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死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


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王都への帰路 2


 最後にベルティナと母様と別れを告げる。


「姉様……またお会いしましょう」

「ええ、今度は社交界かしら?」

「――気は進みませんが、辺境伯領と私のようなじゃじゃ馬でも良いという婿殿を探さねばなりません」


 騎士服を着たベルティナは凜々しく美しい。

 きっと彼女のことを慕う人もいるだろうが、辺境伯領は最前線で彼女は騎士だ。

 相手を見つけるのは、難しいことなのかもしれない。


「母様……お体にお気をつけてください」

「ええ、あなたもね。遠い場所だけれど、元気でいてくれることを祈っているわ」


 双子が、母様に走り寄る。


「おばあさま、またね! 今度、弓を教えてね」

「いつでもいらっしゃい」

「おばあさま……王都に来てね」

「そうね、いつか行きたいわ」


 いつのまにか、ルティアとハルトは母様との距離を詰めている。

 二人は母様に抱きついて、目を潤ませた。


 次に会うときには、おそらく二人とももっと大きくなっていることだろう。

 辺境伯領は王都から遠いし、未だこの地の戦力であり領主の妻でもある母は、容易にこの地を離れることができない。


 ――ベルティナが、婿を迎えればあるいは余裕ができるのかもしれないが……。


「元気でね」

「「うん、おばあさまもね!」」

「ええ、ありがとう」


 母様はいつも穏やかに微笑み、寡黙な人だった。

 そして、今日も穏やかに笑っていた。


「それでは、私たちも父様の見回りを手伝って参ります。これで失礼します」

「ええ……ベルティナ、また会いましょう。母様、ごきげんよう」


 二人は私たちよりも一足早く門の外へと去って行った。

 高位魔獣が出現したため、しばらくの間見回りも強化されることだろう。


「行きましょうか……旦那様」


 私は旦那様に視線を向ける。

 彼は朝から何かを思い悩んでいるようだった。

 昨日、父様と話をしたあとは特に変わりなかったのだが……。


「旦那様?」

「あ、ああ……行こうか」


 ルティアとハルトの手には、私が作った白いうさぎのぬいぐるみがそれぞれ抱きしめられている。

 二人は寂しそうでもあり、家に帰るのが嬉しそうでもある。


 馬車はゆっくりと走り出した。

 アンナは、いつの間にか姿を消している。

 おそらく、私たちより先に峠の安全を確認しに向かったのだろう。


 蜘蛛型魔導具も見当たらない……アンナを追いかけてしまったのだろうか。

 まるで、意思を持っているようだ。


 五年前に旦那様に輿入れするときには、もう戻ってくることはないと思っていたが……。

 いつかまたこの場所にくることもあるだろう……今はそう思えるのだった。


   * * *


 馬車は坂を上る。小高い丘からは壁に囲まれた要塞のような街並みが見えた。

 行きに見たときと違う気持ちで眺める。


 ……馬車の中で、旦那様はやはりどこかもの憂げだ。二人きりになったタイミングで聞いてみることにしよう。


 峠を越え、今日は山小屋に泊まる。

 ルティアとハルトは、慣れた様子で山小屋に駆け込んでいった。


「今回は私が作りますね。辺境伯領から食材を持ってきましたから」

「ありがとう」


 旦那様は笑った。

 辺境伯領では、皆で集まるときには大きな鍋に具だくさんのスープを作る。

 そして、焚き火と鍋を囲んで過ごすのだ。


 日が暮れかけて、赤々とした焚き火を囲んだ。

 子どもたちは信じられないくらいよく食べた。

 少し残ってしまうかな、と思ったけれど鍋の中は空っぽだ。


 子どもたちは疲れ切っていたのだろう。

 焚き火を見ながら眠ってしまった。


 旦那様とアンナが二人を抱き上げて連れていく。

 戻ってきたのは、旦那様だけだった。


 並んで座り、焚き火を眺める。

 質問するなら今しかない。


「旦那様……何か心配事でもあるのですか?」

「気がついていたか」


 旦那様は、魔剣を鞘から抜いた。

 そういえば、魔剣はいつもはあんなに騒がしいほど光るのに、辺境伯領を出る頃からだんまりだ。

 聖剣については、どれくらいの頻度で光るのかまだわからないけれど、こちらもだんまり……。


 旦那様が焚き火の明かりに魔剣の刀身をかざした。


「やはり……小さな刃こぼれだ」

「刃こぼれ?」

「ああ。魔剣は千年の間、フィアーゼ侯爵家の者と一緒に戦ってきたが、その間一度も破損したことがないと言われている」

「……まあ」

「俺たちしか触れられない以上、鍛冶屋に預けることもできない。王都に戻ったら祖父上に研磨の相談をしよう――それまで、念のため聖剣を持つことにする。魔剣は預かっておいてくれるか」

「ええ、もちろんです」


 もしかすると、先日旦那様と共に戦うのを拒んだのも、そのせいだったのだろうか。

 預けられた魔剣に視線を落とすと、フワリと柔らかな光が見えた。


「たいしたことないから気に病むな、だそうだ」

「……逆に心配になります」


 だが、王都に戻るまでの間、旦那様は聖剣を使うのだ。

 魔獣だらけの辺境伯領と違って、王都までの道のりはそこまで危険ではないはず……。

 

「さあ、俺たちもそろそろ寝ようか」

「そうですね。明日も早いですから」


 峠を抜ければ、王都までは平坦な道のりになる。

 旦那様に手を引かれ、魔剣を抱えたまま立ち上がる。

 鳥や動物の鳴き声が聞こえ、山小屋で過ごす夜は前回泊まったときよりも少々騒がしく思えた。

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