魔剣と聖剣の物語 9
――そして翌朝。
「「あーっ!! 仲良し!!」」
子どもたちは強い。
一晩経てばすっかり元気になっていた。
私は旦那様に抱きしめられたまま身動きがとれなくなっている状態で、ルティアとハルトに発見されることになった。
旦那様は私に口づけすると、再び眠り込んでしまったのだ――私を強く抱き締めたまま。
身動きしても、旦那様の腕から抜け出せず、私は諦めて一緒に横になった。
寝言なのか、旦那様がたまに私の名前を呼ぶものだから、すっかり寝不足だ。
「仲良しだねぇ……」
「本当に仲良しだねぇ……」
「一緒に寝たいけど、もうちょっとだけお父さまにお母さまを貸してあげようか」
「じゃましちゃ悪いもんねぇ……」
二人のあとから、蜘蛛形魔導具とアンナが入ってくる。
アンナは蜘蛛形魔導具に慣れてきたようだ。頭に乗られても、平然としている。
いや、眼鏡をかければ、蜘蛛の形は見えないから平気なのかもしれない。
『ピピピピピッ!』
蜘蛛形魔導具は、可愛らしい小鳥のような声で鳴く。
「「ぴいちゃん! おはよー!!」」
『ピッピー!!』
魔導具にはぴいちゃんとずいぶん可愛い名が付けられたようだ。
「お嬢様、坊ちゃん。朝食ができているようです。まいりましょう」
「「お腹空いた〜!!」」
『ピッピ〜!』
二人と一台は、アンナに連れられていった――旦那様と私を部屋に残して。
もちろん、旦那様に抱き寄せられている姿を子どもたちに見られてしまった私の頬は、羞恥のあまり赤いことだろう。
だが、腕の力が緩んだので少し距離を取れば、眠っているはずの旦那様も耳まで赤い。
――旦那様は、子どもたちが来たときに目を覚ましていたようだ。
昨日父様が話していた英雄とこの可愛い人は、本当に同一人物なのか。
私は思わず口元を緩めてしまった。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう……エミラ」
旦那様は私に微笑みかけてきた。
美貌の旦那様の笑みは、どんな砂糖菓子より甘い。私は思わず見惚れてしまう。
けれど旦那様は、すぐにその笑みを消してベッドの横に視線を向けると眉根を寄せた。
「どういうことだ」
旦那様の口調は、どこか苦々しげだ。
恐らく、旦那様には聞こえているのだ。私には聞こえないのだけれど、視線らしきものには気がついていた。
視線が二つに増えている。
それは赤い目とアイスブルーの目から向けられたものだ。
いや、目ではなく宝石だが……。
「『なあ』と『ええ』だけで会話が成り立っている……あの二人は長年連れ添った夫婦か何かか?」
チカチカと仲良く同じ速度で点滅している二つの宝石は、たぶん私たちを観察して楽しんでいる。
千年もの間、フィアーゼ侯爵家に生まれた騎士とともに戦い続けてきた魔剣レイブランド。
千年もの間、ロレンシア辺境伯家の宝物庫に眠り続けていた聖剣フィアレイア。
二つの剣が出会ったのは、恐らく千年ぶりだ。千年前に、フィアーゼ侯爵家に嫁いだというロレンシアの姫により引き離されたはず。
「え……?」
二つの剣が人に姿を変え、仲睦まじそうに寄り添った。
白銀の髪に赤い目の旦那様に良く似た男性と、淡い茶色の髪にアイスブルーの瞳の私に良く似た女性の姿だ。
二人こそが、フィアーゼ侯爵家の始祖レイブランドとロレンシアから嫁いだという姫なのではないか……私はそんなことを思う。
女性がアイスブルーの目を細めて、男性の頬に口づけする。
直後、二人の姿は消えてベッドの横には魔剣と聖剣が立てかけられていた。
「ええ、旦那様が仰るとおり、二人は夫婦。たぶんおしどり夫婦ですね」
魔剣の宝石はいつも以上に赤く色づいているように見えるのだった。




