015.『隠者』と『節制』
お昼のランキングで、ジャンル別日間2位、夜のランキングで3位に入っていました٩( 'ω' )و
皆様、本当にありがとうございます!
カーテンが閉じられ、電灯の明かりも控えめな、昼なお薄暗い部屋の中。
お世辞にも健康的とはいえない雰囲気の色白な青年――サイキが、ゲーミングチェアの上で三角座りしながら、摘まむようにスマホを持ち上げて、画面を見ていた。
濡れたような艶のある黒髪を肩口まで伸ばした、つかみ所のない雰囲気の――よくいえばミステリアスで、悪く言えば不健康な印象を受ける男だ。見目が恐ろしく良いことを除くと、あまりお近づきになりたいとは思えない雰囲気をしている。
彼は、動画サイト発の覆面アーティスト『ded』の名で知られている有名人だ。
dedの世間一般的な認識は――正体不明の恐らくは男性で、歌唱はもちろん作詞作曲もできるシンガーソングライターという扱いである。
テレビ番組などにも呼ばれるほどの人気ながら、出演時は縦長モニタによる3Dアバターやシルエットだけの出演をするなど、徹底して正体を隠している。
彼の本名は、隠鉄 斎忌。
節制のセイジ。魔術師のツカサ。
二人の同級生であり、同じくタロット由来のあだ名仲間である隠者のサイキだ。
そしてセイジたちが高校時代にやっていたバンド『アルカナム』結成の主犯であり実行犯であり、他のタロットメンバーを強引に巻き込んだ挙げ句にメンバーへの確認もせず学園祭の出し物として登録したのも、全てこの男のノリと独断である。
「うんうんもちろんやるとも。しかし恩を返したい身としてはタダでも良いのに貸しと相殺だなんてやっぱりセイジは律儀だなうん。でもそれでこそセイジでもあるダルいダルい言いながら基本的に誠実だもんな。だからこそ信用も信頼もできる良い友人だとも言える」
セイジからスマホアプリ『Linker』によるメッセージで連絡が来た。
そのことに少しだけテンションをあげつつ、メッセージでやりとりした最後に、セイジから依頼が来たのだ。
届いた依頼のメッセージを見て、サイキは独りごちながらスマホを机の脇において作業を開始した。
ちなみに、依頼へのリプはしていない。するより先に作業したくなってしまったのだからしかたがない。
本人は独り言とはいえ口に出したから大丈夫だと思っているところがある。無論、何も大丈夫ではない。
「配信は見たよまぁ言いたいコトはあるけどセイジらしくて良いんじゃないかな。せっかくだから曲だけじゃなく勝手にロゴも作っちゃおうかな素材があればツカサがどうにかするだろうし。うんそれは良い気がする配信チャンネルのタイトルってなんだっただろうか」
小声の早口でぶつぶつ言いながら、パソコンに向かって作業を進めていく。
Linkerへと届くメッセージのリプのつもりで口にしているが、別にビデオ通話がオンになってるワケではないので、完全に独り言である。
そんな中で、サイキのスマホがメッセージの受信を示す音を鳴らした。
Linkerのトーク画面にはセイジからのメッセージが届いている。
[セイジ]
ちゃんと理解してるのか分からなくてダルいからレスよこせ
メッセージに対してリアルの独り言で返しててもレス扱いにはならないからな
「ちゃんと届いてるとしか思えないメッセージなのにどうしてこういうコトを言ってくるんだろうね」
画面に向かってそう返事をする。もちろん、トークモードになってないのだからセイジにには届いていない。
[セイジ]
大方俺のメッセージを見てちゃんと理解してるじゃん、と思っているだろうが勘違いだ
お前の行動を予測して返しているだけでお前がどうしたいか分かってるワケじゃない
どんなにダルくても双方の意見のすりあわせなく仕事を進めるな
あとあとを考えれば勝手に進んでる方がダルいコトが多いんだからまずはレスをよこせ
「本当に届いてないんだとしたらエスパーの類いだねセイジはやっぱりすごいやつだよ」
とはいえ、ここまで言われて返信しないほどサイキも馬鹿ではない。
マネジャーなどからも良く言われることなので、メッセージの返信というのは大事なことなのだろうという理解はある。
[サイキ]
依頼は受けるよ一緒にタイトルロゴも作っとくからツカサに加工してもらってところで配信タイトルってなんだっけ?
