011.はじめての配信
本日2話目!
:お はじまるか?
:個人勢初配信スタート時点同接200すごい
:もさ髪イケメンだ
:半分以上が荒らしくさいけどな
:なんで無名の初配信がこんな荒れてんのさ?
:それ知りたくて見ようと思ってるまである
(それはオレも知りたい……)
コメント欄に流れる視聴者の言葉を見ながら、腕時計型のドローン用デバイスで、マイクのミュートを解除する。
「初めまして。ワ○ルドです。変なマルが入ってますが素直にワルドと読んでください」
:低音イケボだ良い
:ムルちゃんに近づく気だろ
:喉仏セクシーでは?
:やっぱりお前か
:ムルちゃんに言われた程度で配信はじめやがって!!!!
「初手から荒れてる原因について説明しようと思いましたが、察していただけそうなコメントが多いので省略しても良いですか?
ざっくり言うと、探索中にした人助けが、こうなってしまっただけなんですが」
:変なのに目を付けられただけみたいね
:OK
:先月辺りにムルネキを助けてくれた人か
:そういうことか
:めっちゃ強かったですよね ありがとうございます
:配信前の人助けでコーンに目を付けられちゃったのね
:大変だ
:ダン配コーンは人命救助の時は目を瞑るどうした?
:この人が助けた配信者のファンは目をつぶれる人が半分くらいなのよ
:昔からダンジョン配信をリアルなゲームかVRの配信と思ってるやついるしなぁ
:ダンジョン配信をメインにしている勢はROM専含めて啓蒙できているとはいえ一般系からやってくる人は知らないし
:ゲームの出会厨と思い込んでるやつらなんているんだ。。。
:危機感ねぇわけだ
:リアルでこんなのあるわけねぇのにリアルだと思ってる連中ってバカばっかりだよな
:マジで死ぬと思ってないんだよな
「さっそくの補足助かります。口下手なところがあるので、補足してくれる人がいると面倒がなくていいです」
:メカクレ、イケボ、気怠げ、百点満点です!!
:もうすでにシチュボがほしい!
「さて配信の方針ですが――この通り、あまり口が上手くないので、基本的には普段の探索風景を垂れ流してく感じになるかと思います。それと要所要所で雑談とかはするかもしれないですが、そちらは余り期待しないでください」
:喋りは落ち着いてて聞きやすいですよ
:ムルちゃんの紹介からきました
:先日はムルネキを助けて頂きありがとうございます
:ムルちゃんから離れろ!
:くたばれクソもじゃ!!
「ああ――先日、オレが助けた窟魔ムルさんが、助けてくれたお礼としてWarblerで紹介してくれたようですね。ありがとうございます」
:そのおかげで大量の荒らしが湧いてるけど
:この荒れっぷりは良いの?
:お前がムルちゃんの名前を呼ぶな
「荒れるのは良くはないですけど、無名の初心配信者の接続数稼ぎとしては悪くないかな、と。
後ろ盾のない無名の配信者が急に炎上しているというのに興味が湧いて、様子を確認しに来た人も少なからずいるでしょう? だから言わせてください。来て頂いてありがとうございます」
:淡々としたたかだw
:荒らしも数字扱いで草
「それに、先日オレの知人のチャンネルがオレのせいで荒らされかけましたからね。
あの時のコトを思えば、オレのチャンネルが荒れる分には、問題ないですよ。純粋に見に来てくれてる人には大変申し訳ないけど」
:うわ
:お前がムルちゃんに近づいたのが悪い
:そういうことか
:もしかしてワ○ルドさんっておしゃれダンジョンに出てた節制さん?
:友達のチャンネルを守るためのタンクでもあるのか
:ワルニキは節制ニキだったか
:同情込みだけどチャンネル登録とイイネしとくわ
:ツカサさんのところの人ならチャンネル登録しちゃう
「ともあれ、配信に挑戦するか迷っていたところだったので、決心するにはちょうど良い出来事でした」
:ダウナーニキが良いやつすぎる
:チャンネル登録しといた
:同じムルファンとして大変申し訳ない
「ムルさん本人や、ムルさんファンの多くからの謝罪は要りません。
逆に推しであるムルさんや、仲間であるはずの他のムルさんファンに多大な迷惑をかけているのに無自覚な方々には、己を省みて欲しいところではありますが」
:コメント欄見る限り無理だろなぁ
:分かってないんだろうな
:ワ○ルドさんは気にしなくていいんじゃね?
