初めての家族旅行 2
どこまでも続くかと思われた小麦畑が途切れると、大きな門があった。
王都ほど高くはないが、街は石造りの壁に囲まれている。
この街は、初代ウィンブルー国王と騎士レイブランドが王都の外に作った初めての拠点が元になっていると言われている。
「わあ! いい香りがするよ」
「僕、あれ食べたい」
街に降り立った途端、ルティアとハルトは目を輝かせた。
この街には、食べ物の香りが充満している。王都に入る直前、南から来た旅人が皆、泊まるこの街には、美味しいものがたくさんあるのだ。
「おすすめはあのお店です」
先に宿屋などの手配を終えてきたアンナがそう言って指さしたのは屋台だった。
その屋台には行列ができている。
「詳しいのね」
「王都から辺境伯領まで、街道の美味しいものは全て押さえてあります!」
「まあ……!」
アンナの乗馬は素晴らしいものだった。私と違って王都の外に出る機会も多かったのだろう。
彼女は乗馬中は、眼鏡を外していた。
もしかすると、眼鏡がない方がよく見えるのかもしれない、とふと思う。
――まさか、眼鏡のせいで見えなくて失敗している? その想像は的を射ている気がした。
「「おいしー!!」」
子どもたちは、串に刺したお肉を食べてご機嫌だ。
硬すぎるのではないかと思ったけれど、子どもでも食べられるようだ。
私も一つ、味見してみた。
「あら、辺境伯領の味付けに近いわ」
「南でしか採れないスパイスが使われているな」
旦那様も一緒にお肉を食べている。
王都にはない味付けだ。少し足を伸ばしただけで故郷の味が楽しめるとは……。
いつもたくさん食べるルティアだけでなく、どちらかといえば少食で苦手な物が多いハルトまで完食した。
ベタベタになってしまった二人の口周りと手を拭いて、私たちは宿屋へ向かった。
* * *
宿屋の部屋は最上階だった。
窓を開けると、遠くに王都の壁の一部と高い建物の明かりが見えている。
美しい景色だ……。
子どもたちは、夕食まで完食してお腹いっぱいになったのだろう。
すぐに眠ってしまった。
二人を寝かしつけているうちに少しうたた寝してしまったようだ。
旦那様は部屋にいない。
そのときノックの音がした。
部屋を訪れたのは、アンナだった。
「奥様、この宿には大きなお風呂があるそうですよ」
「まあ、素敵ね」
辺境伯領は温泉や公共浴場が多いが、王都では見かけたことがない。
私は懐かしさでうれしくなってしまった。
「貸し切りにしてもらっております。お二人は私が見ておきますのでぜひ」
「ありがとう。ではお言葉に甘えて行ってくるわね」
私は早速、浴場へと向かうのだった。
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