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死神騎士様との初夜で双子を授かりました【書籍化・コミカライズ決定】  作者: 氷雨そら


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ロレンシア辺境伯領 6


 * * *


 前夜祭が終わり朝が来る。

 出店がすべて片付けられ、広場はがらんとしている。

 だが、祭りは今日が本番だ。


「……旦那様」

「どうした?」


 旦那様が久しぶりに騎士服を着ている。やはり、旦那様には騎士服がよく似合う。

 あまりに凜々しくて素敵なものだから、しばし呆然となって見つめてしまった。


 だが、トーナメントは真剣勝負。毎年怪我人が出る……。

 もし、旦那様が怪我をしたらと気が気ではない。


「心配で」

「そうか、戦うところを見たことがなかったな」

「ええ……全く」

「いや、全くではない」

「……?」


 結婚式の翌日に旦那様は戦場に行ってしまったから、模擬試合を含め旦那様が戦うところを私は見たことがない。

 英雄なのだと周囲は言うけれど、優しい旦那様が強いという実感が私にはない。


「だが君は、俺よりも領民や辺境騎士団の面々を心配した方が良い」

「――旦那様?」

「俺は今回、譲る気がない」


 今朝の旦那様の笑みは、今まで見たことがないほど猛々しかった。

 赤い目を細めて笑う旦那様を前にすると、自分が小動物なのではないか、という気分になる。

 けれど、旦那様が私に牙を向けることはないのだから怖くはない。


 ――旦那様が、私の髪を手のひらで一房すくい上げ上目遣いにこちらを見た。


「……俺は君の剣だから、勝ったときには褒めてくれ」

「ふふ、わかりました。たくさん褒めますね?」


 旦那様は、私が戦えないことを気兼ねしないよう、こんなことを言うのだろう。

 けれど、本当に褒めてほしいようでもある。

 勝つ度に、たくさん賞賛しようと心に決める。


「「おはよー!!」」

「おはよう。ルティア、ハルト……もう準備したのか」

「「アンナが手伝ってくれたの」」

「それで、アンナはどこにいるの?」

「するべきことがあるんだって」

「眼鏡も外してたよ?」

「そう……」


 アンナは、陛下に辺境伯領の調査でも依頼されているのだろうか。

 眼鏡を外しているということは、その可能性が高い。


「今日はがんばってね。怪我をしないようにね?」

「「うん!!」」


 ルティアとハルトは、戦いやすいようにシャツとズボンに着替えている。

 子どもたちもトーナメントに参加することになった。

 子どもの部は、模擬剣を使うから大きな怪我をすることはないはずだ……。

 それでも心配になってしまう。


「でも、お母さまは、他の子の心配をした方が良いよ?」

「ルティア?」

「僕は……絶対負けない」

「ハルトまで」


 二人は自信があるようだ。そして瞳には闘志が燃えている。

 結果がどうなるかはわからないけれど、可愛い子どもたちの晴れ舞台を全力で応援しよう。

 私は気合いを入れるのだった。


 * * *


「どうしよう……緊張してきちゃった」

「もう、ハルは私と一緒にいれば良いの!」

「一緒にいる……でも、決勝ではルティーに負けたくない」

「私だって負けないから!」


 受付を済ませると、ルティアとハルトは手を繋いで控え室に行ってしまった。

 少し離れるだけなのに、心配だし寂しいしなんだかソワソワしてしまう。


「では、子どもの部を観戦しようか」

「旦那様は、まだ行かなくて良いのですか?」

「……大人の部は午後からだ。それにある程度の流れは理解している」


 旦那様は、元々トーナメントに参加する気でいたのだろうか。

 事前準備は完璧なようだ。


「そういえば、今年の剣の乙女はベルティナ嬢か?」

「――ええ、毎年彼女が努めています」


 十年前の例外を除き、剣の乙女は毎年ベルティナが努めている。

 だから、最近は騎士服ばかり着ているベルティナのドレス姿が見られるはずだ。

 彼女は美しく、老若男女が憧れの視線を向けるだろう。


「……では、十年前の俺は運が良かったのだな」

「……え?」

「だからこそ、勘違いしてしまったが」


 旦那様がなぜか苦笑いした。

 十年前、いったい何があったのだろうか。


「十年前に優勝した参加者のことを覚えているか?」

「……そうですね。年若く美しい男性でした」


 十年前、たった一度だけ剣の乙女役を務めたときにトーナメントで優勝したのは、王都からきたという十代半ばの男性だった。

 ごく平凡な茶色い髪と瞳……だが、とても見目麗しかったように思う。


 花を渡したときに、目が合った。

 彼は、澄んだ美しい瞳をしていた。

 そして、今私を見つめているのは旦那様だ。

 そういえば、彼は旦那様に似ていたかもしれない。


「……その顔は、少しは思い出してくれたのか」

「思い出す?」


 旦那様は、先ほどから何を言っているのだろう。

 思い出すも何も、私と旦那様は結婚式の日が初対面だったはずだ。


「さて、応援しに行こうか」

「え……ええ」


 ――私は何かを忘れているのだろうか。


 旦那様に手を引かれ、応援席へと向かう。

 私たちの席は、当然ながらロレンシア辺境伯家が座る席だ。

 席には父様と母様、ベルティナがいた。


「お姉様、子どもたちの試合が始まりますわよ?」

「……ベルティナ、その格好はいったい」


 ベルティナは白いドレス姿ではなく騎士服を着ていた。

 彼女は口の端をつり上げ笑みを浮かべた。


「大人の部は午後ですからね……それに、今年は遠距離武器の部に出ようかと思っていますの」

「え? 剣の乙女役はどうするの」

「今年、私の出番はなさそうです」

「どういうこと?」

「念のため用意してはいますが、近距離武器の部と遠距離武器の部の優勝者は決まっておりますから……ああ、でも子どもの部はどちらが勝つのでしょうか」


 ベルティナは、トーナメントが始まる前から誰が優勝するか確信しているようだった。

 優勝者に花を渡すのは試合が終わってからだ。

 剣の乙女のドレスは古代から変わらなくシンプルな造りをしている。

 ドレスが準備されているなら、トーナメントが終わってすぐに着替えれば間に合うだろう。


 父様と母様、そしてベルティナと並んで座る。

 十三歳の日に屋敷の外に出るお許しがあってから、いつもこの並びだった。


「……婿殿の活躍を期待している」

「ええ、自信があります」

「そうか。あのときよりもさらに強くなられたのだろうな」

「もちろんです」


 昨日は決闘まで挑んだけれど、旦那様と父様は穏やかに話している。

 だが、旦那様が優勝すれば二人は剣を交えることになるのだ。


 そんなことを思っているうちに、子どもたちの試合が始まった。

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