表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有のマイペースダンジョン配信~  作者: 北乃ゆうひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/14

006.ダウナーさんと呼んでもいい?


 残念ながら彼女は熊の解体の仕方はしらなかったようなので、セイジは仕方なく、ヴァイオレットネイルの死体をSAI(サイ)に収納した。


 アイアンウールの解体の仕方や肉の切り分けは予習してきたセイジだが、ヴァイオレットネイルはしていないので分からないのだ。

 いくらモンスターの解体や料理はダンジョンの中であれば多少のファジーさが許容されるという部分があれど、まったく分からないのではどうにもならない。


 なので有料になってしまうが、探索者ギルドの解体屋に頼むしかないだろう。


「SAIがアタリだったのは我ながら運が良かったといつも思う」


 安堵しながら独りごちる。

 声に出したのは、張り詰めたままの空気を弛緩させる為でもある。


 そうでなくとも自分のあまり感情のない顔や淡々とした喋り方は、他人から怖がられやすい。

 面倒だが、そういう意味でも怒っていないアピールをした方が良いとセイジは考えた。


 ちなみにSAIは、探索者資格を得た際に、探索者ギルドからご祝儀で貰えるダンジョン産の宝石だ。

 だが、困ったことに内容量は千差万別。見た目の大きさが、収納容量とは一致しないのである。


 なので、貰ったものがどれだけの容量をもっているかどうかというのは、本当に運だったりするのだ。


 アイアンウールとヴァイオレットネイルを収納してなお余裕があるのは、かなりアタリの部類である。


 無事に収納し終えたセイジは、女性の方へと向き直った。


 彼女はまだ強ばった顔をしていた。

 独り言による緊張感緩和作戦は無駄に終わったようだ。


 ちょっと残念に思いながらも、そんな感情はおくびにも出さずセイジは訊ねる。


「本当に、あの熊を丸々貰っても良かったのか?」

「はい。そもそもわたしは連れてきてしまっただけで、倒したのはお兄さんですので」

「そうか」


 ダンジョン食材に興味が湧き始めているところだ。

 このヴァイオレットネイルも、解体したあとで肉として食べてみるのもいいだろう。


 そんなことを考えながら女性を見て、もっと訊ねるべきことがあったのだと気がついた。


「……そうだ。ケガは大丈夫か? 手持ちが無いなら、オレの迷宮産傷薬(ポーション)を出せるが」


 なんだかとって付けたような問いだな――と、セイジは内心で自嘲(じちょう)する。

 ただ、女性の方はあまり気にはしていないようだ。


「お気遣いありがとうございます。ケガの方は大したコトないです」

「そうか」


 女性の返事に素っ気なくうなずいてから――まだ空気が強ばっているように感じて、セイジは内心で眉を(ひそ)めながら自分の首を撫でた。


(困ったな……このあと、どうすればいいんだ?

 対応の仕方が分からなくてダルい……)


 普段あまり探索者としてダンジョンに潜ってないので、こういうレスキューに成功したあとにするべきことが思いつかない。


(まぁでも念には念を入れるべきか。切り上げて、彼女を地上まで送って行こう)


 そうと決まれば片付けだ。

 セイジはジンギスカンをやっていた焚き火スタンドへと向き直り――


「あ」


 ――まだ食べきっておらず、良い香りを放っているそれを見て、本気で困ったように首を撫でた。


「あー……」


 だが、焼き上がっている肉を捨てるのは料理人としてなんだかダメだ。

 料理人としてのプライドやこだわりは無くとも、セイジなりのルールがある。食べ物を粗末にしない……というのは、そんなルールの一つだ。


(今度からタッパーとか持って来た方がいいな。ともあれ、今回はどうするべきか……)


