剣に選ばれし者 1
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(*´▽`*)
「――剣が人の姿に見えた?」
「おかしなことを言っていると自分でも思います……でも」
「いや、あり得なくはない。喋るのだから」
私は早速、二振りの剣が人の姿に見えたことを旦那様に話した。
旦那様はすぐに信じてくださったが、何やら考え込んでしまった。
「……父様に話を聞きに行きましょう」
聖剣の名が、ロレンシア辺境伯家の始祖の娘フィアレイアと同じであることはベルティナに聞いた。
そして、フィアーゼ家の当主しか知らないというお祖父様の話を統合すれば、フィアレイアがフィアーゼ侯爵家に嫁いだであろうこともわかった。
しかし、魔剣と聖剣のことを知るにはそれだけでは情報が足りない。
現時点で一番情報を持つのは、聖剣の所有者である父様だろう。
「それが一番良いだろう……だが、大丈夫か?」
旦那様は私を気遣うような表情を浮かべた。父様と私の間にあるわだかまりを心配してのことだろう。
「大丈夫ですよ。私ももう子どもではありませんし……」
とはいえ、父様と話すのは緊張する。
そんなことを思っていると、旦那様が私の手を包み込むように握ってきた。
「旦那様……」
「お義父上は、君のことを気にかけていた。だが、君が無理する必要もない」
少しだけ涙腺が緩んでしまう。
どうして旦那様は、いつも私が欲しい言葉をくださるのか。
……けれど、優しさに甘えきってしまったら、隣に立つことなどできはしない。
「大丈夫です」
「そうか……」
旦那様の手を握り返す。
「でも、一緒に来てください」
「ああ、もちろんだ」
旦那様の笑顔は心強かった。
滞在の予定は明日まで。父様と話すならもう今日しかない。
使用人を介して父様に話がしたいと申し出る。執務室で待つという返答がすぐに返ってきた。
「行こうか」
二人で部屋を出ようとすると、旦那様が耳を塞いだ。そして私は後ろで眩く光る閃光に何事かと振り返る。
父様の部屋に武器を持っていくのも……と、寝室に置き去りにされた魔剣と聖剣がギラギラ光っている。
今まで魔剣の光だけだったが、そこに聖剣まで加わると赤に青にとても派手やかだ。
「連れていけと……?」
私が光から感じたことと、旦那様が聞こえたことは同じらしい。
「エミラ、どうする?」
「父様は武器を持ってきても気にしませんし……来てくれたら心強いです」
そもそも、父様の執務室には壁一面に武器が飾られている。もちろん全て実用可能な物ばかりだ。
魔導具もたくさんある。ハルトが見たら大騒ぎになるだろう……。
そんなことを思っていると、旦那様がなぜかがっくりと肩を落とした。
「君までそんなことを……俺はそんなに頼りないかな」
「……? 旦那様ほど頼りになる人を他に知りませんよ」
「そうか?」
「もちろん。頼りにしています、旦那様」
魔剣がゆっくりと光を強めた。口笛でも吹いているのか。
聖剣はそんな魔剣をたしなめているようにも見える。
それにしても仲が良い。
「行きましょう、旦那様」
「ああ」
旦那様は魔剣、私は聖剣を手に、二人並んで廊下を歩き出した。




