双子と魔剣 2
旦那様が出掛けたあと、午前中は平穏そのものだった。
子どもたちは魔剣とボードゲームに興じたり、魔剣を棒に見立ててボール遊びをしている。
ハルトが投げたボールを、ルティアが鞘に入れたままの魔剣で強く打った。
ボールは屋敷の窓を割った。
「「お母さま、ごめんなさい!!」」
二人揃って頭を下げてくる。
気まずそうに魔剣もチカチカ光っているので、謝っているのかもしれない。
「「魔剣さんもごめんなさいしてる」」
「やっぱりね」
だが、魔剣は悪くない。
少し目を離した隙に、子どもたちがボール遊びを始めてしまった。
止められなかった私も悪い。
すでに屋敷内では侍女のアンナと執事長のセイブルが掃除を始めている。
「魔剣でボールを叩いたらだめよ」
「「うん」」
ガラスを割ってしまったことがショックだったのだろう。二人の態度は殊勝なものだ。
「……泥だらけね。一旦中に入りましょう?」
「「はーい」」
二人はとてもやんちゃなのである。怪我がなくてよかった。
* * *
「さて、魔剣も泥だらけね」
ルティアとハルトはお風呂に入って、ゆるやかな部屋着に着替え、子ども部屋で水分補給している。置き去りになった魔剣は泥だらけのまま放置されている。
豪華な装飾、しかも魔剣と言っても金属なのだから水に濡らさないほうがよいのだろう。
それは半ば無意識だった。
私は泥を拭おうと、魔剣に触れた。
そして、気がつけば魔剣を掴んでいた。
――ガチャンッ、と音がして驚きのあまり魔剣を取り落としてしまう。
「ごめんなさい! 痛かったかしら!?」
慌てて魔剣を持ち上げて、ぶつかったところを撫でる。
魔剣の宝石がチカチカ光る。
問題ないと言っているようだ。
それから改めて、何かが割れたような音がしたほうを向くと、ティーセットが粉々になっていた。
アンナが失敗してしまうのは、よくあることだ。だが、今日の彼女は様子がおかしい。
顔色なんて蒼白だ。
具合でも悪いのか。
「アンナ、大丈夫?」
「……奥様はその剣に触れられるのですか?」
「え?」
そういえば、旦那様は以前、魔剣に触れられるのは自分だけだと言っていた。
その後、双子が触ることができたが……。
「触れるようね」
「そういえば、奥様はロレンシア辺境伯家のご出身でしたね……」
アンナは傍目に見てもわかるほど震えていた。
「大丈夫なの? 少し休んだほうが――いいえ、お医者様を」
「いいえ、そこまでは。少し休ませていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんよ。壊れたものは片付けておくから早く休みなさい」
「申し訳ございません」
アンナが去って行くと、入れ違いに執事長が部屋に来た。
「どうなさったのですか? おや、すぐ片付けます」
「お願いね」
執事長が慣れた手つきで割れたティーセットを片付けていく。
「ところで、アンナはどうしたのです?」
「具合が悪いみたいなの。あとで見に行ってもらえるかしら?」
「もちろんです。ただ、それにしては些か」
執事長が眉根を寄せた。
些かどうしたというのか。
「ひとまず失礼いたします」
「ええ、ありがとう」
落ち着いて、再び魔剣に視線を送る。
魔剣はやはり泥まみれだ。
私は泥を布巾で拭き取って、壁際に立てかける。
魔剣はその間、キラリと光ることもなかった。私には魔剣まで驚いて蒼白になっているように思えた。
* * *
――そして、昼過ぎ。
慌てた様子で客人が訪れるのだった。
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