 彼女を地上に連れていきたい。

 その為には、ここを片付けたい。

 だけど、まだ料理は残っている。


「キミ、お腹減ってない?」


 そんな状況からセイジが、なんとか導き出した答えはその質問だった。

 セイジが指で示した焚き火スタンドを見て、女性が首を傾げる。


「えーっと、なんですかそれ?」

「ジンギスカン」

「それはまぁ、見れば分かるんですけど……いやそうじゃなくて……えーっと」


 どうやら彼女を大いに戸惑わせてしまったようである。


(いやまぁ、オレが向こうの立場だったら間違いなく戸惑う自信はあるな……)


 我ながら何をやっているのだろうか――とも思う。

 そんな中、戸惑ったような彼女のお腹から、「くぅ」と可愛い音が聞こえてきた。


「あ」


 本人も想定外だったらしく、お腹を押さえながら真っ赤になっている。

 それを利用するようで申し訳ないのだが、セイジは畳みかけることにした。


「キミを上に送ってやりたいんだが、ここを片付ける必要がある。

 だが、出来上がった料理を捨てるのはマイルールに反してもいる。これも何かの縁だと思って、食べていってくれると助かる」

「それじゃあ、その……ご相伴(しょうばん)に、預かります……」

「そうしてくれ」 


 紙皿や割り箸などの予備はまだある。

 セイジは焚き火スタンドの側までいき、彼女を招きをして、それらを手渡した。


「好きに食べてくれ」

「ありがとうございます。でも、なんでジンギスカンなんですか?」

「アイアンウールを食べてみたかったんだ」


 モンスターの名前を口にすると、彼女は少し驚いたような顔を見せる。


「あ。じゃあ、これダン材料理」

「もしかして苦手だったか?」

「いいえ。むしろ興味があったというか……別箱の人なのであまり話題には出せないんですけど、配信とか良く見てるので」

「別箱?」


 聞き慣れない言葉を聞いて、セイジは首を傾げる。

 彼女はその言葉の意味を説明しようとする素振りを見せるが、そこから別の何かに気づいたのか、慌てた様子で名乗りだした。


「あ、申し遅れました。わたし、窟魔(クツマ) ムルといいまして、ダンジョン配信をやっております……て! しまった! ごめんなさい! 配信切ってませんでした~……!」


 わたわたとし始める彼女――窟魔ムルを見ながら、慌ただしい子だなぁ……などと思いつつ、セイジは周囲を確認をする。


 同時に、別箱とはつまり事務所違いというような意味なのだろうと、推察した。

 だが、そこには触れず、周囲を見回して気になっていたことを訊ねる。


「配信してるのか? ドローンとかカメラっぽいもの無いけど」

「スキル連動式カメラっていうのがありまして、視覚強化系のスキルと連動させているんです。なのでわたしの目がそのままカメラになっている――とういうか、すみませんお兄さんの顔を配信に流してしまって……今切るので……」


 そう言いながら腕時計のような端末を操作するムルに、セイジは待ったをかけた。

 配信のことは詳しくないが、急に配信を終了させるのもムルの視聴者に悪い気がしたのだ。


「キミが配信を続けたいなら構わない。

 バイト先には何度かテレビの取材が来てるし、その時にすでに顔出ししてる。今更、配信に乗った程度では慌てない」

「そ、そうなんですね……」

「ただ、芸名みたいなモノは持ってないから名乗りは控えたい。なのでまぁ……好きな呼び方で呼んでくれ」


 セイジの言葉にムルはうなずくと、なんて呼ぼうかな――と独りごちながら、腕時計のような端末を操作する。


 そして小さなホロウィンドウを表示させると、そこに流れる言葉の群れを軽く見てから、ムルは慌てた様子で表示を消し、改めてセイジへと笑顔を向けた。


「それじゃあダウナーさんと呼ばせてもらってもいいですか?」

「……キミがそれでいいなら構わない。斬新な呼び名ではあるが」


 ダウナー野郎と悪口方面で使われたことはあれど、親しみを込めてダウナーと呼ばれるのは初めてだ。


 なんとも言えない新鮮な感覚に戸惑いながら、セイジは小さく笑い、ムルへと焼き上がっている肉を手渡すのだった。



準備が出来次第、もう1話公開します٩( 'ω' )و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