双子と魔剣 4
「祖父上、戦う術のない者まで巻き込むおつもりですか」
「詳細の確認ができていない今、答えることができぬ質問だ」
旦那様がこんなに声を荒らげるのを初めて聞いた。
もちろん、私の身を案じて怒ってくださっているのだ。
「……陛下から話は聞いただろう」
「ええ、しかし……」
旦那様は、ようやく息が苦しくなるほど強く抱きしめていた腕の力を緩めた。
私は顔を上げて、旦那様に視線を向ける。
旦那様は、笑おうとして失敗したような顔をしていた。
なぜかすでに私が魔剣に触れられたことをご存知のようだが、私の口からもきちんとお伝えするべきだろう。
「旦那様、魔剣に触ることができてしまいました」
「君にはロレンシア辺境伯家の血が流れている。だからだろう……」
――そのとき、扉が開いた。
「さあ、陛下がお待ちかねだ」
「……エミラ、手を」
「はい、旦那様」
旦那様に手を引かれ、王城の最奥にある部屋に入る。
私になど、一生縁がないと思っていた場所だ。
「よく来てくれた、フィアーゼ侯爵夫人――顔を上げてこちらに来なさい」
「かしこまりました」
陛下のお言葉に頭を上げた私は、目を見開いた。
そこには、侍女のアンナと妹のベルティナがいた。
彼女は私とお揃いのアイスブルーの瞳を一瞬だけこちらに向けた。
すでに、二人は陛下の御前にいる。
旦那様と共にその隣に並ぶ。
「さて、今日来てもらったのはほかでもない。フィアーゼ侯爵夫人が、魔剣レイブランドに触れることができたと聞いてな」
「……レイブランド?」
だが、レイブランドは魔剣の名ではなく、フィアーゼ侯爵家の始祖の名だ。
彼が魔剣の最初の持ち主のはず……その名を受け継いだというのだろうか。
それにしても、どうして陛下はこんなにも早く情報を得ることができたのだろうか……。
まるで、私のことを監視していたかのようではないか。
だが、その答えは陛下の前に傅くアンナにあるのだろう。
だって、私が魔剣に触れられることを一番に知ったのはアンナなのだ。
今は眼鏡をしていないアンナは、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。
恐らく彼女にも事情があるのだ。
そして、ベルティナも呼ばれているということは、実家も今回の出来事に関連があるということなのだろう。
「さて……何から話したものか」
陛下が玉座の肘掛けに肘をついて、こちらを眺めている。
「まず、サミュエルから話せ」
「は……では、まずは我が家の当主のみに伝わる魔剣についての話をいたしましょう」
* * *
今から千年前、フィアーゼ侯爵家の始祖レイブランドは、この国ウィンブルーの初代国王の右腕として日々過酷な戦いに身を投じていた。
まだ、国と言えるほどの規模ではなく、国土は壁に囲まれて魔獣の脅威から守られる王都だけであった。
レイブランドは生まれながらに魔力が高く、通常の人間よりもはるかに強かった。
そんなある日、南の砂漠に接するロレンシア小国から、一人の姫がウィンブルー国を訪れた。
人と人が手を取り合い、魔獣と戦うためにこの国に輿入れするためだった。
しかし国王にはすでに妃がいた。このため、姫は国王の右腕の妻となった。
彼女が持参した剣こそ、魔剣レイブランドであった。
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