05:4 - 叩きつけられる怒りにて
素人の俺たちは玄人に言われるがまま削岩車に電気信号を送り続ける。俺だってこんな特殊車両には全く興味がないクチだが、指示役一人が理解さえしていれば問題は何も起きない。今の俺は指示を忠実に実行するだけの機械、もっと言えばその機械の中の電子回路というような心持ちで手を動かしていた。顔は一切見えないが、さっきの一言以降は不平も言わなくなったイスルギも多分同じなんだろう。
と、ここで操縦席の右後方あたりに大きな衝撃が走り、金属製の窓枠が残響で震えるのが聞こえた。首を捻って後方右側の窓を見上げてみると、先ほどの銃撃を耐え切ったはずの窓ガラスに大きなヒビが入っている。窓に突き刺さって飛び散った「何か」の欠片は高強度のガラスが防いでくれたものの、少なくとも砲弾を撃ち込んだレベルの威力のということだ。
俺は立ち上がって、背後のイスルギの頭を押しのける。
「うおっ、テメ——
「悪りぃ!」
慌ててイスルギを押しのけて窓の外を見てみれば、窓の向こうの奥の方でフチザキがこちらを凝視しているのが一瞬だけ見えた。
……アイツも謎だ。イスルギ組を始末するまでは未だ分かる。でも他の部下たちもまとめて始末するのはどう考えてもやりすぎだ。撃たれて平気だった件も含め、この男にはもっと裏に別の思惑がありそうな気がしてならなかった。愛機に攻撃されてご立腹なラッシュの舌打ちが聞こえる。
とはいえ、今の一瞬でどうこうできる問題でもない。いま気にすべきは目の前で浮上しようとしているクラフト一隻。別の一隻取り逃しているのにこうやって向かって行くことに意味があるとはあまり思えないが。
「アキ、顔出さない‼︎ 首痛めるよ!」
珍しくラッシュから怒鳴り声が飛んでくる。普段温厚な人間が急に語勢を荒らげるのは……こう、中々に怖い。気圧された俺が急いで首を引っ込めたのを確認すると、ラッシュは続けた。
「あと、揺れるから舌噛まないようにね!」
そう言うが早いか、ラッシュは削岩車のアームを勢いよく振り下ろし、先端のドリルを大地へとまっすぐ突き立てた。地面と鋼鉄の強烈な衝突音が辺りを揺るがしてから、突き立ったアームが軋み声を上げた。アームの先端部にあるドリルの針山の針一本一本が地面にめり込んでいく。
当然ながら動く物体は急には止まれないワケで、地面に刺さったアームはつっかえ棒のように削岩車の巨躯を押し上げる。二五メートルある車体との傾きが大地と三〇度ほどの角度になるまで持ち上がったところで、ラッシュが握るアームの操作レバーは旗下にある鋼鉄の腕を生きているかのような動きで方向を根本から一八〇度転換させ、その先端で輝くドリルが一瞬だけ高々と空へ掲げられた。浮き上がった車体から伸びるアームのリーチは、当然浮いた一四〜五メートル分だけ高く伸びることになる。そして削岩車の眼前には、浮かび上がる寸前だった始末屋のクラフトが動き出したエンジンにより竦み上がるように微かに振動していた。
頭をもたげた蛇が大地に身を横たえるように、削岩車は前に向けて倒れ込み、掲げていたドリルもまた容赦無く振り下ろされる。凄まじい接触と着地の轟音、クラフトの爆発音が辺りに谺して、灼熱の衝撃波が周囲の砂粒を炙った。音が収まる頃には、クラフトは見るも無残な大地のシミと化した後だ。
そして炎の中から、満身創痍という風体ながらも何とか走行を続ける削岩車が現れる。
ラッシュのオーバースペック改造癖がこんな形で役に立つと思わなかったが、何はともあれあんな無茶してこの車がまだ走行可能なのは紛れもなくコイツの”重”改造主義のおかげだ。叩き潰したクラフトの浮力がクッションの役目を果たしたことを差し引いても、普通あんな衝撃を加えたら車軸が折れる。
ちなみにこの時の運転席は、落下の際に頭部を強打した俺の苦悶の叫びが響いている最中だった。イスルギはというと、どうもシートの座面の上にある足と天井に添えた両手とで踏ん張ることで頭部を庇い切ることに成功していたらしい。ラッシュは運転席でシートベルトとエアバックに抱きとめられていて大丈夫なんだろう。畜生、ずるい。
『嘘、ヤバいヤバいヤバいヤバい!』
拡声器越しの始末屋女がモロに焦り始めた。そりゃそうだ、不意打ちで沈められた一機目までくらいは予想できたかも知れないが、容易に逃げ切れると思っていた三機目まで目の前で派手にブッ潰されたんだから。まだ声が聞こえると言うことは、放送の女が乗っているのは二機目か。その二機目は弾かれたように急上昇していくところだった。光学迷彩が起動させる甲高いチャージ音が遠くで聞こえる。
闇雲でも逃亡者を追うべく削岩車の向きを右回りで反転させたところで、今度は頭上……つまりフロントガラスに砲弾でも撃ち込まれたかのような衝撃が走った。小さいが頑丈な石ころが砕けるくらいの威力であることも先ほどと同じ。頭が無事ってことはガラスはヒビが入っただけか。またラッシュの舌打ちが聞こえてくるかと思いきや、今度は様子がおかしい。何と言うか、絶句している感じというか。
「ちょっ、えっ……あれ浮いてる?」
何か変なことを言い出したラッシュに反応して俺も思わず首を伸ばす。そしてフロントガラスに走るヒビとヒビの隙間から見たフチザキは確かに浮いていた。
……生身で。




