028.春の終わり。夏の始まり。
あけましておめでとうございます٩( 'ω' )و
毎日更新とはいきませんが、マイペースに再開したいと思います。
コンゴトモヨロシク
春の終わり。夏の始まり。
セイジにとってこの時期は、探索者ライセンス更新のタイミングである。
「あー……この通りにあるギルドの出張所。いつ来てもわかりづらいな。どこだったか」
日差しが強まり緑が濃くなった木々の並ぶ通りを、セイジは歩きながらキョロキョロと周囲を見て回る。
セイジの家から歩いてすぐの所にある大きな霊園。
その霊園の正門から北に伸びる通り――霊園北通りというそのままの名前の道に、探索者協会の出張所がある。
最寄りではあるのだが、設備が他と比べるとだいぶ劣るのもあって、事務処理以外ではあまり利用しない場所だ。
それもあって、セイジは半年ないし一年に一度程度しか利用していない。おかげでイマイチ場所が覚えきれていなかった。外からだとギルドであると分かりづらいというのもあるだろうが。
墓石などを売っている石屋や、仏花を取り扱う花屋、そして葬儀屋。
そういったお店の多い霊園北通りの中程あたりで足を止めて周囲を見回す。
「ああ――あった。あれだ」
申し訳程度に主張する探索者協会の看板を見つけて、息を吐く。
元石屋だった古い建物。
石を切ったり保管したりする為の広場や建物も共にある広い敷地。
恐らくは昭和の頃に立てられたものを建て増しや応急処置を繰り返して使い続けていただろう、その建物と敷地や施設を――探索者協会が、ほぼほぼ居抜きで使っているのだ。
一応、入り口の脇に『日本探索者協会 霊園前出張所』という木製の縦書き看板が立てかけられているのだが、それがなければギルドだと思えない。
そもそも、遠目からだとこれがギルドの看板だというのもわかりづらいが。
(居抜きで使うのは構わないが、主張はしてくれないと、石屋だと勘違いするよな、これ)
ともあれ、場所が分かれば問題はない。
セイジは――自動ドアではない上に、立て付けが悪くなっているのか引っかかりを感じて開けづらい――引き戸を開けて中に入る。
「いらっしゃいませー」
声を掛けてきたのは、この古い建物に対して真逆の若い女性職員だ。
「ノルマ依頼の確認をしたい」
「かしこまりました。そちらへどうぞ」
他の協会は、役所や病院のロビーと大差の無い作りになっているのに、ここはカウンターなどなくそのまま事務机が置かれている。
事務机を含めて古くさいのに、その上に乗っているパソコンを含む様々な機材は最新のモノなので、なんともアンバランスだ。
(まぁ、内装がどうあれがちゃんと仕事してくれるなら、それでいいんだが……)
それだけはちゃんとして貰えるのを知っているので、セイジは素直に示された机に向かう。
「ライセンスの確認をさせてください」
「ああ」
セイジは自分のライセンスカードをスタッフの女性に手渡す。
そのカードをパソコンと繋がる機械に通し、何かを確認するとカードを抜いて返してきた。
「はい。ありがとうございます。
節村様へのノルマ依頼で、対応可能なモノとなりますと……あ、これとかどうでしょう? すでに素材をお持ちでしょうから、それを提出させて頂くだけでOKです」
そう言って、パソコンの画面をこちらに示す。
「……確かに最近倒したし、角も素材として持っているが……どうして貴女が知っているんだ?」
「えっと、あの……すみません。私、ダウナー・ジャジー・クッキング、見てまして……」
「そういうコトか」
何やら焦ったようにパタパタ手を振り出した女性に、セイジは小さく息を吐く。
「ならここで角を出せばノルマ達成でいいか?」
「えーっと、すみません。当出張所では、担当がいないと買い取りができなくて……。その担当も本日は不在なので……」
本当に申し訳なさそうに口にする彼女に、セイジとて詰め寄るようなことをする気はない。
「いやそれは承知している。気にしなくていい。かわりに近隣で対応してくれそうな場所があれば教えて欲しい」
「それでしたら――」
安堵したようにパソコンを操作して、女性は何かをプリントアウトする。
少し離れた席にあるプリンターのところから、それを回収してくると、セイジに差し出した。
「この近隣で確実に対応してくれる協会支部をリストアップしました。
二重丸がついているところは、ダンジョン配信者などの出入りも多い支部で、配信文化にも理解がある為、自力採取を疑われても、配信映像を見せれば通るかと思います」
「それはダルくなくていいな」
手渡されたプリントにざっと目を通し、セイジは小さくうなずく。
「ここにあるどれかに行ってみようと思う」
「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
丁寧に頭を下げてくる女性に、セイジも小さな会釈で返答をすると、踵を返した。
入り口の引き戸に苦戦しながら出張所を出て行くセイジの背中を見送ってから、女性は両手で顔を覆って机に肘を突く。
「ああああああああ……○ニキとお話しちゃった……!
