英雄とその妻と双子 2
旦那様が帰ってきてから、あっという間に三日が経った。
今日はいよいよ、王城で執り行われる戦勝の宴だ。
魔獣との戦いの功労者たちは、家族も含め招待されているため宴ではあるが昼に執り行われる。
この国には、近衛騎士団、第一、第二、第三騎士団そして辺境騎士団の五つの騎士団がある。
辺境伯家の長女である私は、辺境騎士団長だけは、顔見知りだ。
魔力を全く持たない私は、魔獣との戦いには参加できず、補給や傷病者の世話をしていた。
現在の辺境騎士団長シノア・イースト卿は、私がフィアーゼ侯爵家に嫁入りする前は辺境騎士団の隊長を務めていた。
とても公平で快活なお方だった。魔力を持たないからといって蔑むこともなかった。
「お元気にされているかしらね……」
旦那様が任命されたのは第一騎士団。
第一騎士団長は、代々フィアーゼ侯爵が騎士団長を務めてきたという。
お義父様は文官の道を選んだため、先代の騎士団長は他家から選出された。
先々代の第一騎士団長である旦那様のお祖父様は王都から離れて領地に引退しているが、勇敢で強く誰からも尊敬されていたらしい。
――双子を産んでからも、お会いしたことはない。
お祖父様も魔力なしの私を嫁とは認めていないのだろう。
胸がチクリと痛んだ。
旦那様のお母様は亡くなり、お父様や、義理のお母様、弟妹たちとは疎遠だという。
実際、結婚式と双子が生まれたときに義母が来たが最低限の会話しか交わしていない。
その後も、双子の誕生日の祝いの品などは送られてきたものの、直接的な関わりはなかった。
だが、双子から聞いた魔剣情報によると旦那様とお祖父様の関係は良好であったようだ。
「……」
「浮かない顔ですね。緊張されているのですか?」
「アンナ」
化粧をして目を瞑っていると、つい物思いに耽ってしまう。
声をかけられて目を開けると、そこには久しぶりに本格的な化粧をした自分がいる。
双子の子育ては、思ったよりずっと大変だった。
旦那様と結婚したのは十八歳のとき。あれから五年、私も二十三歳になった。
辺境伯家では家格に見合った教育を受けてはいるが、社交界にはほとんど参加したことがない。
――旦那様や子どもたちに迷惑をかけてしまうのではないか……それも不安ではある。
「奥様は、とてもお美しくて優しくて、私の自慢の主人です」
「ありがとう……」
子どもたちはすでに着替え終わってエントランスホールで待っている。
ずいぶん時間がかかってしまったから、旦那様も準備を終えていることだろう。
エントランスホールに向かうと、三人はボードゲームに興じていた。
ハルトも旦那様に積極的に話しかけている。
たった三日間で、ずいぶん仲良くなったものだ。
私が近づくと、三人は手を止めて立ち上がった。
「お母さま、とっても素敵!」
「ルティアこそ、とても可愛いわ」
「えへへ……」
一番初めに駆け寄ってきたのは、ルティアだった。
白銀の髪の毛をハーフアップにして、大きなリボンを結びドレスアップした愛娘はとても可愛い。
「お母さま……綺麗」
「ハルトもとてもかっこいいわよ」
「う、うん……」
次に駆け寄ってきたのは、ハルトだった。
母親が見慣れぬ格好をしているせいか、いつもより遠慮がちな気がする。
ルティアとお揃いの格好をしたハルトは、やはりとても可愛い。
平凡な私にあまり似ていない二人は、将来美女と美男子になることだろう。
「エミラ、とても美しいよ」
ゆったりとこちらに近づいてきた旦那様が、そう言って微笑んだ。
「……」
だが、旦那様こそ平凡な私が隣に立つのが申し訳なくなるような美男だ。
「おや、俺のことは褒めてくれないのか?」
旦那様が冗談混じりにそう言った。
私が何も言えずに固まったものだから、緊張していると思われたのだろう。
「王国で一番……いいえ、多分大陸で一番かっこいいです」
「それは……褒めすぎというものだろう」
そう言いながらも、少しだけ目元を染めて満更でもなさそうな旦那様は、今日もやっぱり可愛らしい。
優雅に差し出されたエスコートの手を取り歩き出す。
正面玄関には、すでに馬車が停まっていた。
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