英雄とその妻と双子 1
「こんなにたくさんどうしたの?」
「使えるものは全て使いました!」
アンナは褒めてくださいと言わんばかりだ。
どれもこれも手が込んでいる。
さらに数が多い。
ドレスとは通常、数ヶ月かけて作るものではないのか。
「……具体的には」
「王家御用達の服飾店や工房を全て押さえました」
「えっ」
「それくらいは、してくださっても良いと思うのです」
してくださるのは一体どなたなのか。
その部分については深入りしないほうがよい気がする。
アンナは明るく優しいが、たまにいなくなるし、不器用だけれど力持ちで侯爵家の侍女なのに出身地すら不明――未だ謎が多い。
「「すっごーい!!」」
あとから来た双子は、可愛らしいドレスやスーツに目を輝かせた。
「これなんてルティーにピッタリだよ」
「それを言うならハルにはこれが良いと思う」
二人は仲良くお互いをコーディネートし始めた。
はしゃぐ姿は可愛らしいが、私だって二人の服が選びたい。
「私はこの服が良いと思うわ」
「「わー、クマさんとウサギさん!!」」
ブローチの宝石はクマさんとウサギさんの形にカットされて遊び心がある。
濃いグレーのドレスとスーツは大人びているが、深紅のベルベットのリボン、繊細なレースにブローチを合わせると、とても可愛らしい。
三つ揃いのスーツのベストの柄は細いストライプ、ドレスの腰部分に飾られた大きなリボンも同じ柄だ。
二人の白銀の髪に赤い目とよく似合うことだろう。
「まって……旦那様用もお揃いがあるわ!」
「ええ、もちろんです!」
旦那様の髪と瞳は子どもたちと同じ色合いだ。
つまり子どもたちとお揃いにしたなら……。
旦那様に視線を向ける。
可愛い部分ばかり見つけてしまっていたけれど、旦那様は天が与えたかのような美貌を持つ。
――もちろん騎士服姿の旦那様は素敵だが、それは結婚式で十分堪能した。
私は可愛い双子と旦那様の父子コーデが見たいのだ。
「旦那様はこちらを着てくださいますか?」
「騎士服ではだめなのか?」
「ルティアとハルトとのお揃いが見たいです」
「わかった――俺は代わりに君の服を選ぶとしよう」
「え? 私はなんでも……」
旦那様は、目を細めた。
想像を絶するほどの美しさだ。
しかし有無を言わせぬ雰囲気でもある。
「少し預かっていてくれるか?」
「「うん!!」」
旦那様は、双子に剣を預けた。
旦那様が選んだドレスは私のアイスブルーの瞳に合わせた水色。
細いストライプのリボンが所々にあしらわれている。リボンの布は旦那様や子どもたちと色違いだ。
「靴はこれにしよう」
パールの入った白系の靴は、旦那様の髪色に良く似ている。
旦那様にそのつもりはないだろうに、私ばっかり意識してしまって恥ずかしい。
「「ねー、どくせんよくってなあに?」」
ルティアとハルトが同時にそう口にした。
意味がわかっていないようだが、確かに『独占欲』と言った。
――もちろん魔剣の言葉だろう。
真剣にアクセサリーや小物を選んでいる旦那様は、双子の声に気がつかなかったようだ。
そして私は見てしまう。次に旦那様が手にしたのは、少し銀色がかったパールのネックレスだった。
私は旦那様が、白銀や赤のアクセサリーや小物を手にする度にソワソワ落ち着かないのだった。
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