「――とまぁ予定よりも長々と喋ってしまいましたね。そろそろ探索に行きたいと思います」
:OK
:ご安全に
:どういう探索になるのか気になる
「探索中はほとんど喋らなくなってしまうと思いますが、ご了承ください」
・
・
・
:なんというか
:本当に喋らないな
:喋らないどころか音がほとんどないな
:静かだ
コメントにある通り、ワ○ルドことセイジは、淡々とダンジョンを進んでいく。
まるでマイクがミュートになっているかのようだ。
だが、風の音や、木々のざわめき、セイジの服の衣擦れなどはマイクが拾うので、ミュートではない。
足音は少なく、呼吸も静か。
本当に淡々とした、自然音だけの探索風景が流れ続けている。
そうはいってもここはダンジョン。
時折、モンスターとも遭遇するのだが――
「疾ッ」
呼気と共に手がブレたと思うと、モンスターの首が飛んで地に伏せる。
――この通り、一瞬で討伐してしまうので、撮れ高としては微妙だ。
:居合いはカッコイイ
:カッコイイ以前に見えない
:つまんね
:抜刀術とか鳴鐘のパクりかよ
:居合い使ったら居合い使いの有名人のパクリとかアホか
:横から見たときの喉仏がえっちすぎる
:こんなつまんねーなら止めちまえ馬鹿が
:この静かな感じなんか落ち着く
:コメント欄はまったく落ち着かないけどな!
探索中はドローンの頭部に表示していたホロウィンドウも消しているので、セイジはコメント欄を確認できない。
セイジの場合は、コメント欄の表示をオフにした時点で、完全にコメントに対する意識が消えてしまっているところはあるのだが。
「いた」
:突然いい声やめろ
:気怠げなのに嬉しそうな感じ滾る
「今日は、あれがターゲット」
思い出したかのように、そう口にして、ドローンのカメラをそちらに向けた。
:なんだ?
:食われて死ねばいいのに
:空飛ぶ魚?
:だいぶデカイが
「羽ばたき鰹。別名叩き上げ魚」
:なんだその別名
:カツオなんかあれ
「デカくて早いので体当たりそのものが凶器みたいなやつです。
さらには獲物の足下付近まで一気に潜り込み、勢いよく突き上げる攻撃が恐ろしいほど強いので、叩き上げという意味もあったりします」
:へー
:見た目は面白い
:叩き上げではなくカチ上げでは?
:羽みたいなヒレがなかったらただの鰹っぽいけど
「なお生きている時は火炎系の攻撃に対して耐性があるから、属性系の技の使い手は注意が必要」
:あの見た目で?
:炎上耐性持ちかー
:この配信にぴったりだな
「でも生きている時にじっくり火炎系攻撃で炙ると良い匂いがする相手でもある」
:ちょっ笑
:おいw
:草
:急に食欲が見えてきた
:この配信の炎上じゃあ炙れなくて残念だ
「まぁ死んでても火で炙るのは悪くない」
そう告げたタイミングで、羽ばたき鰹はセイジの存在に気がついて身体を向き直らせた。
:草草
:あれ?流れ変わってない?
:もしかして食べる気?
:気づかれたのに不安を感じないww
:そういやムルちゃんにジンギスカンふるまってたな
:ダン材料理人でござったか
:二度とムルちゃんはお前の料理くわねーよ
:ダン材料理人は探索者としての腕前も良い人多いけどさてニキはどうかな?
:ダン材調理配信ならそう説明しようよ!
:良く見たら配信タイトルにクッキングってついてるじゃん
:○ニキ!説明が色々足りてないよ!!
そうして、セイジは体当たりしてくる羽ばたき鰹を見据え、スキルの発動宣言を行う。
「武技:三光刹」
そして――
「吹ッ!」
:え?
:かつおがきえた?
:わざとらしいやらせ
:いやその前に三枚におろしてなかった?
:早業過ぎて何がなにやら
:今のアーツは居合い系の三連攻撃スキルだな
:連続というか同時に斬撃が出る技というか
:有識者乙
:こんなトロそうなヤツがそんな技使えるワケねぇだろ
――鋭い息吹と共に、斬光を閃かせると、空中にいる羽ばたき鰹を三枚に下ろして、地面に落ちるより先にSAIに収納するのだった。
本日はここまで٩( 'ω' )و




