王都への帰路 3
山小屋で目を覚ますと、誰もいなかった。
窓の外から差し込む光は少し紫がかっている。
寝坊してしまったわけではないようだ。
外に出てみると、山小屋の前の広いスペースで子どもたちが旦那様に剣の指南を受けていた。
子どもたちの剣は、ベルティナがお土産にと用意してくれたものだ。
「ふむ、ハルトは剣の型はいいが基礎体力が足りないようだな」
「はあはあ……」
「ルティアは体力はあるな……だが、重心が右に偏っている」
「きゃっ」
旦那様が言った通り、ルティアは何回か剣を振っているうちによろけて転がった。
「あっ……」
「お母さま! 平気なの!」
駆け寄ろうとしたが、ルティア自身に止められてしまった。
恐らく子どもたちから旦那様に鍛えてほしいと申し出たのだろう。
――黙って訓練を見守ることにする。
しばらくして訓練は終わった。
子どもたちはヘトヘトになっているが、付き合っていた旦那様は汗一つかいていない。
「お疲れさまです」
「ああ……」
旦那様は子どもたちを抱えて立ち上がった。
「汗を流してから行くとしよう。風邪を引いたら大変だからな……さて、ルティアを頼む。俺はハルトと水浴びしてこよう」
「ええ」
ルティアを軽く湯浴みをさせて、馬車に乗り込む。
程なく、旦那様とハルトも馬車に乗り込んできた。
「ねえ、お父さまは毎日こんなに訓練しているの?」
「ハル……お父さま、汗もかいてなかったよ。こんなの余裕なんだよ」
「すごいねぇ……ルティー」
「疲れたねぇ……ハル」
疲れ切ったのだろう。二人はすぐに眠ってしまった。
「旦那様……」
「厳しすぎたか?」
旦那様は、私と視線を合わせなかった。
多分、私以上に旦那様のほうが厳しすぎたのではないかと思っているのだ。
「そうですね……厳しいと思います」
「そうだろうな――起きたら優しくしてやってくれ」
旦那様は手加減する気はないのだろう。
子どもたちは……遠からず魔獣と戦う宿命だ。
「生き延びられるように……でしょう」
「もちろん、それ以外にない」
旦那様はそう言って窓の外を見た。
彼自身が、周囲からの重圧を受けながら生きてきたのだ。
子どもたちは肩を寄せ合って居眠りしている。
私は旦那様の隣に移動した。
そして、ルティアとハルトがそうしているように、その肩にそっともたれかかる。
「――生きてください」
「……ああ、君と一緒に生きていく。だから、心配するな」
旦那様が、私の頭を撫でた。
彼の傍に立てかけられた魔剣は今日もだんまり。聖剣も静かなものだ。
馬車は王都に向かっていく。
王都につけば着いたで、忙しい毎日を送ることになるのだろう。
まずは、陛下に聖剣を持ち帰った報告もしなければならない……。
これから先は、社交界だって避けることができない。
それでも、社交界なら私にもきっとできることがある。
私だって子どもたちと旦那様を守るのだ。
決意を胸に、私は目を閉じるのだった。




