双子と魔剣 3
「「お母さま〜!!」」
子どもたちが走ってくる音がする。
水分補給は終わったようだ。
ルティアとハルトは、綿レースで飾られた白い部屋着のまま飛び込んできた。
そして、ルビーのような瞳をキラキラと輝かせる。
「「ひいおじいさま!!」」
「おうおう……相変わらず元気そうだな」
騎士服に身を包み、先ほどまでは厳つい印象だったお祖父様が破顔する。
お祖父様は、飛びついた二人を軽々と抱き上げた。
老騎士という印象だった彼は好好爺へと変貌する。
お祖父様は、子どもたちを抱き上げたまま応接間に移動してソファーに腰掛けた。
「最近調子はどうだ? 魔剣とは上手くやっているか」
「魔剣さんはたくさん遊んでくれるのよ!」
「それにとっても物知りなんだ!」
ルティアだけでなく、ハルトも元気いっぱいだ。
庭師のサムさんだった頃から、二人はお祖父様のことが大好きなのだ。
「そうか……何よりだ」
お祖父様は笑みを浮かべた。
しかし、その表情はどこか浮かない。
「さて、セイブル」
「心得ております」
部屋の隅に控えていた執事長が、お祖父様と視線を合わせて頷いた。
その様子を見る限り、二人の付き合いは長く信頼関係が構築されているようだ。
「さあ、お嬢様、坊ちゃん。大事なお話をされるようです。私と共に参りましょう」
「「ひいおじいさまと遊びたかったのに〜」」
「不肖セイブルが、お二人のボードゲームのお相手をするというのはいかがでしょう?」
「「……!!」」
二人は再び瞳を輝かせる。
執事長はとても忙しいので、二人と遊ぶことは少ない。
だが、ルティアとハルトは執事長のことも大好きなのだ。
「「早く早く!」」
「では、盤を用意せねば」
「二つ用意しなくちゃ……行くよハル!」
「待ってよ、ルティー!」
二人は賑やかに走り去っていった。
執事長も静かに二人の後についていく。
部屋には静寂が訪れた。
「さて……訪れたのは他でもない」
「……」
他でもない、と言われても騎士服を着たお祖父様が訪れる理由が思い当たらない。
「はっ、まさか旦那様に何か!?」
「――いや、本題は君についてだよ。エミラ」
「え……」
「魔剣に、触れることができたそうだね」
確かに触れることができたが、泥を落とそうとしただけなのに……。
けれど、魔剣にはお義父様すら触れることができなかったことを思い出す。
よほどのことだったようだ……。
「今から城へ行く。着替えて来てくれ」
「アンナが……具合が悪くて」
そのとき部屋にアンナが入ってきた。
「問題ございません……奥様」
「アンナ……体調は大丈夫なの? それに眼鏡を外したの?」
「……後ほど、奥様にお詫びすることがございますが……今は急ぎ準備いたしましょう」
彼女は眼鏡を外していた。
初めて見たその瞳は、夜空のような青色をしていた。
アンナに手伝ってもらい、着替える。
今やクローゼットルームは、私と子どもたちの服で溢れている。
用意されたのはその中でも格式の高い、薔薇と百合の刺繍のドレスだ。
フィアーゼ侯爵家の紋章の意匠は剣と薔薇と百合。
つまり、フィアーゼ侯爵家として正式に王城に招かれたことを示すドレスなのだ。
「陛下にお会いするの……」
「ええ、左様でございます」
「それほどのことなの」
「……旦那様も王城でお待ちです」
準備を終えて、すでに用意されていた馬車に乗り込む。
子どもたちが、執事長とアンナそれぞれに抱き上げられて手を振っている。
無邪気な笑顔を見れば、少し気持ちが落ち着いた。
* * *
――そして王城。
お祖父様は私をエスコートしてくださったが、その歩みは焦っているかのように少々早い。
息を切らせながらついていく。
近衛騎士が守る扉をいくつも越える。煌びやかだった装飾が、徐々に荘厳なものへと変わっていく。
重厚な扉の前には、旦那様が立っていた。
「エミラ!」
「旦那様……」
厳しい表情を浮かべていた旦那様は、私の姿を見るや全速力で駆け寄ってきた。
そして私のことを強く抱きしめてくるのだった。
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