旦那様と魔剣を交互に見て目を瞬かせた。
「「そっかぁ!」」
二人はすっかり安心したようだ。
――だが、今も空を飛ぶという獅子の魔獣は黒い森の泉を守るように眠りについているのだ。
馬車は王都へと向かっていく。
そのあともルティアとハルトは、旦那様にたくさん魔剣を手にした騎士たちの話をしてもらいご機嫌だった。




