双子と魔剣 1
「旦那様、お気をつけて」
「ああ、留守中頼む」
騎士服に身を包んだ旦那様は、見惚れてしまうほど凜々しく爽やかだ。
「お父さま、いってらっしゃーい!」
「お父さま、いってらっしゃい」
「ルティア、ハルト……いい子にしているんだぞ?」
「「はーい!!」」
翌朝から、旦那様は通常業務に戻ることになった。
常時、国境に配置される辺境騎士団と違い、本来は王都の安全を守る役目を担う第一騎士団。
旦那様のお仕事は、魔獣討伐だけでなく王都のパトロールを管理したり、野盗討伐の計画を立てたりと幅広いのだという。
本来であれば、私は長男の嫁としてフィアーゼ侯爵領に関する管理を手伝う必要があるはずだが、それについては旦那様のお父様とお義母様が中心になっているため、今は出る幕がない。
――つまり、現状私が任せられた仕事は、双子をしっかり育てることなのである。
そんなことを思いながら、何事か内緒話しているルティアとハルトに視線を送る。
二人の手には魔剣が握られている。
――本当に良かったのかしら、と愛剣を手放してしまった旦那様のことが心配になる。
旦那様は、魔剣を置いて代わりに屋敷内の宝物庫にある剣を持って登城した。
今回は双子がわがままを言ったからではない。
わがままを言ったのは、どちらかといえば魔剣なのである。
* * *
――事の起こりは今朝のこと。
私はバチンッ! という大きな火花が散るような音で目を覚ました。
起き上がってみると、旦那様がベッド脇で手を押さえていた。
「――どうあっても、抵抗するつもりか」
魔剣の赤い宝石がギラギラと輝いている。
炎のようなオーラまで纏っているように見える……怒っているのだろうか。
「は? 何を言っている……屋敷内でそんな危険があるはずないだろう」
「……旦那様?」
まだ薄暗い室内で、こちらに視線を向けた旦那様の瞳は魔剣のように輝いていた。
美しく引き込まれそうなその瞳に釘付けになる。
「すまない、起こしてしまったか」
「いいえ……おはようございます」
旦那様は魔剣から離れてこちらに歩み寄ってきた。
眉間の皺が消えて、口元が緩められる。
「おはよう、エミラ」
甘さを感じる微笑みだ。
毎晩、子どもたちを挟んで眠っている私たちの距離に進展はない。
けれど、旦那さまの態度は日に日に甘くなっているようだ。
* * *
――そういった経緯があって、旦那様は魔剣を置いて仕事に行ったという訳だ。
「何かを隠そうとしているようだった……」
夫婦ではあっても、まだ付き合いの浅い旦那様のことを私はよく知らない。
けれど、旦那様は自分よりも家族を優先しそうではある。
子どもたちに挟まれて、なんとなくうれしそうな魔剣を睨め付ける。
魔剣が言い出したことなのだ。詳細を説明してもらいたい。
「……かないあんぜんは任せておけ?」
「いざとなったら、おくのてがある?」
ハルトとルティアが、ポツリとそんなことを口にする。
魔剣が言ったであろうその言葉は、平和な我が家に見合わず不穏な空気を感じさせるものなのだった。
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