表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/83

魔剣と聖剣の物語 7


 ようやく周囲が落ち着いてくる。

 ルティアもハルトも泣き止んだ。

 アンナが二人を抱き上げてくれた。

 彼女の顔色は青い。蜘蛛形魔導具は、彼女の足にしっかりしがみついたままだ。


「大丈夫?」

「何のこれしき」


 アンナの目は完全に潤んでいるが、一時離れジェイルの様子を確認しに行く。


「ジェイル、大丈夫だった?」

「それは俺の台詞です……」

「私は大丈夫。あなたが守ってくれたもの」


 しかし、ジェイルは俯いてしまった。


「魔獣を相手にするのは初めてだったの?」

「ええ、模擬訓練しか……」


 彼はまだ九歳なのだ。

 私が戦えないばかりに、つらい役目を背負わせてしまった。


「ありがとう。あなたのおかげで救われたわ」

「俺は……。いいえ、これから精進します」


 ジェイルはそう言って笑った。

 そのときだった。


「エミラ!」


 旦那様の声がして振り返ったのに、少し離れたところから駆け寄ってくるのは赤い髪の人だった。


「……まさか」


 よく見れば、やはりそれは旦那様だった。血で染まっているのだ。怪我をしたのだろうか。


「旦那様!!」


 私は駆け寄った。

 しかし旦那様に手で制される。


「……旦那様? お怪我をされたのですか?」

「大丈夫だ」

「でも、血だらけで……」

「これは魔獣の血だ。汚れるから近づかないほうがいい。それより君は大丈夫なのか」

「……大丈夫です」


 私は構わず抱きついた。

 旦那様が命懸けで戦ってきたというのに、汚れるから何だというのだ。


「ぐ……」

「……っ、やっぱり怪我をしているのですね!?」

「いや、本当に……怪我は、してない……」


 そう言いながらも、旦那様はよろめいて倒れ込んできた。

 体格の良い旦那様を支えきれず、膝をつく。


「「お父さま!!」」

「ああ、やはり限界か」


 ルティアとハルトが駆け寄ってくる。二人とももはや蒼白だ。

 そこに父様がやはり返り血を浴びて戻ってきて、旦那様をヒョイッと担ぎあげる。


「父様……旦那様は!!」

「エミラ、ロレンシア辺境伯家の者が領民の前でうろたえるとは何事だ」

「……申し訳ありません」

「婿殿は魔獣に後れをとったわけではない。魔力が枯渇しただけだ。骨の何本かは折れているかもしれんが……とりあえず、屋敷に戻るぞ」


 あとから、母様とベルティナも戻ってくる。二人は気遣わしげに旦那様を見ている。


「ルティア、ハルト。お父さまはご無事のようよ。さあ、こちらに来なさい」

「……」

「……僕は歩けるから、ルティアをだっこしてあげて」

「ハルトは本当に大丈夫なの?」

「……うん」


 ハルトは何やら考え込んでいるような表情を浮かべていたが、スタスタと父様の後に続いて歩き出した。


 私はルティアを抱き上げる。


「お母さま、ごめんなさい」

「どうして謝るの? あなたのせいではないのに」

「何も……できなかった」


 ――ルティアは、まだ四歳だ。何かできるはずもない。けれど、責任感が強い彼女は、何もできなかったことでよほどショックを受けたのだろう。


「……あなたの気持ちはわかるわ」


 何もできない無力さは、誰よりよくわかっているつもりだ。


 視界の端、ジェイルがイースト卿に抱き締められていた。


「大丈夫よ」

「うん……」


 母親なのに気の利いた言葉の一つも言えない。私はただルティアをしっかり抱きしめ、皆のあとを追いかけるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アンナの弱点は蜘蛛!なのに懐かれてしまうとは(苦笑) みんなが無事でよかった〜でも旦那様は無理したみたい(>_<) ルティアの気持ちも切ないです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