英雄とその妻と双子 7
旦那様のリードは完璧だ。
初めのうちはほんの少しタイミングが合わなかったけれど、すぐにずっと一緒に踊っていたのかというほど息ピッタリになった。
こんなに大きな宴で踊るのは初めてだから、少し緊張していたのに……楽しい。
曲がゆっくりとしたものに変化した。
旦那様に引き寄せられて、密着するほど距離が近くなる。
心臓の音が旦那様に聞こえてしまいそうだ。
でも、私は気がついてしまった。
旦那様の心臓の音は、もしかすると私よりも高鳴っているかもしれない。
「旦那様」
顔を上げると旦那様は私のことをじっと見ていた。
「エミラ……君と踊れる日が来てうれしいよ」
「私も……。私もです」
旦那様を見送った日、もう会えないのかもしれないと思った。
双子を授かったときは、そばにいてほしいと思った。
子育てのめまぐるしい日々、可愛いこの子たちの成長を見せて差し上げたいとも……。
三年過ぎて、旦那様の行方がわからなくなったと連絡が来たことがある。
双子の顔を見るたびに、優しい笑顔が思い出されて泣きに泣いた。
幸い三日ほどで無事であったと連絡はあったが……。
結婚式が初対面で、初夜のあと五年も会えなかった人。それでも彼のことを家族だと思うのは双子がいたからなのだろう。
――帰ってきてたった三日なのに、もはやかけがえのない人になりつつある。
「戦場で、何度も君のことを考えた」
「……五年もの間、忘れずにいてくださったのですか?」
旦那様のそばには、面影を思い出せるようなものはなかったはずだ。
「――君と会うまでは、正直言ってたった一度逢瀬を重ねた人を長い間覚えていられるはずがない……そう思っていたが」
その言葉の先を聞きたいと願った瞬間、音楽が止む。
「……君の笑顔を忘れられた日などない」
旦那様は、それっきり口をつぐんでしまった。
同時に気になってしまうのは、魔剣の宝石だ。ギンギラギンと輝いている。
誰一人気がつかない。
旦那様だけが眉根を寄せたけれど、魔剣に視線を向けていないところを見ると、何か言われたのだろう。
強く引き寄せられて、耳元に旦那様の唇が近づいた。
「続きは家に帰ってから言わせてくれ」
「旦那様……」
サイドでまとめられた私の淡い茶色の髪をひと房持ち上げて、旦那様が口づけを落とす。
「ねえ、お父さまとお母さま仲良し?」
「仲良しだよ! だって私たちのお父様とお母様だよ?」
「「えへへへへ」」
ダンスを終えてこちらへ再び走ってきた二人の内緒話は、子どもらしく隙だらけで丸聞こえだ。
子どもたちの声に我に返る。
「……さて、子連れの参加者は帰り始めた。俺たちもお暇しよう」
「え……ええ。そうですね」
宴は昼から始まったが、もう日が暮れてしまっている。
妹の姿を探したが、すでに会場にはいないようだ。忙しいベルティナのことだ。陛下への挨拶を終えて早々に退席したのかもしれない。
子どもたちも疲れたことだろう。
私たちは会場を去った。
帰りの馬車の中、ルティアとハルトは私の膝に左右から頭をのせて眠ってしまった。
旦那様の視線がこちらに向いている。
その気配を感じながら、私は先ほど一緒に踊ったときよりも心臓が高鳴ってしかたがないのだった。
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