[セイジ]
引き受けてくれるのはありがたい
タイトルロゴも助かる こっちの分の貸しも相殺しておく
配信のタイトルは『ワ○ルドのダウナー・ジャジー・クッキング』
[セイジ]
それと いい加減 句読点かスペースか改行を覚えろ
読みづらすぎてダルい
[サイキ]
なら曲のタイトルはDowner Jazzy Cookingでいいかな うん気をつける 気をつけててもだいたい忘れるけど
[セイジ]
ちゃんとレスしてくれるだけマシだと思っておくよ
[サイキ]
そうだ こっちからもお願いがあるんだけど 聞いてもらっていい?
[セイジ]
内容次第
[サイキ]
ダンザイ料理たべたい
[セイジ]
食材リクエストはあるか?
[サイキ]
お肉がいい
[セイジ]
了解だ だが寺の子が肉喰っていいのか?
[サイキ]
実家暮らしじゃないから問題なし 高校時代から食べてたでしょ普通に実家でもお肉出てたし 家族で焼き肉屋に行ったこともある
[セイジ]
言ってみただけだ
空いている日を教えろ
それに合わせてダンジョン行ってから作りに行く
[サイキ]
いつ空いてたかな星庭さんに確認しとくね
[セイジ]
確認ついでに星庭さんには俺へ連絡するように伝えてくれ
[サイキ]
わかった じゃあ依頼やっとく
[セイジ]
頼む
〆切はないが年内にはたのむ
[サイキ]
そんな必要ないよ今月中でいけるいける
[セイジ]
そうか 無理はするなよ 倒れられてもダルい
ともあれよろしく
[サイキ]
まかせて たのしみにしといて
「やれやれセイジも心配性だなぁ」
そんなことを独りごちながら、スマホを机の端において、パソコンに向かう。
マネジャーの星庭にスケジュールの確認をすることなどすでに忘却の彼方だ。
「今月中もいらいないよね今週いっぱいあれば十分だやるぞー!」
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――そんなテンションだろうと読んだセイジは、Linkerでサイキのマネジャーである星庭 願音へとメッセージを送る。
[セイジ]
お疲れ様です 節村です
プライベートな話で大変申し訳ないのですがdedのスケジュールに関してメモをお願いします
・俺、節村からの個人的な依頼 今月中
・dedの空いている日を教えてください
会う約束をしたのですがスケジュールが分からないと言っていたので
星庭さんに確認するとdedは言ってましたが 絶対確認しないと思いますので直接確認させてください
[ネオン]
お疲れ様です
節村さんいつもありがとうございます
節村さんからのご依頼の〆切、了解しました
dedさんのスケジュールに関しては返信少し待ってください
すぐに決まりそうな案件が控えているのでそれが決まり次第返信します
ご希望の曜日とか時間帯があれば教えて頂ければ考慮しますので
ネオンに問われて、セイジは少し考える。
「会うのは納品とセットかな。それなら、今月末から来月頭でいいか。そこの午後というか夕飯時。それで、素材集めは……予定が決まったらその前日あたりで、それを配信ネタにする感じがよか」
そこまで考えて、ネオンへとメッセージを送る。
こうして、セイジは自分のスケジュールが決まっていくことに、密かな人間生活の実感を得る。
「うん。ダルいが、ちゃんと人間の生活が出来てるって気がするな」
しばらくは人間らしい生活ができそうだ――そんなことを思いながら、セイジはスマホをポケットにしまうのだった。