いや時々ココに来てるしその頃から密かにファンだったとはいえ明確に配信者として意識し始めたらなんかやばいいいいいぃぃぃぃ……」
声も、メカクレも、喉仏も、指先も。
自分のフェチも、自分以外のフェチも――今のやりとりの間だけは、全てを独り占めできていたのである。
その事実に、身悶えせずにはいられない。
「あとで他のフェチネキ仲間に自慢しなくっちゃ!」
冷静にちゃんと仕事ができた自分を褒めてもいいくらいである。
「はああああぁぁぁぁ……でも、なんか色々滾った。これで今週も――いや、今年はずっとがんばれる……ッ!」
ちなみに、現在は初夏も初夏。まだかろうじて春の気配も残る始まったばかりの初夏である。
出張所から出たセイジは、そのまま最寄りの駅へと向かい、教えてもらった支部のある駅前へと向かう。
あまりこない支部だが、それなりに大きい駅のそれなりに大きい支部だ。
中は綺麗な役所のような雰囲気がある。
(大なり小なりどこもこんな感じだと思うんだが、出張所は違うのか……?)
それをセイジが考えたところで仕方がないのだが、自宅近所のあの出張所は時々利用するからこそ、妙に気になってしまう。
さておき。
通常依頼とノルマ依頼のカウンターが別れているようだ。
セイジはノルマ依頼用のカウンターで、受けたい依頼とすでに手元にあることを報告すると、すんなりと通って、依頼達成だ。
通常よりも少なめの報酬を受け取り、ノルマ達成証を貰う。
これを持って指定された免許更新手続きに対応してくれる協会支部へと行けば免許更新完了である。
もっとも今から行くのはダルいので、今日の予定ではここまでだ。
エントランスまで戻って、近隣にあるダンジョンが書かれた地図を見る。
時間はまだあるし、普段あまりこない駅なので、駅前の繁華街を軽く散歩をするか近隣のダンジョンでも下見するか――
そう考えていると、先ほどノルマ依頼に関して対応してくれたギルドスタッフが駆け寄ってきた。
「あ、あの」
「ん?」
「節村様で良かったですよね」
「ああ」
うなずくと、スタッフは安堵したように息を吐いてから、プリントを一枚手渡してきた。
「あの――断ってくださっても問題ないのですが、可能でしたら当協会支部からの指名依頼を引き受けては頂けないでしょうか?」
「指名依頼?」
差し出されたプリントを手に取り、目を通す。
この支部から少し行ったところにある森林樹塔と呼ばれるダンジョン。そこの二階に、本来はもう少し上層に生息しているはずのモンスターが居座っているそうだ。
「暴れ鬼牛……か。低層に居座られると怖いのは分かるが……こいつくらいなら、オレじゃなくても勝てる探索者はいるだろう?」
「はい。ですが二階に居座っている個体は恐らく特異個体――イレギュラーである可能性が高いのです。一般的な個体よりも大型で、基本濃い茶色の体毛も、赤みがかっているという報告があります」
「なるほどな……」
正直言ってしまえばダルい。
セイジとしては別に強敵と戦いたいワケでも、美味しい報酬が欲しいワケでもないのだ。
「こちらの都合を言ってしまうと、早めに対処したいのです。
このダンジョン――森林樹塔、三階までは初心者実習に持ってこいというのもあり、駆け出し探索者が良く探索しているダンジョンですので」
理想としては、この支部をホームにしている探索者に頼みたいそうなのだが、確実性の高い探索者が運悪く捕まらず一週間経ってしまったらしい。
「それに、そろそろ夏休みも近づいてますから……」
「……ああ」
まだ一ヶ月以上はあるとはいえ、夏休みまで倒せずにいるのは危険なのは間違いない。
今は理性ある初心者たちが、居座る猛牛を刺激せずに迂回して探索をしている。
だが、夏休みともなればとったばかりのライセンスで格好いい活躍をキメたがる無謀な若者探索者が増えるのだ。
「鬼牛がいつまで大人しくしているかはわかりません。ですが、それ以上に――」
「どんなダルいコトを想定しているのかは理解する。確かに早めの対応の方がいいだろうな」
「そうなんですよ。
夏休み前になると有名なダンジョン配信者の方たちや、探索者でなくともダンジョンに理解のあるインフルエンサーの方々が若い子向けの啓蒙配信をされるコトが多いのですが、それだって全員が聞き入れてくれるワケではありませんから」
「だろうな。それに全員が全員見るワケじゃない。見ていたとしても仲間と一緒にいて気が大きくなっている子供はそうもいかない、だろ」
「……はい」
ギルド側の懸念は理解した。
それなりに腕のある相手への指名依頼をしたいくらいには、焦っているのだろう。
セイジとしてはダルくはあるが、懸念事項を思うと放ってはおけない話ではある。
(牛型モンスターであるならば、ダン材として食べれそうだな。
それに、初心者が多めのエリアであれば、ドラレコ的な配信をしておくのもアリか)
僅かに逡巡してそこまで考えてから、セイジは小さくうなずいたのちに訊ねた。
「――退治するところを配信しても構わないか?」
「はい。それは構いません。むしろ居座っていたという証拠映像が残ってくれるのはこちらとしても大変助かります」
そう答えてから、その問いの意味に気づいたスタッフは顔を上げる。
「さすがに今日は装備も配信機材も準備が出来ていない。だからやるにも明日以降になる。それで良ければ引き受けよう」
「もちろんです! ありがとうございます!」
心底から安堵した様子にスタッフを見て、セイジは首を撫でる。
それから、安心させるように告げた。
「まぁ、なんだ。仕事と料理と配信は……ダルくてもキッチリやり遂げるのを信条としているんだ。引き受けた以上は、半端はしないさ」




